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日本のCIOおよびIT部門への期待値の変化

テクノロジーのトレンドを踏まえて

テクノロジーのトレンドを踏まえて、今後日本のCIOおよびIT部門に求められる期待値や役割がどのように変わるかを考察したい。考察するにあたり、CIOへの期待値を分類する枠組みとして、デロイトの2015 Global CIO Surveyに定義されている3つのCIOのレガシーパターン「頼りになるオペレータ」「変化の立役者」「事業の共同創作者」を使って話を進めることにする。

はじめに

3つのCIOのレガシーパターン

テクノロジーのトレンドを踏まえて、今後日本のCIOおよびIT部門に求められる期待値や役割がどのように変わるかを考察したい。
それぞれにつき、本稿で意味するところは以下である。考察するにあたり、CIOへの期待値を分類する枠組みとして、デロイトの2015 Global CIO Surveyに定義されている3つのCIOのレガシーパターン「頼りになるオペレータ」「変化の立役者」「事業の共同創作者」を使って話を進めることにする。

名称 役割・期待値 主要な効果
頼りになるオペレータ オペレーションの効率化 コスト削減
変化の立役者 テクノロジーによる業務変革、顧客価値創造 コスト削減
売上向上
事業の共同創作者 テクノロジー観点での戦略のリード、施策実行 売上向上

 

上記3つのパターンを利用して、経済産業省の平成26年度「情報経済社会における基盤整備(情報処理実態調査の分析及び調査設計等事業)」の調査を参考に、近年の企業動向を参考としながら、日本のCIOおよびIT部門に求められるものがどう変わるかを考察していきたい。

頼りになるオペレータ

アウトソーシング戦略

クラウドコンピューティングの浸透、SaaS、IaaS、PaaSサービスの充実により、オペレーション業務の外注化のハードルが下がってきた。このことにより、業務オペレーションを支えるシステムの導入、および保守・運用を行うCIO・IT部門においては、一層どの領域をアウトソーシングするべきかの識別が重要になってくるのではないかと思われる。一般的に、会社の業務の根幹部分となる業務プロセスや根幹部分を支えるシステムはアウトソーシングできないし、してはならないと言われるが、労働集約的なオペレーション業務やオペレーションを支えるシステムについては、うまくコスト削減に結び付くならアウトソーシングしてコスト削減を検討するべきである。

近年、ビジネス・プロセス・アウトソーシングはかなり一般的なものとなった。また、経済産業省の調査によれば、クラウドコンピューティングの利用形態も、以前はSaaSが中心であったが、PaaS/IaaSの利用が近年急速に伸びている。

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また、SaaSの利用もグループウェア・文書管理といった一般的なサービスのみならず、財務・会計、人事・給与、調達等業務オペレーションそのものでの利用が近年拡大している。

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こういった状況を踏まえ、CIO・IT部門はマーケットにどのようなサービスが登場しているか、自社で利用できそうなものがあるかについてアンテナを張っておく必要があるだろう。

その一方で、業務システムの運用のうちどの部分をアウトソーシングし、どこを内部リソースで実施するのかの見極めも重要となる。クラウドコンピューティングの進化は、労働集約的な要素の大きいシステム運用の作業に内部のリソースを割かなくてもよい可能性を高める。

しかし、よく見られる現象として、インフラの知見を持ったメンバーが社内に全くいない状況で、外部業者をうまく使いこなすことができずにむしろ業者に「骨抜きにされる」ケースがある。サービスを効率的に、費用対効果の高いやり方で使いこなすためには、社内で外部業者に物申せるために最低限のインフラ・運用等に関する知識を持ち、自社のインフラ運用要件を理解しているメンバーが必要である。そういった意味で、アウトソーシングの可能性が広がることは、CIO・IT部門がより一層しっかりしたアウトソーシング戦略を求められることに直結すると言えるだろう。

 

費用対効果を意識したIT導入計画立案・実行

アウトソーシング戦略ともつながる話であるが、CIO・IT部門の機能の中で最も外注化が困難なのは、自社の戦略における優先順位や業務における重要性を理解し、システム投資の優先順位を決定する機能であろう。テクノロジーの進化によりアウトソーシングが容易になればなるほど、よりシステム投資を検討する機能の重要性は大きくなると考えられる。

その機能をCIOやIT部門が持つかどうかは、各企業の特性によると考えられる。経済産業省の調査によると、日本企業のCIOの84.1%が予算権を持っているようであり、重要なCIOの役割と言える。

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また、IT投資の効果を出すために、目的の明確化が如何に重要かを示すデータがある。IT投資の目的を「投資の意図」として明確に意識していたケースでは、投資の効果について「実際の効果があった」「実際の効果がどちらかといえばあった」という回答が9割に及ぶのに対して、投資の目的を明確に意識していなかったケースにおいては、効果があったとする回答は1割にとどまったとのことである。

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経営活動の中でテクノロジー導入によってどのような効果をもたらすのか、明確にビジョンを示し、実行まで導けるリーダーシップがCIO・IT部門に対して求められるようになると言える。

変化の立役者

テクノロジーを利用した業務改善の実現

CIO・IT部門の業務の中で、次に外注化が困難なのが、テクノロジーを使った業務改善ではないかと考える。経済産業省の調査結果を見ると、68.5%のCIOが役割として「業務改革」を期待されている。

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この役割は、一部コンサルティングやSIer等の外部業者に委託することは可能であったとしても、会社事業の根幹をなす業務を支えるシステムについて熟知している担当者をIT組織の中に育成しない限りは、外部業者をうまく使ってシステム開発、保守・運用をすることは覚束ない。業務・システムを理解しているメンバーが内部におらず、昔からいる外注の保守担当者に任せきり・頼りきりとなってしまっていることが、思い切った業務改善やシステム刷新の足かせとなっている企業は多いのではないか。

仮に業務システムの大半をSaaSなどのサービスによって外に出すことができたとしても、業務オペレーションやその戦略上の重要性を理解しているメンバーが社内にいない状態を作り出すことは、企業経営における大きなリスクとなる。むしろテクノロジーの進展が進むほど、CIO・IT部門にとって業務オペレーションやその戦略上の重要性の理解の重要性は増すと見られる。

 

テクノロジーによる顧客、取引先等との接点創出・改善

Internet of Things、Virtual Reality等の技術の進展が示すのは、どのようなビジネスにおいてもテクノロジーをどのように業務に生かすかを考えることが必須になったということであると考える。

経済産業省の調査結果を見ると、インターネットを顧客、取引先等との接点として利用する企業は増加の一歩を辿っている。 

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特に、Virtual Realityがどのようにカスタマーサティスファクションの向上、カスタマーエクスペリエンスの変化に結び付き得るのかは、どの企業においても検討の余地がある事項であろう。

テクノロジーを担うCIO・IT部門として、マーケットやコンペティターの動向を踏まえ、競争力を高めるためにテクノロジーを利用した顧客、得意先等との接点の創出や改善につき、自ら提案し実現することは大きな役割・期待値であると言える。

事業の共同創作者

新規事業・サービス開発への関与

Internet of Things、Virtual Reality等の技術の進展を顧客、得意先等との接点の創出のみならず、新規事業や新規サービスにも結びつけられないかを検討することは、どの企業にとっても喫緊の課題であるだろう。それは一義的にはCIO・IT部門ではなくCTO(Chief Technology Officer)やR&D部門の役目であるかもしれないが、この部分に関するCIO・IT部門の貢献の余地は無視できないと考える。

例えば、テクノロジーのサービスを販売する企業では、最良のユースケースとして、自社での導入事例を紹介し、成功体験として紹介することが非常に一般的である。どのような企業でもテクノロジーの利用によるサービスの提供・改善を考える必要がでてきた昨今、CIO・IT部門として、企業ユーザに最も近い立場から、サービスの考案に関与し、改善案を検討することは、企業全体からの大きな期待値となり得る。

図6「CIOの役割」において、現在CIOに「新サービス・事業の開発」を求めている企業は全体25.3%であるが、業種別に比較すると大きく差がある。新聞・出版業が72.7%と最も大きくなっており、その次が医療業50.0%、教育、学習支援業41.7%となっている。

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これは、紙のメディアが急速に電子媒体に取って代わろうとしている状況を反映した結果であるだろう。新聞、出版の主流は急速に電子版新聞・書籍に置き換わろうとしている。医療分野でも電子カルテの活用、クリニカルデータの利用など、患者の個人情報の電子化の動きが激しい。教育産業においても、事業へのタブレットの導入やデジタル教科書の利用等、サービスを考える上で最新テクノロジーを意識せざるを得ない状況になっていることの表れだろう。

今後のInternet of Things、Virtual Reality等の技術の進展により、他の業界においても既存の売り方、サービスの在り方を最新テクノロジーの観点で見直すことが求められるようになり、CIO・IT部門への期待値となっていくことだろう。

おわりに

本稿の内容をサマリーしたのが以下の表である。

名称 役割・期待値の変化
頼りになるオペレータ ・アウトソーシング戦略(外注化してコスト削減すべき領域、
 外注化してはならない領域の区別)の重要性が高まる
・費用対効果を意識したIT導入計画立案・実行の重要性が高まる 
変化の立役者 ・テクノロジーを利用した戦略上・業務上の優先事項を実現
 させる力量がより求められるようになる
・テクノロジーによる新たな顧客・取引先等との接点の創出、
 改善につき、提案力が求められるようになる 
事業の共同創作者 ・新規事業・サービス開発への関与に対する期待値が高まる

 

上記の役割・期待値の変化を踏まえてのCIO・IT部門への提言として、以下の3点が挙げられる。

1. 事業戦略の考案に、より積極的に関与すること

2. マーケットの変化や競合他社、類似サービスを提供する企業等のテクノロジー利用について情報を収集しつつ、自社での適用可能性を検討すること

3. 最新テクノロジーの深化状況を注視し、テクノロジーの視点からの顧客サービス、社内業務の改善余地について考える視座を持つこと

上記は、時として全体が外注可能などと言われがちなIT部門が、テクノロジーを担う組織として存在感を放ち、役割を果たし、社内からの尊敬を勝ち得ていくために必要なことであると考える。

 

出所:「平成26年度我が国情報経済社会における基盤整備(情報処理実態調査の分析及び調査設計等事業)」(経済産業省:2016年3月12日)

i 調査報告書74ページの表を利用

ii 調査報告書75ページの表を利用

iii 調査報告書17ページの表を利用

iv 調査報告書25ページのグラフを利用

v 「集計表」の概表3-2-1を利用しグラフ作成

vi 調査報告書17ページの表を利用

vii 調査報告書29ページの表を利用

viii 「集計表」の概表2-2-2を利用しグラフ作成

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