Future of Work 新しい地図を手に入れよう|Deloitte AI Partners vol.1 ブックマークが追加されました
Deloitte AI Institute(以下、DAII)は、グローバルで約6000人が所属している、AIの戦略的活用およびガバナンスに関する研究活動を行うプロフェッショナルネットワークです。国内外のAI専門家やデロイト トーマツの様々なビジネスの専門家と連携することで、AIによるビジネスや社会の変革と、人々に信頼されるAIの実現を支援しています。
本連載「Deloitte AI Partners」では、デロイト トーマツにおける各領域のリーダーとの対話を通して、AIを単なるビジネスやサービスを強化するだけの道具という位置づけから、多様なステークホルダーに価値をもたらす全く新しいビジネスモデルやエコシステムを実現するエンジンへと進化させるためのヒントをお届けします。
今回は、デロイト グローバルで「Future of Work」オファリングをリードするニコル・スコブル=ウィリアムス(以下、ニコル)と、Deloitte AI Institute 所長の森正弥(以下、森)に、デロイト トーマツ コンサルティングのスペシャリストである若林理紗がインタビュー行いました。
新型コロナウイルスの影響で変化を余儀なくされた私たちの働き方の未来にあるべき姿とは?
――早速ですが、「Future of Work」とは何なのか、どのようなビジョンや取り組みなのか教えてください。
ニコル:Future of Workとは、人々のテクノロジーの共存、協働を通じた「人間中心の働き方」の実現と「生産性およびエクスペリエンス」の向上を通じて人間のポテンシャルを最大化させながら働くことのできる未来を構想する取り組みです。
進化するテクノロジーや雇用/労働モデルによって、仕事や労働力、そして職場の在り方がどのように変化していくのかを考えています。言い換えれば、仕事を完遂するうえでの人間とテクノロジーの新たな役割分担、労働者と雇用者の新しい関係、そして、職場はもはや「場所」ではなく、「どのように働くか」という考えにおいて、私たちができる選択のことです。
組織が考慮すべき仕事の未来像や取り組みについて考えるとき、特に現在のようなコロナ禍の状況においては、アルバート・アインシュタインがかつて言った「新しい世界を探検するのに古い地図を使うことはできない」という言葉が参考になります。Future of Workのビジョンは、メンタルモデル、ビジネスモデル、人材モデルの3つの次元の再定義を行うことに注力し、新しい地図を示していくことです。
――Future of Workにおいて重要となる要素は何でしょうか?
ニコル:労働者と雇用者の新しい関係や雇用モデルに基づいて、デジタルとリアルを横断するハイブリッドな働き方を取り入れることです。組織によっては、創造的破壊が求められる世界で永続的に成功するためのビジョンと戦略の再定義や、競争上の優位性となるグローバルモビリティ(国際間人事異動)の役割の再定義により、新しい戦略やオペレーションモデル、タレントモデルを開発するなどの具体的な取り組みが必要となります。
また、従業員の潜在能力と生産性を引き出すためには、社内にタレントマーケットプレイスを導入し、アジャイルな意思決定を促し、従業員の職務内容や組織図上の位置に関係なく、従業員を適切な仕事に配置することも重要となるでしょう。
森:物理的な空間とデジタルな空間を融合した新しいハイブリッドな方法を実現するためには、生産性を高め、価値を最適化するために、労働力とHuman Experience(人間としての体験)をデジタル化する必要があります。また、俊敏な意思決定を行い、適材適所の配置を行うためには、データの活用が肝になります。従業員の経験、実績、スキル、キャリア志向、プロジェクトの内容などを考慮して、従業員のポテンシャルを高めるアサインメントが実現されます。
――素晴らしいビジョンですね。具体的な事例を教えてください。
ニコル: 私が素晴らしいと思っている取り組みのひとつは、英国カンタベリー地区保健局(CDHB)における病床からの呼び出しコールに応答する介護従事者の仕事の再構築です。CDHBは、患者と介護士のために何を達成すべきなのかを再考し、介護士が人間にしかでない仕事に集中できる環境を整備し、デジタルの活用によって生まれた時間で職員の能力を高めるというこれまでにない新しい価値を生み出しました。
具体的には、CDHBはServiceNowというツールを利用して介護職員にエンタープライズ・エンゲージメント・プラットフォームを提供し、人事とITのサービスマネジメントを統合することで、AIによる音声でのナースコールシステム、予約受付管理システム、フルモバイルのオーダーメイドリクエストサービスなどを試験導入し、働き方の改革をしました。
この統合プラットフォームは、患者の要望に応えるために組織全体のコラボレーションを促進し、従業員に仕事の進め方に関する信頼と選択肢を与え、彼らが提供するケアの質と患者体験を向上させます。その結果、生産性は29%向上し、介護士の能力を適切な時間に適切な仕事に振り分けることができるようになりました。その舞台裏では、ServiceNowのプラットフォームが、休暇や福利厚生管理などの人事取引をデジタル化し、自動化を活用して承認を迅速化し、適切な権限とチームで処理することで、人事タスクを効率化し、Workforce Experience(労働体験)を向上させました。
AI、プラットフォーム、モバイルアプリを使用して患者と従業員の体験を再構築することで、CDHBは組織全体で8万322時間の労働時間を有効活用することができました。最も重要なことは、これら取り組みが従業員の帰属意識に影響を与え、その生産性を高めることで、患者の体験を改善し、組織の目的を前進させることに繋げたことです。
これこそがFuture of Workの目指すところであり、人間とデジタルのコラボレーションによる新たな組み合わせを創造し、可能性のアートを解き放つことなのだと思います。
――テクノロジーは、こうしたイニシアチブを推進するうえで欠かせない要因のひとつとなっていますね。
森 :いくつかのテクノロジーが大きな役割を果たしていくのは、確かです。
例えば、高速かつ大容量の5Gは、職場でのさまざまなコミュニケーションやドキュメントワーク、コラボレーションをより充実したコンテンツに変えられることで、生産性の向上が期待されています。また、ARやVRを活用することで、従来のコンピュータ画面に描かれた2Dのデザインや設計図、製品モデルに頼らず、3Dモデルを使ってプロジェクトを進めることも可能になってきます。そうした中でまた、DXの流れは企業のシステムを変えるだけでなく、IT環境や従業員の体験を改善して働き方を変えていくものだという認識が、企業の中では非常に高まってきていると思います。
――新型コロナウイルスにより、私たちの働き方も多様化し、これまで職場でしていた多くの仕事がオンラインに移行しました。この変化をどう見ていますか?
ニコル: 新型ウイルスによる大きな変革は、これまでになかった選択肢を発見したことです。
例えば、リモートワークによって生産性を向上させることができることが分かりました。直接人に話を聞くこととデータを分析することを通じて、どこに力を注ぎ、どこに投資すべきかを理解することができました。
労働者と雇用者の双方が、今後もハイブリッドな働き方を維持したいと考えていると思います。しかし、それがどのように進化し、どの程度のものになるかは、従業員がどこでどのように仕事をするかについて選択肢と柔軟性を得られるような新しい働き方をどのように設計するか、また、従業員やチームがレベルの選択肢と柔軟性を持って仕事をすることでパフォーマンスと生産性を向上させることができるような信頼と確信の文化をどのように構築するかにかかっていると思います。信頼と確信の文化を築き、包括的なリーダーシップを発揮することは、ハイブリッドな働き方への持続的なアプローチを可能にするための基本であると考えています。
森 :日本では、一部のIT企業や先進的な企業が、ハイブリッドなワークスタイルを維持するためのさまざまな施策を始めています。リモートワーク手当の支給、オフィスを従来の固定席からフリーアドレスに変更する、デザイン思考のアプローチを取り入れたクリエイティブな空間に変更する、ベンチャー企業とオフィスを共有するワークスペースに移行するなどです。しかし、見かけだけの行動ではなく、会社として理想の職場や働き方を実現するためには、社員を信頼し、意志を持つことが必要だと思います。
――その他、どのような変化があげられるでしょうか。
ニコル :この1年間の変化で発見した最も興味深いことは、組織が活用できていない最大の資産が「人間の潜在能力」であるということです。
私たちは、従業員を雇った目的を超えた、彼らの潜在能力や情熱に注目したときに達成できること、つまり「可能性のアート」を目の当たりにしました。これにより、役職や組織図上の位置に関係なく、適切な人材を適切なタイミングで適切な仕事に結びつける組織能力が急速に変化しています。社内のモビリティ、特にグローバルモビリティは、多くの企業にとって新たな競争力を引き出すための戦略的な優先事項として浮上しています。
――今後企業が未来の職場のためにすべきことはなんでしょうか。
ニコル:最初にお伝えしたように、未来の職場とは、もはや場所ではなく「どのように働くか」ということです。
企業は、ハードとソフトの両面で考えるべきです。ハード面の整備とは、去年の混乱を生き残るために注目されたもので、テクノロジーツールやコラボレーションプラットフォーム、そしてリモートワークポリシーの導入などが挙げられます。
一方のソフト面は、ハイブリッドな働き方を維持することを選ぶ場合、今年以降、重点的に取り組むべきこととなります。それは、物理的な空間とデジタルな空間を跨ぐ新しい仕事のやり方やチームワークを導入すること、パフォーマンス管理や報酬・表彰制度を新たなハイブリッドモデルに合わせて調整すること、そして重要なのは、個人やチーム、組織全体が生き残るためのリーダーシップ能力や信頼と信用の文化を構築することなどです。
――それらを実現するために必要不可欠となる要素は、何でしょうか?
ニコル:企業が持続可能なハイブリッドワークモデルの導入を成功させるためには、おそらく包括的なリーダーシップが最も重要な要素になると感じています。なぜならば、強力で包括的なリーダーは、チームが繋がりと集中力を保ち、チームのパフォーマンスと成果に自分の能力を最大限に発揮できるように 指揮する必要があるからです。
このようなリーダーシップを発揮することで、チームメンバーがどこでどのように働くかを柔軟に選択できるような信頼と信用の文化を構築し、メンバーとチームが繁栄し、創造する価値を最大限に高めることができるのです。
職場だけでなく、もっと広く見ると、2021年の「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド 2021」の調査では、永続的なディスラプションの世界で組織を率いる能力に最も重要な優先事項は、①人材の適応能力、スキルアップ能力、新しい役割を引き受ける能力、②迅速な意思決定を容易にする方法で仕事を組織化し管理する能力であると考えていると、経営者たちは語っています。企業の経営者がこれらの能力を組織にもたらすことができるかどうかが鍵となると思います。
――最後に、メッセージをお願いします。
森:先進的な改革に取り組んでいる企業が出てきています。現在の環境を踏まえ、今後どうすべきかを見据えて、リモートワークをしやすくするためのルールやシステムだけでなく、さまざまな働き方の変革に着手しています。企業においては、これからの働き方のビジョンを定め、デジタル化やAI、さまざまなテクノロジーを活用して、社員やビジネスパートナーの仕事やコラボレーションをよりスムーズに、よりスマートにするとともに、優秀な人材を獲得し、次のステージに進むことが重要です。
ニコル:新型ウイルスによって引き起こされた現在の厳しい状況は、未来へのタイムマシンを生み出し、仕事の再構築、労働力の開放、職場の再定義の必要性を浮き彫りにしています。これからの未来は、「選択」がすべてです。私たちは、新しい機会と可能性を引き出すために、ディスラプションを触媒としてどのように利用するかを選ぶ必要があります。このチャンスを逃さないでください。今日の選択は、人々にとってより良い仕事と職場を実現するためのものであり、組織が今後も繁栄するためのものになると確信しています。
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松尾:AIの技術は、単独で「価値」に結びつけることが難しく、戦略的な思考と合わせることで価値に結びつけることができると感じています。また、戦略的な思考というのは、アカデミアや業界、サプライチェーンなどの大きな枠組みが必要だと思います。そういう意味でも、Deloitte AI Instituteの取り組みは、潜在的に大きな可能性を秘めている。
ガバナンスという観点も、本当にわくわくします。新しいプレーヤーもどんどん参入してくるでしょう。スタートアップやベンダーとの連携や、デロイト トーマツ グループとのAI人材の連携などで、可能性は大きく広がります。
森:コミュニティをどうやって作っていくのかということも重要と思っています。コミュニティに参加することで、ベストプラクティスが学べたり、機会を共有したりすることができます。その上で、社会の価値を実現していくという場を用意することができれば、Deloitte AI Instituteの試みは推進していくでしょう。コミュニティを作るという点では、日本ディープラーニング協会では「合格者の会」という大きなコミュニティを擁していますよね。
松尾:僕自身は応援と期待をするばかりですが、合格者の会は熱量が高いので……。ただ、AIの組織を牽引するリーダーに必要なのは、(1)明るいこと、(2)細かいことをあまり言わないこと、(3)調整はきちんと行うことの3つ。この3つの条件をクリアできるリーダーがいれば、組織は回るし、人も集まってくる。森さんはこの3つを備えているので、Deloitte AI Instituteの成長が楽しみですよね。
森:ありがとうございます。AIをどういう風に活用していくのか、社会の価値に変えていくのかという事を考えると、さまざまな方法論や知見を組み合わせていく必要があると思っています。様々な専門家や当事者が参加し、それぞれの能力と熱量を組み合わせて連携し、結果が出せれば、もっと大きな変化が起きるはず。そういった意味では、ファシリテーション力が問われる場になるかもしれません。そこは頑張りますので、ご興味のある方は是非Deloitte AI Instituteアクセスください。
Deloitte AI Institute 所長 アジア太平洋地域 先端技術領域リーダー グローバル エマージング・テクノロジー・カウンシル メンバー 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。 東北大学 特任教授。東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問。日本ディープラーニング協会 顧問。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社)、『パワー・オブ・トラスト 未来を拓く企業の条件』(共著:ダイヤモンド社)がある。 記事:Deloitte AI Institute 「開かれた社会へ:ダイバーシティとインクルージョンの手段としてのAI」 関連ページ Deloitte AI Institute >> オンラインフォームよりお問い合わせ
Deloitte Global Future of Work オファリングのAPACにおけるマーケット導入リーダー。 多数業界/地域にわたる20年以上のITおよび人事コンサルティングの経験を有する。”Future of Work”のビジョンを企業、事業、テクノロジー、人事戦略に埋め込む支援を官民両分野において実施。 「Point of View on the Shift from Survive to Thrive in the Accelerated Future of Work」や「Global Human Capital Trends Report」の執筆チームの一員として、仕事の再構築に向けた個人、チーム、組織のパフォーマンスの最大化を解説。国内外で基調講演、会議、講演イベントに登壇し、"Future of Work"の社会への浸透に取り組んでいる。 関連サービス 働き方改革 >> オンラインフォームよりお問い合わせ