Posted: 02 Mar. 2022 10 min. read

AIをエンジンとして変革に挑戦する企業

Deloitte AI Partners│vol.3

Deloitte AI Institute(以下、DAII)は、グローバルで約6000人が所属している、AIの戦略的活用およびガバナンスに関する研究活動を行うプロフェッショナルネットワークです。国内外のAI専門家やデロイト トーマツの様々なビジネスの専門家と連携することで、AIによるビジネスや社会の変革と、人々に信頼されるAIの実現を支援しています。

本連載「Deloitte AI Partners」では、デロイト トーマツにおける各領域のリーダーとの対話を通して、AIを単なるビジネスやサービスを強化するだけの道具という位置づけから、多様なステークホルダーに価値をもたらす全く新しいビジネスモデルやエコシステムを実現するエンジンへと進化させるためのヒントをお届けします。

今回登場するのは、アナリティクス & コグニティブ(A&C)の大平匡洋。企業や産業のAI活用やA&Cの目指す姿などについて話を聞きました。

森: まずは自己紹介からお願いします。

大平:私は、これまで20年以上にわたって戦略策定から業務改善、IT導入などのコンサルティングサービスを提供し、ライフサイエンスやA&Cの前身となるアナリティクス・インフォメーション・マネージメントサービスの立ち上げなどにも参画してきました。現在は、デロイト トーマツ グループ内でのデータアナリティクス(データ分析による経営決定支援)領域をリードしています。幅広くコンサルティングサービスを提供していますが、特にITやデジタルという領域を専門にしています。

森:ありがとうございます。それでは、A&Cが目指すところについてお聞かせ下さい。

大平:目指しているのは、アナリティクスやコグニティブといった領域でNo.1を目指すこと。そのためには、規模はもちろんですが「質」が重要です。
デロイトは、設立当時から戦略立案、アドバイザリーを得意するプロフェッショナルファームでした。従業員数が10倍以上に増えた今も、そのDNAは残っていると感じています。
私は、デロイトが得意としている戦略立案、アドバイザリーから実装まで含めた「end-to-end」に繋げていきたいと考えています。
このような戦略立案を考えられる人材は、「質」 を向上させる上で欠かせない要素になります。戦略立案にとどまらず、クライアントの要望に応じてインプリメンテーション(実装)までお手伝いできるファームになることを目指して活動しています。

大平 匡洋/Masahiro Ohira  デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。戦略策定から業務改善、IT導入に至るまで幅広いコンサルティングサービスを20年以上にわたり提供。現在はグループ内でのデータアナリティクス(データ分析による経営決定支援)領域をリードする。

 

デロイトの強みは「連携」

森:「質」という点では、ビジネス連携も重要な要素です。デロイトは、監査、法務、税務領域でのアドバイザリーといったコンサルティング以外の領域でもビジネスを展開しています。
当社はグループ間連携のハードルが低いため、連携して活動するなかで、さまざまな専門性や知見を得ることができます。そういった情報を知った上でコンサルティングサービスを提供することが強みになっていると思います。加えて、DAIIという横断的なネットワーク組織を作り、AI人材の連携などをしやすくしていることもプラスに働いています。
最近は、クライアント企業やマーケットからAIに対する期待が高まっています。ここ数年の変化やどういった引き合いがありましたか。

大平:
AIに関しては以前からサービスを提供してきましたが、ここ2年くらいで引き合いが急激に増えていますね。やはり森さんのような専門家がデロイトに参画したことや、これまで培った実績で、デロイトの認知が広がってきたことが大きいと思っています。

AIの引き合いはさまざまで、一概に言うことはできませんが、今のところ、業務改善やデータ分析の高度化に使いたいという「上流」の相談が多いですね。そこから実装につなげるケースが多いように感じます。

事例を挙げるとすると、たとえば某製薬会社様のご支援は3年ほど前から行っています。長い歴史を持つ製薬会社で、独創的かつ革新的な新薬を創製することを目的に活動されています。

同社のMR(医療情報担当者)が医師や薬剤師に情報を提供する際、薬品の知識や治験の情報などさまざまな情報が必要になりますが、「検索」だけでは必要な情報を提供することが難しい。そこで、AIを使って最適な回答を出すことができないかという相談を受け、ご支援しました。

コンペティションだったため、いくつかの会社がPoCを実施しましたが、我々の回答率が高かった上、業務改善などのコンサルタントによるアドバイザリサービスが提供できることが高く評価され、本稼働に繋がりました。現在は、医薬品情報システムとして96%を超える正答率で稼働しています。

高い正答率を実現できたひとつの要因は、インダストリーチームの知見を活用した言語ロジックを医薬品情報システムに組み込んでいるという点。テクノロジーチームとインダストリーチーム双方の連携があったからこそ作り上げることができたシステムだと思います。これもデロイトの「連携」の強みが遺憾なく発揮できた事例と言えるでしょう。

製薬会社様にこの結果が認められ、新しいプロジェクトもご依頼いただきました。こちらもMR関連のプロジェクトとなりますが、「医師との面談練習のため上司とロールプレイングしたいが、上司が忙しく時間が取れない。これをAIで最適化できないか」というご相談内容でした。

そこで「eラーニングをベースとしながら、音声で回答を返す」仕組みを提案しました。回答の音声をテキスト化し、どういう意味で喋っているのかなどをシステム側が理解し、部分採点できるようにしたのです。

このシステムはAI採点学習支援システムとしてMR全体に展開され、好評を得ています。某製薬会社様は、MR以外の業務へのAIの展開も予定されているとのことです。

森:
データプラットフォーム系の事例も増えていますよね。最近の傾向などはどんな感じでしょうか。

大平:データプラットフォーム系のプロジェクトの場合、構想策定から入ることが多いですね。「データを活用したいが、どうすればいいか分からない」といったプリミティブな話が多いです。
データプラットフォームの必要性は漠然と感じているものの、単純な「箱」だけを作っても仕方ない。だからこそ、構想策定からスタートし、「どういった分析をしたいのか」「それに必要なデータプラットフォームは何か」ということを明確にしていきたいという企業が多いのだと思います。

森:これまで、データを溜める「箱」として、ビッグデータやデータレイクなどが注目されてきましたが、きちんとデータを集めることができている企業は多くはありません。「我が社には間違いなくビッグデータがある」と認識していても、データの棚卸しや整理ができていない状態であるため、データを活用することができないケースが多いようです。

確かに、個々のシステムやサービスにはデータはありますが、いざデータを棚卸ししてみると、組織や部署、グループ会社のシステム、SaaSサービスなどにデータが保存され、サイロ化しているケースがほとんどで一元管理ができず、全社で活用できない状況になっているのです。

そういう場合は、まず「どんなデータがあり、どう管理していくか」ということを考えなければいけない。また、それぞれのデータにおいて利用に関する許諾がどうなっているのか、その利用可能範囲や制約も把握しておく必要がある。そして、データを活用していく際のユースケースも必要になる。そのため、そもそもの構想策定をしなければならないという話が増えています。

大平:データレイクという「箱」だけ作り、そこにどんどんデータをため込んだが、そのデータをどう活用していいか分からないというケースもありますね。
また、「データガバナンスを構築したい」「データマネジメントを高度化したい」という要望もあります。最近は、そういった話がとても多い。先日も、あるクライアント企業様から「データは溜まっているけど、品質や信用性が担保されていないため、データが使えない。データマネジメントをどうすればいいのか」という相談がありました。
ユースケースやデータマネジメント、データガバナンスといった視点が欠けているというのが、これらの問題の原因になっているのかもしれません。


森:データやAIの利活用という点では、「データの構想を作り、戦略的に活用していこう」といった意思がないと難しいイメージがあります。その辺りはどのように考えていますか。

大平:そのことについて、森さんとディスカッションをしたいと思っていました。AIは、営業の領域やMRの業務改革など、部分的に適用することはできます。しかし、「経営戦略全般」で活用するところは一筋縄ではいかないテーマです。だから「AIを経営戦略に使いたい」、「経営管理に使いたい」といったご相談は、お客様と深く議論をしていく必要があります。
もちろん、経営管理の「需要予測」に適応することはできるでしょう。しかし「経営管理全般に使いたい」と言われると、それはちょっと難しい。この要望にどう答えていくのか、その答えを見つけるチャレンジが必要と感じています。

森:確かにそういう悩みはありますね。グループワイドで企業がガバナンスや経営管理の強化をしていく際、どのようにデータを扱うのかという部分にかかっている話だと思います。

現在、部門や事業ごとにデータがあり、そのデータからKPIを作っています。それを取りまとめて管理しているのが実状です。そのため、場合によっては「KPIが正しい数字ではない」、「反映が遅れている」といった「誤差」を含んでしまい、経営のアクションがぶれてしまうことがあります。

データのマネジメントができており、全ての生データをきちんと管理できれば、そこから経営管理の部門が全ての事業のPIを直接作り出すことができるようになります。

そうすれば、リアルタイムに正確な情報を使ってKPIを変更することができるようになるため、ダイナミックなマネジメントが可能となります。

さらに、AIモデルを使ってKPIの信頼性を確認し、異なるKPIで事業を見直すことで、「この観点ではどう伸びているのか」、「ROIを計算するとどうなるのか」、「本当はどこに注意しなければいけないのか」ということも分かるようになるでしょう。ダイナミックに経営管理の在り方を変えていくこともできるようになります。

大平:全ての生データに経営管理側からアクセスできるようになると、各事業部の報告が必要なくなり、戦略立案も柔軟かつタイムリーにできるようになりますね。そのためには、まず基本となるデータが整理されている必要があるということですね。大変参考になります。

森 正弥/Masaya Mori  デロイト トーマツ グループ パートナー。 Deloitte AI Institute 所長。グローバルインターネット企業を経て現職。eコマースや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国のR&Dを指揮していた経験からDX(デジタル・トランスフォーメーション)立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。日本ディープラーニング協会 顧問。

 

目指すはグローバルフレームワーク

森:A&Cでは、経営の課題解決や高度化に繋がるデータ分析活動を推進する、独自のフレームワーク「IDO(Insight Driven Organization)」を使っています。実際、IDOを使ってさまざまな業界・業種をご支援し、企業のアナリティクスの高度化・データ活用の推進を実現しています。このIDOについて詳しくご紹介いただけますか。

大平:IDOのフレームワークは、5年以上前からありました。まずは、IDOとデータドリブン経営との違いから説明します。

データドリブン経営は、経営者がデータを使いながらディシジョンを早めていくものです。一方IDOは、データだけではなくデータから得られる洞察を重視し、それを組織としてきちんと活用するということが重視されています。データを使いながらディシジョンはしますが、それぞれの組織がデータを使いながらインサイトをきちんと出す。それが組織に浸透していく状態がIDOだと考えています。

このIDOのフレームワークは、戦略、組織、人材、業務、データ、テクノロジーの5つに分かれています。この中でそれぞれステージを定めており、何をすべきか、IDOを目指すために何が足りないのかが分かるようになっています。

我々は、このフレームワークを使いながらIDOワークショップを開催しています。このワークショップでは、クライアント企業とアナリティクスやAIに関する課題をディスカッションし、「今後どのような施策をしていくのか」、「どういったデータ分析をするのか」といったことを結果として導き出します。

IDOはアナリティクスを中心のフレームワークですが、現在デロイトグローバルではAIに注目し、AIを使いながら組織をどうやって強めていくのかという「AI Fueled Organization」を提唱しています。

基本的なコンセプトはIDOと通じるところがありますが、AIですから、その適応は現時点では業務中心になります。しかし現在のAI Fueled Organizationはまだ作られたばかりなので、これからさらに進化し、洗練されていくはずです。


森:
「データドリブンな経営」というのは、データを正しく「見える化」することで正しいアクションができるようになる、といった話ですね。しかしデータは、基本的に過去の結果に過ぎない。本当に知りたいのは「未来に向かってどうしていけばいいのか」ということです。そうすると予測や最適化といったテーマも出てきますから、自社には存在しないデータを組み合わせた分析なども必要になります。

AIが面白いのは、さまざまなことを「自動化」するという点。AIを活用することで、ビジネスプロセス自体も変わっていきます。データを使って未来を予測することと、ビジネスプロセスを変えていくということを組み合わせれば、組織そのものを成長させることができます。私は、これが新しい組織の有り様の1つと考えています

そのためには、自社のプロセスを棚卸しして、人材の育成や意思決定プロセスなどもAI Fueled Organizationに対応できるのかといったことを見直す必要がありますね。

デロイトではIDOという考え方の枠組みを提示し、AIという未来予測やビジネスプロスセスを変えていくエンジンを加えました。これによってどう変わっていくのかということが、これからのAI Fueled Organizationの大きなテーマになっています。

マーケットやお客様は大きな転換期を迎えています。実際BtoCの場合、スマホアプリやWebサービスは成長のエンジンとしてAIを活用し、従来のビジネスやブランドのあり方と異なる商品やサービスを提供しています。

BtoBもこれと同じで、取引先がどんどん変化していく中で、自社も変わっていく必要があるでしょう。そうしなければ、マーケットや社会の要請に応えられなくなり、価値を提供し続けることが難しくなります。やはり、AI Fueled Organizationを目指していく必要があるでしょう。

大平:AIは無限の可能性があると考えています。これからは、さまざまなビジネスでAIが活用されていくでしょう。

AIを使うことでさまざまな「障壁」が崩れ、別の産業に参入するケースが増えています。DTCはインダストリーチームが強いですが、インダストリーチーム同士がタッグを組むことで、そういった障壁を崩すお手伝いやご支援が可能となります。クライアント企業に寄り添い、伴走者としてご支援していきます。

とはいえ、AI Fueled Organizationにたどり着くためには、いろいろな条件があり、道のりも長い。そういった意味ではAI Fueled Organizationを目指す地道な作業が必要になります。

その作業を今から始めていかなければ、取り組みが進んでいる企業から立ち遅れていくことになります。だからこそ、目の前でできることが重要なのだと感じています。AI Fueled Organizationを目指す企業の皆様には、AIの可能性を信じて、地道な作業を頑張っていただきたいと思います。

森:そのためには、「どのような企業を目指すのか」、「どのようなビジネスを目指すのか」、「どういう社会を目指すのか」というビジョンが必要。データやテクノロジー、AIの力を借りながらビジョンを磨いていく、あるいは価値のあるビジョンを考えていくことに、我々と一緒に挑戦していただきたいと思います。

 

森 正弥/Masaya Mori

森 正弥/Masaya Mori

デロイト トーマツ グループ

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。2019年に翻訳AI の開発で日経ディープラーニングビジネス活用アワード 優秀賞を受賞。 東北大学 特任教授。日本ディープラーニング協会 顧問、企業情報化協会 AI&ロボティクス研究会委員長。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『クラウド大全』(共著:日経BP社)、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『大前研一 AI&フィンテック大全』(共著:プレジデント社)がある。 記事:デロイトデジタル「新しい世界へのマーケティングは、人とAIのコラボレーションによりもたらされる」 関連サービス ・ カスタマー・マーケティング(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ

大平 匡洋/Masahiro Ohira

大平 匡洋/Masahiro Ohira

デロイト トーマツ グループ パートナー

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 戦略策定から業務改善、IT導入に至るまで幅広いコンサルティングサービスを20年以上にわたり提供。現在はグループ内でのデータアナリティクス(データ分析による経営決定支援)領域をリードする。 関連サービス ・ アナリティクス & コグニティブ(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ