AIがデータが人が組織をシフトする「データ民主化」で実現するDXの核│Deloitte AI-fueled Organization vol.3│デロイト トーマツ グループ│Deloitte ブックマークが追加されました
この数年で企業成長の駆動力としてAIやデータ活用の存在感が増している。そこでキーワードとなっているのは「データの民主化」だ。ツールを使ってデータを扱うのは、これまでのような一握りのプロフェッショナルではなく、企業の現場で課題を抱える社員一人一人だ。エグゼクティブは、これまでの「データやアナリティクスのことは専門家に任せておけばよい」という意識を捨て、「日本語、英語に次ぐ第三の共通言語はデジタル&データリテラシー」という時が来ている。
AIの戦略的活用およびガバナンスに関する研究活動を行うプロフェッショナルネットワーク「Deloitte AI Institute」(DAII)所長の森 正弥と、デロイトの戦略コンサルティングプラクティス「モニター デロイト」の吉沢 雄介が、デロイト トーマツのオピニオンリーダーをゲストに迎え、日本企業のAI-Ready化に向けた重要な論点について語り合う対談シリーズ「Deloitte AI-fueled Organization」、第3回はモニターデロイト パートナーのエリック・アルマドロネスに「データ民主化」について話を聞きました。
・ホスト:Deloitte AI Institute 所長 / デロイト トーマツ グループ パートナー 森 正弥
・ゲスト:モニター デロイト / デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー エリック・アルマドロネス
・ファシリテーター:モニター デロイト / デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 吉沢 雄介
吉沢 今回のシリーズには「AI フューエルドオーガニゼーション (AI Fueled Organization)」というタイトルが付いています。データとAIを燃料にして駆動する組織ということですが、改めてなぜデータ、AIが企業経営にとって重要なのかを考えていきたいと思います。「AIフューエルドオーガニゼーション」実現に向けて、障壁となるものがあるとすれば、それはなんでしょうか。
エリック この10年でデジタルテクノロジーは大いに進化しました。その意味では「AIフューエルドオーガニゼーション」が現実的かつ実効的なものになってきたと思います。ただ、今も企業のエグゼクティブは、「アナリティクスはデータサイエンティストがいないと成り立たない。高度に専門化されたチームが行うものだ」と捉えています。チームには一定の人員がおり、規模感をもって精緻にデータを管理する能力がある。ただ、稼働の必要がない時は、まるでパソコンのスリープ状態のようになってしまう。また、彼らはデータアナリティクスを行う専門集団で、他の事業部門とは切り離された存在である、そんな印象が一般的なのではないでしょうか。
しかし、今求められているのは、データの民主化です。データアナリティクスが企業の成長にもっと役に立つために、一部の専門家だけでなく、組織のより多くのメンバーが幅広くデータにアクセスできる環境を実現しなくてはなりません。そのために、これまでのように専門的なスキルを持った者だけがデータを扱うのではなく、組織の誰もがデータを使い、そこから意思決定に役立つインサイトが得られる。これが理想の姿です。
森 たしかに、テクノロジーの進化によってデータの民主化が可能になりつつあることを私も実感します。一部の先進企業ではデータプラットフォームを整備してAutoML(自動マシンラーニング)などを使っている例もありますね。一方で、少なくない企業ではAutoMLを導入しているもののデータの民主化という段階には達しておらず、必要なメンバーであれば、誰でもデータにアクセスできる状態には至っていないという状況も見られます。
エリック まだ多くの企業ではうまくいっていないようです。データを組織全体が扱う仕組みにはさまざまなアプローチがあってよいと思いますが、必ず取り組むべき点があるとすれば、それはデータを使った分析が、すべてその企業の意思決定にひもづいていることです。
実際にうまくデータの民主化ができている組織では、意思決定のプロセスのどこかにデータアナリティクスが組み込まれています。人材が正しく配置され、組織で正しいデータを活用できる仕組みが整っています。その状態が実現できれば、ツールはそれほど優れていなくても、高いレベルでデータの民主化が達成できます。いくら高性能なBIツールなどが使える環境があっても、データがきちんと使えていない企業や、データを意思決定のために使えていない企業よりはずっといいわけです。必ずしもツールやテクノロジーが重要というわけではないのです。
吉沢 企業によっては、まだ経営陣がデータやAIのことは、データサイエンティストやエンジニアに任せておけばよいと考えています。このような企業では、データやAIを意思決定に活用できていません。エリックさんに伺いたいのは、データとAIを大企業の中で有効活用するには、どのようなことが必要かということです。
エリック まず必要なのは、ビジネスプロセスを定義することです。企業で実行される多くのデータアナリティクスのプロジェクトを見ると、およそ40~50%は、プロセスに問題があります。最初に社会的な背景にもとづいた課題が定義できていないのです。そして30~40%は、分析するデータの問題です。データのポーリング(抽出)、整理、トランスフォーメーション(変換)がちゃんとできていません。
これらができれば、データアナリティクスのプロセスは70~90%が完了したも同然です。最後の10%未満のプロセスで、ようやくデータサイエンティストの出番がやってくるわけです。組織においてこの90%こそが重要にも関わらず、多くの経営者はこれを見過しています。最後の10%で登場するデータサイエンティストにばかり気を取られてしまっているからです。
森 その通りだと思います。日本企業の経営陣の中には、データサイエンティストを雇用すれば的確な分析が行われ、素晴らしい発見をもたらしてくれるだろうという期待もまだまだ根強いです。本当に重要なのは、顧客戦略や自社が抱えるビジネス上の課題、ターゲットとなる市場に対する理解などです。
エリック 私の知っている限りでは、ビジネスの話もアナリティクスの話もできるというデータサイエンティストは稀です。こうした能力がある人材は「トランスレーター(翻訳者)」とでもゆうべき貴重な人材です。ビジネスとデータサイエンスの間に入って、効果的に両方の言語を話し、理解できるのです。データサイエンスの領域の専門家は、通常は戦略や事業に関する詳細な知見は持っていません。しかし、戦略を立案する人はアナリティクスの知見がないわけです。ですから、こういった橋渡しができる人材がいれば、双方の理解が深まり、プロジェクトは一気に進展します。
吉沢 私はエリックさんと4、5年前にあるプロジェクトでご一緒させていただきました。USデロイトと進めた自動車会社のケースです。デロイトジャパンとして1名のデータサイエンティストをアサインしましたが、同様のスコープに対してUSデロイトからは、エリックさんを入れて5名の方がいらしたでしょうか。内訳は、データアーキテクトが1人、自動車会社のビジネスを周知したコンサルタント1人、データを操作することができる技術者、数理モデルを作成するアナリスト、そしてエリックさんという編成だったと記憶しています。それぞれが各分野を分担していることに驚かされました。日本ではこれらを一人で担っていました。
チームは求めるべき成果に対して必要な人員が機能ごとに組織されていました。日本ではデータがらみのことはすべてデータサイエンティストに任せればよいと思われがちですが、これがさまざまなプロジェクトの現場にて混乱を招いているのではないかと思います。
エリック おおむね吉沢さんに賛同しますが、日本には日本の利点があると私は思います。それは「データが語ってくれる」という認識を持っていることです。良いデータの語ることに耳を傾ければ、そこから意思決定を導き出せると考えているのです。これは日本に浸透したDNAかもしれません。効果的にデータサイエンスを行える素養があると言えます。中には30年なりの長年の経験値があるから、データは必要ない、データ主義には陥りたくない、と考える国もあります。
それと比較するとデータに対する信頼度が高く、データを見て意思決定をするということが、日本の企業の中に醸成されていると感じます。良いデータは良い意思決定につながる。これは真実です。
森 多くの経営者が今の話から疑問に思っているのは、「では、良いデータと悪いデータはどう見極めればよいのか」ということだと思うのですが、その点はいかがですか。
エリック データセットを手に入れた時、品質がきちんと担保されているかどうか、論理的な基準に見合っているかどうかなど、さまざまなチェック項目があると思いますが、いったんそれらは脇に置いて、ビジネスの視点で判断してください。良いデータは経営者の意思決定をサポートしてくれます。言い換えれば、データの有無で意思決定が異なってくるということです。データの質は、実際の行動にどれぐらい結び付いているかで決まるのです。いくらそのデータが素晴らしく、精度の高い完璧なデータであったとしても、意思決定に関与しないのであれば、限定された用途、限定された利便性しかないデータだということなります。
以前、データアナリティクスにかなり労力を費やしたクライアントがいました。役員がデータソースがどれくらいあるかを自慢げに語っていました。なんでも96ものデータソースをデータレイクに集約してあり、BIツールなどを使って自在に取り出し活用できるとのことでした。そこで私は、「データはなんのために使っているんですか。どういうユースケースがありますか。データを使ってどういう意思決定をするんですか。データがあるのとないのとではどうビジネスが変わってくるんですか」と聞いたんです。そうしたらその役員はだまってしまいました。データの蓄積が無駄だとは言いません。そうしたデータプラットフォームは必要です。ただ、意思決定に結び付かないデータでは意味がありません。
また、データは必要なタイミングで手に入るか、ということも重要です。意思決定に資するデータがすぐに手に入り、スピーディーに意思決定ができるようになっていなければいけません。
森 企業がたとえたくさんのデータセットを持っていたとしても、いろいろなデータソースから洗い出したデータだったとしても、明確に定義された大義や存在意義がなければ、意味を持たないということですね。これに関連してもう一つお尋ねしたいのですが、最近クライアント企業が、パーパス(存在意義)を見直すべきではないか考えています。そこで、何に照準を当て、どのような価値をお客様に提供するべきか再考したいと言っています。中にはパーパスとデータを関連付けている企業もありますが、もしパーパスをデータ戦略や、データユースケースに直結させることができれば、従業員もパーパスを理解しながらデータ活用ができるようになると考えてよいのでしょうか。
エリック その通りです。私は、日本の企業において大切なことは、企業が大規模なアナリティクスのプロジェクトに着手する前に、実効力のあるデータ戦略を定義し、それを核にプロジェクトを推進することだと思います。自社のビジネス上の課題は何か、ユースケースはどうなっているのか、どうやってデータを使うのか、そこから導き出せる結論は何かを突き詰めれば、最低限必要なデータが見えてきます。また、欲しいデータがあるにしても、「あればいいな」程度なのか、「ないと困る」レベルなのかも分かってきます。これこそ、多くの企業がプロジェクトをスタートするに当たって、行うべき最初の一歩なのです。
吉沢 意思決定する側はどのようにデータに向き合えばよいでしょうか。
エリック 変なことを言うようですが、ぜひ、そうした役員の方々は、最新のデータアナリティクスで流行している言葉には耳を傾けないでくださいと言いたい。機械学習とAIは何が違うのか、どちらがより包括的な概念なのか…。そんなことはどちらでもいいことです。経営者にとって重要なのは、繰り返しになりますが、データアナリティクスに際して、どういう問いを投げかけるべきなのか、ということです。
人材はいる。データもある。そして正しい課題も定義できる。そうすれば、使うテクノロジーは異なっていても解を出せるはずです。方法論はどれでもいいのです。エグゼクティブは、データサイエンティストや統計学者に任せておいて、自社ビジネスの核心を突いた問いを立て、組織に正しい人材とデータとツールを用意し、新しいことを興せる次世代人材に権限委譲していく。それはまさにDXそのものです。
エグゼクティブが意識すべきことはもう一つあります。これはもしかしたら日本では実現しづらいかもしれません。日本では、最初は小さく始めるという考え方があります。小規模なPoCを実験的にやってみる、というものです。その考えでAIを使ってデータアナリティクスをやってみるわけです。そしてどうなるかを検証して、うまくいったらまた別の小規模なPoCを重ねる。悪いことではないのですが、本来スケールの大きかったプロジェクトが小さく分散してまとまりのないものになってしまう危険性があり、本来求めたいと考えていた大きな解を導き出せなくなってしまう可能性があるのです。
私は、エグゼクティブの方々に、どうやってデータアナリティクスのプログラムを始めるか、ということについて、こうアドバイスします。自社にとっての2つか3つの大きな問題を見つけて、その問題の解決策を見つけようとした方が、複数の小規模なPoCを重ねるよりよいわけです。
森 その指摘は共感するところがあります。小規模なPoCからベストプラクティスが生み出されることもありますが、よくある落とし穴として、小規模なPoCに集中しすぎると、本当に目指したかったビジョンや世界観まで引きずられて小規模なものになってしまうこともあります。
エリック 新しい問題が大きければ大きいほど多くの人を巻き込んで、組織内の機運も高まって熱を帯びていきます。そして、関わる全員が「自分ゴト」として捉えながらプロジェクトを進められます。
しかし、小規模なPoC では、たとえ10個失敗したとしてもだれも心配などしません。なぜなら、はなから何も失うものはないから。PoCとはそういうものです。
森 企業が正しいアプローチができたとしたら、お客様とはどのようなコミュニケーションを取るべきでしょうか。
エリック 今の消費者が自分の好きなブランドに抱いている期待は、「あなたは私のことを知ってますよね。だから、私が欲しいものも分かりますよね」というものです。だから「私にぴったりの物をレコメンドしてください。私が気づく前に」と要求します。これらはデータがあってこそ成り立つ世界です。
森さんの質問は、データアナリティクスが正しくできた時、どのようにお客様に対応していくべきか、というものだったと思いますが、世界は広く複雑ですから、実のところ、消費者の動向を正確に捕捉することは簡単ではありません。どんなサイズの製品を買うのか、何色が好きなのか、どのタイミングで購入し、どんな決済手段で支払いをするのかなどを、全て継続的に把握し続けるのは簡単ではありません。ただ、これら自分の好みや考え方を、自分が好感を持っているブランドが知っていてくれていて、私が欲しいという前にレコメンドしてくれるとなれば、感謝とともにブランドに対するロイヤルティーは高まります。
こうした顧客との関係構築は、例えばリピート購入を経てその顧客の理解を深めことにつながり、過程で得たデータはその消費者の行動の予測をも可能にするわけです。こうして、顧客との関係性を深めるのに役立つデータは、システムの構築やAIチャットボット開発など、次のお客様の期待に応えるサービスの土台へとつながっていきます。
吉沢 エリックさんは、日米のマーケットに触れ、双方のインサイトを持っていらっしゃいますが、両者には大きな違いを見ているのではないでしょうか。中でも大きな違いは、日本では70%~80%のデータサイエンティストが外部のベンダーに存在するのに比べて、アメリカではその逆だということです。70%~80%がクライアント企業の中に存在していると言われています。AppleやFacebook、GEなどもその例です。なぜそんな違いがあるのでしょうか。社内にデータサイエンティストがいれば自社にナレッジが蓄積されますが、日本ではナレッジは外にあり、社内に蓄積していかない、というのも気になります。
エリック まず申し上げたいことは、生まれながらのデータサイエンティストというのはほとんどいません。大体は長い時間をかけて成長していくわけです。もともと本当に優れたデータサイエンティストはまれです。それは、成熟市場のアメリカでも同様です。ですから私は、あまり経験がない、成長余地のある人材を雇用し教育してデータサイエンス、アナリティクスの実務者に育てていくことが大切だと考えます。そこで考えなければならないのは、どういうデータアナリティクス、データサイエンスの実務者にしたいのか、そしてその人たちに適切な自由と権限委譲を行って、外部でどのようなことが行われているかを身に付け、自社に持ち帰ってもらうことです。
吉沢 日本もそのあたりを意識していかないといけませんね。
森 最後に、今回のテーマである「AIフューエルドオーガニゼーション」について何か付け加えておくべきことがあればお願いします。
エリック 今重要性が増していると私が感じるのは、「パートナーシップ」と「エコシステム」です。複雑性を増す消費者の行動との関わり合いを、自社だけで完結させることは不可能です。いかに優れた企業でも難しいと思います。
自動車会社の最終的な目的はクルマを売ることです。効果的に消費者とコミュニケーションをはかることが最終的な目的ではありません。それは結果を得るための手段にすぎません。そこで適切なエコシステムを構成するパートナーやアライアンスと協働し、達成しようとしていることをよりうまく支援してくれる仲間を増やすことが重要です。そのエコシステムを構成するのは、事業をスケールすることが得意な大きな集団や、逆に小さいけれど事業の根幹となるようなユニークなテクノロジーを持つブティック型のパートナーも必要だと思います。
吉沢 大変インサイトに富んだお話しをありがとうございました。実は、社内のDX推進に関して、小さなPoCから始めることをイメージして「Think Big,Start Small」というメッセージを発信してきたのですが、「小さくスタートする」というところばかりが強調され、「大きく考える」という部分が見過ごされがちでした。今回のお話しは、認識を新たしてもらう良い機会になりました。
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 Deloitte AI Institute 所長 アジア太平洋地域 先端技術領域リーダー グローバル エマージング・テクノロジー・カウンシル メンバー 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。 東北大学 特任教授。東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問。日本ディープラーニング協会 顧問。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社)、『パワー・オブ・トラスト 未来を拓く企業の条件』(共著:ダイヤモンド社)がある。 記事:Deloitte AI Institute 「開かれた社会へ:ダイバーシティとインクルージョンの手段としてのAI」 関連ページ Deloitte AI Institute >> オンラインフォームよりお問い合わせ