Posted: 20 Jul. 2022 10 min. read

「データドリブン経営」を成功に導くための組織課題とチャレンジとは

Deloitte AI Partners│vol.6

Deloitte AI Institute(以下、DAII)は、グローバルで約6000人が所属している、AIの戦略的活用およびガバナンスに関する研究活動を行うプロフェッショナルネットワークです。国内外のAI専門家やデロイト トーマツの様々なビジネスの専門家と連携することで、AIによるビジネスや社会の変革と、人々に信頼されるAIの実現を支援しています。

本連載「Deloitte AI Partners」では、デロイト トーマツにおける各領域のリーダーとの対話を通して、AIを単なるビジネスやサービスを強化するだけの道具という位置づけから、多様なステークホルダーに価値をもたらす全く新しいビジネスモデルやエコシステムを実現するエンジンへと進化させるためのヒントをお届けします。

今回は、デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 Advanced Artificial Intelligence ユニットリーダーの室住淳一に話を聞きました。

 

森:まず、室住さんの経歴から紹介していただけますか?

室住:最初のキャリアであるクレジットカード会社では、クレジットカードを利用している顧客データを大量に収集し、ビジネスに活用するというプロジェクトに属していました。分かりやすくいうと、顧客のビッグデータを作るためのプロジェクトです。

当時のクレジットカード会社は、顧客に多くの取引をしてもらうことでビジネスを拡大させていくというビジネスモデルで、販売データを分析し、ブランディングやターゲティングなどに活用して新たな価値を生むというところまではできていませんでした。

そんななか、ある重要な提携先である企業の役員から「貴社にはたくさんの決済データが集まってくるのに、普通なら冬にたくさん売れる革ジャンが今年の夏に売れたるのか、把握しなかったのですか?そして提携先である私たちにそのことをすぐに教えてくれなかったのですか」と言われました。当時、クレジット決済をいかに円滑に行えるかが、クレジットカード会社における顧客価値であったのに、それだけの価値では、市場で生き残っていけないということを痛感しました。これがきっかけとなって発足したのが、私が属していたプロジェクトです。まだビッグデータもAIという言葉もビジネスの世界ではなかった時代だったので、当時として非常に先進的な取り組みだったと思います。

販売データを分析するときには、さまざまな苦労がありました。クレジットカード会社が得られるデータは、オーソリゼーションで使われるものだけで、飲食店や物販といった大まかな分類と金額しか分かりません。そのため、分析に必要な明細の情報を得る必要がありました。

また、クレジットカード会社に集まるデータは、現金で購入されたお客様の情報を得ることができません。そこで、POSと連携したり、ポイントカードを作ったりして、必要なデータを取得するようにした結果、プロモーションの効果などが明確に分かるようになりました。このとき、データを価値に変えるということを経験したことが、「データドリブン経営」の第一歩となりました。

データを収集・分析して得られた情報をもとに経営を変革することで、企業価値の向上に寄与した結果、会社からはもちろん、お客様からも非常に喜ばれました。また私自身、データを活用することの効果が目に見えて分かる点がとても面白いと感じていました。

ただ、ひとつ疑問を感じたことがありました。クレジットカード会社から受けた仕事ですから、当然、クレジット比率を向上させるというオファリングになってしまいます。クレジットカード会社のみならず、ほかの分野でもこの技術を活用したいと考えた私は、経営全般にわたってアドバイスすることを生業としているコンサルティングファームに転職することにしました。コンサルティングファームでは、常にクライアント企業の価値を上げるためにどういったサービスを提供できるのかということを考えています。そう考えると、これまでのキャリアは何一つ無駄な経験はありませんね。

室住 淳一/Junichi Murozumi デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。Advance Artificial Intelligenceユニットリーダー。外資系・国内系コンサルティング会社を経て現職。AI技術を活用した新規事業創出、業務の高度化、AI基盤構築等、企業のDX推進へのコンサルティングに従事。DX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoTのビジネス活用に強みを持つ。

 

森:データ分析は、ともすればデータを触っているだけで終わってしまうこともあります。しかしデータを使ったビジネスの黎明期から取り組まれてきた室住さんは、データを深く分析することでの新たなビジネス価値の創出を実際に体験してこられた。そんな室住さんに、これまでの「データ活用の歴史、その変遷」についてお聞きしたいです。

室住:「内部」と「外部」のデータ活用は、それぞれで若干異なっていると感じています。
まず「内部」のデータについて見ていきましょう。以前は、内部データの活用が非常に難しかったのですが、最近では、リレーショナルデータベースを使うことが当たり前となっており、必要なデータの抽出が簡単に行えるようになっています。

一方、問題もあります。サブシステムが乱立し、データの項目や定義が整理されていない場合、ミスリードを起こすことがあるのです。たとえば、同じ「売り上げ」という項目でも、サブシステムごとに税込み価格や税抜き価格が記録されているケースがあります。こういったデータを使ってしまうと、正しい結果を得られません。そこで現在では、データサイエンティストが内部データの項目や定義、構成要素などをしっかりと把握し、メタデータとして管理するということが重要だというように変わってきました。

次に「外部」のデータです。これは政府がオープンデータを無償で開放していますし、データのリセールビジネスも登場しています。これらのデータを活用し、ターゲットのコンバージョン率を上げるケースも少なくありません。そういう観点でいうと、データの重要性が浸透していると感じます。

データ分析についても大きく変わっています。データを分析するデータサイエンティストは、人によって得意領域が異なっています。そうなると、顧客が求めている命題を見事に解決する、アベイラビリティの高いデータサイエンティストをどう配置するのかということが大きな問題になります。

そこで私は、「オーケストレーション」という考え方が適用できるのではないかと考えました。ちょっと話がずれますが、私は趣味でクラリネットを演奏しており、アマチュアのオーケストラに所属しています。このオーケストラは指揮者のいないオーケストラで、マルチ・リ―ダーシップ組織論のビジネスケースにもなった、オルフェウス室内管弦楽団のアプローチを採用しています。

もう少し説明を加えますと、オーケストラには様々な楽器があり、各楽器を演奏するために必要な技術を奏者が使って、一つ作品を全員で力を合わせて演奏し、その成果をお客様に届けるわけです。

DXに限らず、コンサルティングファームはスキルを組み合わせてプロジェクトチームを組成し、お客様に提供することをやってまいりました。ですので、オーケストラとコンサルティングファームは、一見、あまり似ていないようにも感じますが、いろいろな専門家があつまって1つの成果物を作るという意味では、とても近しいビジネスプロセスだと思います。特に、DX時代における多様な才能をもった人材が力を合わせていかなければならないので、オーケストレーションアプローチはますます重要性が増してきていると思います。

森:コンサルティングファームでも人材の多様性が重要だといわれています。以前に別の方と対談したときにも多様性が大きなテーマとなっていました。タレントはもちろん、アプローチの仕方も多様ですね。そういったタレントを活かしていくには、お互いが尊重し、必要なことを議論できる機会を作ることが重要になります。そういった組織にしていくには、心理的安全性を高めていくことが重要だといわれていますよね。環境整備も必要になるのかもしれません。

室住:その通りだと思います。そこで、データサイエンティスト同士がお互いに相談できる組織を作るため、ヒエラルキーをなくしてみることにしました。

一般的に部門長を頂点としたヒエラルキー型組織形態では、部門長やシニアマネジャーの実力の限界が、組織の限界になってしまう恐れがあります。しかし、DX時代にに必要なのは多様な才能やスキルになりますので、組織ヒエラルキーとは別に専門性毎のヒエラルキーが必要になってくると考えました。部門長が全く知らない技術をもった20代の専門家がいたら、その技術に関するリーダーを彼に任命をするようにしました。この施策は質的なケイパビリティを充実させるために効果を発揮しましたが、AI活用に関するクライアントのニーズが急増し、量的なケイパビリティの問題が切実な問題になってきました。

そこで、我々の生産性を向上させるためAutoMLツールを導入しました。AutoMLツールとは、良質な機械学習モデルを短時間で開発できるツールです。これをコンサルティングサービスの中で上手に活用することで、生産性が高く、品質の良いサービスを展開することができるようになりました。

森:ここ20年程のテクノロジーの発展という観点で見ると、インターネットサービス、クラウド、ビッグデータと大きなパラダイムが次々に登場してきた流れがあります。そのような中、一人で膨大な数のサーバーを管理したり、数人で何百万人というユーザーにサービスを提供したりするスタートアップも多く出現し、これまでの「人工(にんく)」という発想では想像できないビジネスが登場してきました。そういったのと同じブレークスルーをAutoMLはもたらしていると思います。発想の転換を促し、ビジネスをスケールさせるためのプラットフォームにもなっています。社会や世の中がダイナミックに変わっていく中、我々自身も変わっていかなければいけない。そういったことに気がつかせてくれるツールだと感じます。

森 正弥/Masaya Mori デロイト トーマツ グループ パートナー。Deloitte AI Institute 所長。グローバルインターネット企業を経て現職。eコマースや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国のR&Dを指揮していた経験からDX(デジタル・トランスフォーメーション)立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。日本ディープラーニング協会 顧問。

 

室住:そうですね。デロイトの場合、AutoMLツールとしてDataRobotを採用しています。強力なアルゴリズムを複数搭載しており、同じデータセットから複数のAIモデルを作り、一番精度が高いモデルを選択できます。アルゴリズムを選択した理由を説明できるため、現場で非常に受けていますね。

また、デロイトでは、グループのコンサルタントが使うAIプラットフォームとして「CortexAI」を提供しています。これはAIを包み込むという概念でできたブランドで、世の中にあるAIツールを1つのプラットフォームで提供し、データ分析経験の浅いコンサルタントが触ることができるようになっています。需要予測やリスクモデル、ターゲティングなどビジネスアジェンダ共通のテーマがフローとして用意されており、それらを活用することでクイックにプロジェクトをスタートできるようになっています。

森:日本のお客様がAutoMLツールを使っても、欧米企業と比べて、効果が上がっていないという話も聞きます。どこに原因があるのでしょうか。

室住:私は従来型の経営組織構造に問題があるのではないかと考えています。日本はゼネラリスト主義であるため、数年に一度担当が変わってしまい、スキルの定着化が難しいという課題があります。せっかくデータサイエンスのリテラシーが高まり、AIを活用できるようになったのに、その人材が異動してしまい、新しい担当者がゼロから勉強をし直している。そのことが、多くの企業で起きているのです。

これはスペシャリストが育つ土壌が用意されていないことに起因しています。しかし全く例がないわけでもなく、例えば保険会社や信託銀行では「アクチュアリー」という数理計算の専門人材がいらっしゃり、保険の商品設計や年金の制度設計他を担っています。その方々は高度専門職としてご活躍されています。DX人材については裾野がひろがっていることもあり、DX人材を専門職として考えた組織・人材設計が必要だと思います。

DX組織は「何をするのかが曖昧」な組織というケースも課題です。いくらDX戦略が重要だといっても、ビジネスユニットのKPIを持っているのはその事業部の部門長です。その中でDX組織が提供できる価値を問われると難しい。DX投資に関しても、従来型のROI分析ではリターンの確約もできません。これらが原因で、今ひとつドライブがかかりきらないというケースもあります。こういうケースでは、たとえばDX部門が投資ファンドを持ち、社内のベンチャーキャピタルというような位置づけにすると、うまくいくのではないかと考えています。そのような仕組みなども変えていく必要があるでしょう。

年度予算にも課題があると考えています。予算を使うとリターンを求められるため、直接的なマーケティングなど、すぐに結果が出る施策から実施してしまいます。そうするとDXに対する投資が遅れます。企業経営では、自分が持っているビジネスユニットのPLに着目してしまいますが、DX推進ではそれがネックになっています。やみくもに始めるのはいけませんが、短期間で先進技術の成熟度を見極めたり、内部だけでなく外部から入手した様々なデータの利活用の有効性を検証し、多種多様なAIを開発、各業務環境へのデプロイを行う、そのためのDXプラットフォームの整備は必須要件であることは疑う余地がありません。

ですから、DXプラットフォームの整備については全社的な投資予算としてしっかりと計上し、速やかに実装することを最優先課題として取り組むべきだと思います。

森:事業を無視してDX部門だけで推進することもできません。事業のことを踏まえながらも、これまでのビジネスのオペレーションの考え方から脱却していくことが同時に重要です。そういった意味では、DX部門が投資ファンドを持つというような仕掛けの提案を行うことで、真に変革をもたらすDXの実現に至るということができていくのかもしれません。

また、デジタルに詳しい人材ばかり集めてもDXはうまくいきません。従来のビジネスに詳しい人やお客様とのコネクションがある人、マーケットを理解している人も必要です。サービスや顧客接点も変わってきているので、クリエイティブやデザインできる人材も必要となります。こういった多様な人材を活かすというのが、企業の大きなテーマになっていると思います。

さらに、自社だけで新しい価値を提供したり、社会課題に応えたりすることが難しくなっているのも確かです。そうなると、他社と協業し、これまでとは異なるレイヤーでのオーケストレーションも必要になっています。また、システムについても自社システムのみならず、多くのクラウドシステムとオーケストレーションすることあるでしょう。様々なレイヤーにおいてオーケストレーションという視点を持つことが重要だと思います。

室住:VUCAの時代と言われていますが、本当に不確実性が高まっていると感じています。すべてを自社の資産として持っていることが得策ではないと気がついている企業は少なくありません。

確かにシステムを作り込んでしまうと盤石ですが、顧客動向の変化や気候変動、地政学的な問題で、サプライチェーンに変化が起きたときに乗り切ることが困難です。これまで経験したことがないような変化が起き、危機に陥っても社会のエコシステムをオーケストレーションできれば、素早く安全な判断ができるようになります。そういうことができるように、経営が変わっていかなければいけません。DXだけではなく、経営のシステムやセオリーも変わっていかなければいけないと思っています。

森:オーケストレーションがうまくいっている企業の事例も出てきましたね。プラットフォームビジネスを志向していた企業が顧客にフォーカスし、マネジメント体系などを変えた事例もあります。その結果、透明化が進み、DXが加速している企業もあります。しかし、そういった事例は一部に過ぎません。

日本の企業と欧米型の企業と比較すると、ビジョン、ミッション、コーポレートアイデンティティーなどが曖昧で、社員自身がその内容を自分の仕事に落とし込むためには、経営者や役員などの言動からその具体的な内容を推測していかなければいけないケースもあります。最近ではパーパス経営なども着目されていますが、因数分解して部門ごとに解釈をしていかないと実践が難しいような曖昧なパーパスを設定してしまっている企業も少なくありません。こういったことも日本企業の課題だと感じています。

室住:確かに欧米企業では、パーパスが明快であり、何をすべきかをきちんと示しているからこそ、「このパーパスにむかっているのだから、経営者が反対することはない」と自信を持って企画を練ることができます。その結果、迫力がある、いいものができる。日本の場合、さまざまな役員が言っていることを下の社員が推察し、判断に迷うケースが多々あるように見受けられます。端的に言うと玉虫色な表現により迫力に欠けた企画書ができあがってしまうケースもあるのではないでしょうか。

しかし、今はそういったことから脱却するチャンスだと思います。多様な人材を生かし切れていないことを理解し、どういった企業にしていくべきか考えることで、変革していくことができるでしょう。

たとえば、データサイエンスができる人材をどう育成してくのか。採用するのであれば、どうすれば定着してもらえるのか。それが難しい場合、ビジネス側の人材のデータサイエンスのリテラシーをどうやって高めていくのか。その場合、年功序列型の組織設計でいいのか……。データサイエンティストのことだけでも命題がたくさん出てきます。それらについて丁寧に考える必要はありますが、ゆっくりはできません。ここ数年が勝負となるでしょう。

企業の経営者は、変革しなければいけないということに気がついています。しかし、これまでのやり方を変えようとすると、大きな障壁が現れてなかなかうまくいかない。我々がそういった経営者の気持ちに応えていけるのかは、大きなチャレンジだと思います。我々も一緒に行動し、お客様と一緒に併走することが、これからの大きな価値につながっていくと思っています。

 

森 正弥/Masaya Mori

森 正弥/Masaya Mori

デロイト トーマツ グループ

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。2019年に翻訳AI の開発で日経ディープラーニングビジネス活用アワード 優秀賞を受賞。 東北大学 特任教授。日本ディープラーニング協会 顧問、企業情報化協会 AI&ロボティクス研究会委員長。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『クラウド大全』(共著:日経BP社)、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『大前研一 AI&フィンテック大全』(共著:プレジデント社)がある。 記事:デロイトデジタル「新しい世界へのマーケティングは、人とAIのコラボレーションによりもたらされる」 関連サービス ・ カスタマー・マーケティング(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ

室住 淳一/Junichi Murozumi

室住 淳一/Junichi Murozumi

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

外資系・国内系コンサルティング会社を経て現職。 AI技術を活用した新規事業創出、業務の高度化、AI基盤構築等、企業のDX推進へのコンサルティングに従事。DX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoTのビジネス活用に強みを持つ。 『機械学習・人工知能 業務活用の手引き~導入の判断・具体的応用とその運用設計事例集』情報機構(2017年)等、著書・寄稿多数。 資格:高度情報処理技術者(ITストラテジスト、システム監査技術者) 関連サービス ・ストラテジー・アナリティクス・M&A >> オンラインフォームよりお問い合わせ