画像認識AI~精度と処理速度のジレンマ~ ブックマークが追加されました
様々なシーンでAI(人工知能)が活用されています。社会の新たなインフラとして認識されつつあるAIは、我々の生活をより便利かつ豊かにしていくことが期待されています。
ここでは、画像中の人や動物などの物体や文字などを特定・判別する技術である画像認識領域に応用されるAI(=画像認識AI)に着目することにします。画像認識AIと一口に言っても様々な種類が存在し、ニーズに合わせて我々の生活のあらゆるところで活用されています。本稿では、テクノロジーを学びたいビジネスパーソンがぜひとも押さえておきたい、身近にある画像認識AI活用事例を精度と処理速度という切り口でご紹介します。
■ ユースケース1. スマートフォンの顔認証(iPhoneのFace ID)
今や、生活の一部として必要不可欠となったスマートフォンの顔認証に、画像認識AIは用いられています。スマートフォン等のデバイスには膨大な個人情報が保存されています。そのため、間違って他人が解除してしまう、もしくは本人がロック解除できないという深刻な事態を避けなければなりません。iPhoneのFace IDを例にとると、無作為の他人がロックを解除してしまう確率は、100万分の1未満*1とあります。顔認証一連の処理速度に関しては、所有者が不快に思わない程度(1秒以内*2)であれば良いのだと考えられます。処理速度と比較し、識別性能がより重要視される事例と言えるでしょう。
■ ユースケース2. 自動運転の物体識別
2022年4月、自動運転「レベル4*3」の許可制度を含めた改正道路交通法が成立し、「いよいよ日本でも無人車両が走行可能になった」と話題になった自動運転技術においても画像認識AIは一役買っています。自動運転は、人間が行う認知・判断・操作を、代替することです。自動車の走行中に、カメラやLiDAR、ミリ波レーダー、超音波センサなど様々なセンサによって、外部環境(進路、道路上の物体、天候)の情報を取り込み、画像認識AIが物体を識別することで、適切な運転操作を可能にします。この物体識別では、先ほどのスマートフォンの顔認証のように特定の一人物を識別する能力までは必要なく、乗用車、大型車、バイク、自転車、人、その他(例えば道路標識やガードレール、野生動物など)を大別することを目指しています。刻々と変化する外部環境を認知・判断しタイムリーな運転操作を求められるため、識別性能と比べて処理速度がより重要になります。
今回は、テクノロジーを学びたいビジネスパーソンがぜひとも押さえておきたい、身近にある画像認識AI活用事例を精度と処理速度という切り口でご紹介しました。画像認識AI発展の歴史には、モデル規模の増加によって、認識精度を向上させてきた過去があります。一般に、モデル規模を増加させると、推論に必要な計算量が増え、処理に要する時間が増加します。現在では、ただ闇雲に認識精度を追い求めるのではなく、必要な精度を担保しつつ高速処理が可能なモデルや、学習が容易なモデル、汎用性を持たせたモデルなど、活用対象に合わせたモデル設計がされています。まさしく適材適所というわけです。
デロイト トーマツでは、AI利活用に関する最新トレンドを現状分析するだけでなく、デロイト トーマツの多様な専門性、及びAIの普及に取り組むDeloitte AI Instituteが持つ最新の知見を結集し、最新技術から導かれる未来を提言しています。これからもAIの技術的課題やその対策を様々な研究機関と検討し、発信していきます。
注: iPhoneおよびFaceIDはApple Inc.の商標です
中島 拓海
デロイト トーマツ コンサルティング ビジネスアナリスト
理学修士(素粒子物理学専攻)。大手電機メーカーにおける、大規模基幹システム刷新PJのPMO業務に従事。現在は、AI・機械学習をはじめとした先端技術のビジネス利活用を社内外に推進している。
著作物に、ハードウェア上での機械学習の高速処理に関する論文がある。『Fast muon tracking with machine learning implemented in FPGA - ScienceDirect』