Posted: Oct 28, 2019 3 min. read

防災に求められる「アセット・マネジメント」の視点 ~千葉・大規模停電からの省察~

9月9日台風15号、10月13日台風19号と2ヶ月連続で、これまでにない超大型台風が千葉県を中心に電力ネットワーク(送配電網)に大きな被害をもたらした。台風15号では首都圏7都県で最大93万戸が停電し、最も被害の大きかった千葉県内では停電復旧までに約3週間も要した。国内の自然災害による停電としては、昨年の胆振東部地震による北海道全域での停電、2011年の東日本大震災による停電および計画停電よりも長期間におよんでおり、日本の自然災害リスクの高さを再認識させるものだった。

台風15号からの復旧も間に合わない中で台風19号の被害を受けている世帯もあり、一日も早い復旧を願ってやまない。

 

災害は常に我々に様々な教訓や課題を残すが、今回の台風による停電の大きな課題は、電力ネットワークのレジリエンス(復旧)コストを災害に備えて社会として予めどこまで負担するか(後述するが本質的にはアセットマネジメントをどのように考えるか)ということだ。負担のあり方を考える上では「コストとベネフィットのバランス」、特に将来に向けての投資として効果的かどうかが論点となる。

台風への対策として一般的にメディア等では、電線の断線や電柱の倒壊を低減するための電線・電柱地中化や電力ネットワークの複線化、あるいは昨今では自家発電やマイクログリッドなどがよく話題になる。しかし、そもそも地中化はコスト以前に早期のレジリエンス(復旧)に不向きで、複線化は大きなコストをかけた場合のベネフィットが都心部のような需要密集エリアでないとレジリエンスという意味ではバランスしない。日本は人口減少に比例して将来的にエネルギー需要が減少していくため、都心部以外のエリアへの投資としては効果(リターン)が非常に低い。再生可能エネルギーなどによる自家発電やマイクログリッドは、供給力として未だ不安定なシステムに誰がコストをかけて先行投資するのかという課題が付いて回る。

一方で、政府は電力自由化による競争を促進し電気料金を低減するために、電気の小売事業者が支払う電力ネットワークの使用料金(託送料金)をとにかく引き下げたいと考えている。託送料金は家庭向け電気料金の3割を占め、その内訳には電力ネットワークの維持管理に係る人件費、設備の修繕費はもちろん、今回の台風被害のレジリエンスコストも含まれる。

電力に限らずインフラビジネスでは、競争が自由化されても安定運用が当然のものとして求められ、災害や事故が起きた場合は、コスト論を超えて社会的責任として早期の復旧が求められる。そこには必ずレジリエンスコストがかかるが、“誰”が“どの程度のコスト”を“どのような方法”で負担するかという課題は被災直後こそ話題になるものの、平時になるとすぐに忘れ去られる。コスト負担無くしてベネフィットを得ることは無いにも関わらずである。

地中化も複線化も自家発電もマイクログリッドも、対策はコスト無くしては実現できない。当面の対症療法として、レジリエンスコストの考え方や託送料金への算入も含めて託送料金のあり方について国(経済産業省)の審議会で議論が始まっている。しかし、将来的には電力ネットワーク事業者や電力ユーザー(需要家)としても、どこまで現在の電力ネットワークによる送配電を持続できるのか、レジリエンスと称して旧来の電力ネットワークを強化すべきなのか、電力ネットワークによる送配電という旧来のアセットマネジメントを転換し、例えばエリアによっては常時バッテリーのみで電力供給するなど、最適なアセットマネジメントについて大きく考え直す必要があるのではないか。アセットマネジメントの最適化という議論の中で地中化や複線化によるレジリエンスコストの負担、自家発電やマイクログリッドへの投資が語られるべきではないかということを、今回の台風被害を踏まえて改めて考えさせられた。

 

D-nnovation Perspectives その他の記事はこちら

D-NNOVATION スペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル

三木 要/Kaname Miki

三木 要/Kaname Miki

デロイト トーマツ グループ パートナー

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー パートナー 大手電力会社において、電源立地企画、経営計画策定、エネルギー事業・制度リサーチ、政策調査・折衝、法務業務など、エネルギー政策全般に幅広く対応。クライシス対応の経験も深く、巨額の損害賠償対応についてチームアップおよび制度の基本設計、マネジメントを統括し、マスコミ対応や官公庁折衝にも従事。 一部上場素材メーカーの事業企画部長として事業計画