Posted: 11 Oct. 2019 3 min. read

新たな経済成長モデル「サーキュラーエコノミー」への変革に今こそ着手すべき

~デジタル時代の新しい企業競争力の源泉

海洋プラスチックごみの問題がG20大阪サミットでも大きく取り上げられたように、日本でも、最近になってようやく、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への関心は高まりつつある。しかし、企業の事業部門の担当者からの反応は冷ややかだ。「要するに、リサイクル、CSRだろう」、さらには「コストがかかるだけで、利益には結びつかない」というものである。しかし、どちらの理解も正しくない。サーキュラーエコノミーは、従来の3R (リデュース、リユース、リサイクル)の概念を超えて、企業を持続的成長に導く新しいビジネスモデルだからだ。

植物の入ったシャーレを持つ子供の画像

「取って-作って-捨てる」という、大量生産・大量消費のリニア型ビジネスモデルで成り立ってきた経済成長モデルはすでに転換期を迎えている。ミレニアル世代、Z世代の若者を中心に、消費行動が変化し、モノからコトへ、所有から利用へと、求める価値が変化している。企業もそれに合わせて、従来の「売り切り型」から、PaaS(製品のサービス提供)、シェアリング、従量課金、サブスクリプションといった「利用促進型」のビジネスモデルへの転換を迫られている。顧客とのつながりや共存を実現するビジネスモデルの再構築が必須であり、それをドライブしていくための新しい視点がサーキュラーエコノミーである。

従来のビジネスモデルでは、企業(製造業)の主な関与は、原材料の調達、製品の設計と製造、販売までのプロセス、一方通行型(リニア型)にとどまっていた。一方で、サーキュラーエコノミーのモデルでは、販売後の利用状況を把握して新たな価値を顧客に提供し、さらに、使用済みの製品を回収、修理し、再資源化までを一体的に取り組むことで製品価値を最大限にまで高めることを目指す。自社だけでなく、関連するステークホルダーと一緒になって新たな収益機会を創出、拡大するのだ。資源への依存度(インプット)と、環境負荷の影響(アウトプット)を限りなくゼロにしつつ、同時に、経済成長を達成するソリューションなのである(図参照)。この結果、資源効率性が向上し、省エネ、省CO2などが進展し、企業の持続可能性を高めることにつながる。

何より、近年の急速な技術革新がこうした流れを強力に後押ししており、デジタルテクノロジーの徹底活用が要となる。特に、顧客接点となる「利用」の局面では様々な対応が考えられる。例えば、デジタルプラットフォームを活用してシェアリングサービスを提供し、従量課金型のサービスで顧客層を拡大することができる。また、IoTセンサを活用して製品の使用履歴を詳細に把握することで、メンテナンスサービスを最適化したり、製品やパーツ等の修繕・修理を適正化したりして、製品のライフタイム全体での提供価値を高めることもできる。このように、あらゆる局面において、デジタルテクノロジーを徹底活用することで、製品の稼働率を上げ、提供価値を高めることができ、結果として、資源効率性を向上させることにつながる。

サーキュラーエコノミーのビジネスモデルのコンセプト
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問題は、これを個社に当てはめたとき、自社製品・サービスのバリューチェーン上のどこから手をつけ、誰と組んで、どのようにビジネスモデルを再構築し、新たな提供価値を創出していくのか、という具体論である。モノからコトへ、所有から利用へ、という流れは、製造業にとって、生産量・販売量のトップライン低下というリスクをもたらす。このため、経営トップによる決断が必須となる。この問いに関しては、サーキュラーエコノミーの実践を通じて自社が実現すべき将来の姿を明確に定義し、中長期な視点で解くべき課題・ニーズの重要性を評価し、自社が勝ち抜ける可能性の高い領域を考え抜き、見極めることが重要となる。素材をバイオ由来などの環境配慮型のものに変えるのか、効率的に部品・製品を回収・修繕し、再利用するのか、シェアリング・サブスクリプションなどのビジネスモデルを変えるのかなど、収益機会を拡大するための様々な選択肢がある。各社、各業界で状況が異なる中、自社目線で社会課題の優先順位を見極め、将来を見据えた取り組みを今まさに始めることが求められている。

 

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