フリーランスやスタートアップ企業が手軽に活用できるオフィスとして近年増加してきた「コワーキングスペース」だが、昨今は大企業の従業員の利用も増加し、新たな働く場として、大企業の変革のきっかけにもなり始めている。
コワーキングスペースとは、シェアオフィスにも似ているが、その名の通り「コワーキング=共同で働く」という点を特長としており、企業間の交流が特に意識されている。大企業では新規事業部門の従業員が利用することが多く、その目的は異業種交流をしてオープンイノベーションを起こすことにある。
オープンイノベーションというと、社内と社外のアイデアや技術を組み合わせて、新しい価値を創造するために、共同研究やインキュベーションプログラム、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)によるスタートアップへの投資等が進められることが多い。それらに加えて、コワーキングスペースをきっかけとしたオープンイノベーションも進められつつあり、実際にコワ―キングスペースの空間で大企業とスタートアップがつながり、スタートアップの技術を活かした、今までにない新商品を生み出したケースもある。
コワーキングスペースを活用することのメリットとしては、スピードの速さがある。コワーキングスペースに集まってきている人は、何か新しいことを実現したいという志があるので、お互いの思いを共有しやすく、事業化へのプロセスが従来よりもスピーディーに進むのである。
大企業がイノベーションのためにコワーキングスペースを活用する背景には企業内での変化も挙げられる。それは、企業と働く個々人との関係性が変化し、企業の役割が「個を活かす」ことにシフトしていることである。
人口減少下における企業にとっては、働く個々人のパフォーマンス向上が一層重要になり、個の力や意欲を高めることは企業の優先アジェンダになる。同時に、個々人の価値観も変わり、フリーランス、副業・兼業といった働き方が多様化している。個人同士が新たなネットワークや異なるアイデアと触れ合う創発こそが、組織の成長の原動力になる時代になっている。
企業の中には、実はアイデアを持っている人や、イノベーションの情熱や能力を持っている人が結構いるが、日本では既存の出来上がった事業や組織が強すぎるがゆえに変革の妨げとなる。そんな中でコワーキングスペースを活用し、企業と個人の既存の関係性を残しつつも旧来の縛りをより柔軟にすることで、外部の異なるものと混じり合いを促し新しいものをつくっていくスタイルは、日本らしい変革のひとつのやりかたと言える。
今後の企業の役割は、組織間の垣根を低くしてより外部と交わり、更に個の創発力を高め、アイデアを持つ個人を後押しする役割にシフトしてゆくだろう。
デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティチュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)