オーストラリアの気候変動に対する取り組みと日本企業|D-nnovation Perspectives|Deloitte Japan ブックマークが追加されました
リラックスした楽観的な国民性で知られているオーストラリア人。しかし、気候変動への対応は加速度的に強化されている。その背景には、長年に渡る山火事や干ばつの影響がある。
日本の洪水や地震のように、オーストラリアでは毎年のように森林火災が発生している。だが直近の山火事は6か月間にも渡り、歴史的な規模となってしまった。1000万ヘクタール以上の広大な農場や土地が灰へと変わり、民家約3000棟が燃焼し、30人超の死者と共に、カンガルーやコアラなどの約10億以上の野生動物が失われた。大惨事となった森林火災や年々悪化する干ばつには気候変動が大きく関係している。
オーストラリアでは、経済、生命、健康へ気候変動が及ぼす影響が他国よりも直接的で大きいと言われる。よって、環境政策に積極的に取り組み、対策をしていかなればならない。近年の大災害に対する悲しみ、怒りや未来に対する恐怖と共に、国民や企業の気候変動やSDG (Sustainable Development Goals)への問題意識や圧力は高まり、国内の様々な場所でサスティナビリティプロジェクトが盛んになっている。資源輸出を礎に長年良好な関係を築いてきた親日国であることもあり、省エネや環境に配慮した技術を得意とする日本企業との連携が進む分野も多岐にわたっている。具体的な例としては以下が挙げられる。
オーストラリアは現在、化石燃料への依存を減らすために、より環境にやさしいエネルギーを生産し、輸出しようとしている。水素エネルギーサプライチェーン(HESC)プロジェクトは、ビクトリアの褐炭を液体水素に変換して日本に輸送することを目的としたサプライチェーンプロジェクトである。この世界初のプロジェクトは、パイロットフェーズの一環として2021年に日本へ水素を輸送し、完全な商業運転は2030年を目標にしている。HESCプロジェクトは、いくつかの日本大企業とオーストラリアの大企業で構成されるコンソーシアムによって進められている。
「グリーン」テクノロジーへの大規な投資により、シドニーのセントラルパークの各建物は、それぞれ5つのグリーンスター(※)を満たしており、地区全体で卓越した環境基準を達成している。セントラルパークの大部分は、日本の大手住宅建築業者とオーストラリアの大手不動産会社が共同で開発している。この地域には独自の低炭素天然ガス発電所があり、住民と労働者のために熱エネルギーを生産している。再生水ネットワークも実装されており、リサイクルされた水は家庭や企業のトイレの水洗、洗濯機の使用、空冷などにおいて50〜70%が再生水を使用できるようになっている。
※オーストラリアにおけるビルの持続可能性を評価する自主的な取り組み。1~6のステージがある
多くのオーストラリアの農業地帯では、ドローンがスマートアグリの実践と収穫量の強化に利用されている。ハイテクの光学センサー、熱センサー、湿度センサーを備えた農業用ドローンは、土壌、植物の健康、成長率、肥料要件、雑草、害虫、天候の被害に関する情報を農場主に即時に提供できる。日本のドローン企業も、オーストラリアの主要な農業拠点にオフィスを設立し、オーストラリアの農業ビジネスを支援している。
このような事例に共通するのは、気候変動やSDGの課題に社会イノベーションを通じて効果的に対処する上で、民間企業と政府、コミュニティの間でのコラボレーションが推進されているということである。外国企業によるオーストラリア地元企業との協力による投資も、資本、技術、専門知識、人的資源などのソリューションを提供し、こうしたイノベーションをさらに加速する上で不可欠であろう。現在、西シドニー進められている豪州最大規模の22世紀型の新空港とスマートシティの開発も、気候変動やSDGへの対応を前提とした大型開発案件である。規模に加え、斬新なコンセプトの注目に値するプロジェクトであり、日本企業が海外投資家やスマートシティ実現のための強力なパートナーとして大きな役割を期待されている。
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Shin is a Certified Public Accountant in Japan with over 21 year experiences in Japan, Australia and the United Kingdom providing assurance, advisory and accounting services to various sizes of organisations including retail and distribution businesses, trading houses and Energy and Resources. He is also a leader of Japanese Services Groups coordinating various services lines within Deloitte for Japanese clients. Before Shin moved to Australia, he was responsible for one of SEC listed audit engagements in Tokyo which required intensive US GAAP and J-GAAP expertise. During his time in Tokyo, his knowledge extended to energy and resources and financial industries. In 2004, he was seconded in the United Kingdom and involved in a number of IFRS implementation work and complicated US GAAP implementation projects. He gained in-depth understanding of the operation of Japanese subsidiaries and skills to manage complicated processes and changes at clients by coordinating relevant service lines within the firm and counterparts in Japan. 1999年に監査法人トーマツに入所し、大手商社やグローバル企業子会社の監査業務に従事する。 2004年10月から18か月間の英国デロイトへの研修勤務期間に、現地監査マネジャーとして国際会計基準の監査並びに米国基準のプロジェクトに携わる。 2008年よりデロイト・パース事務所に駐在し、監査業務のみならず、会計アドバイザリー業務、税務やコンサルティング部門の日系クライアントサービスのサポートならびに豪州へのインバウンド投資におけるサービスコーディネーションと業務獲得のための開発業務を多くリードする。 2015年より豪州・オセアニアの日系サービス・グループリーダーとしてシドニーに異動。 近年では、監査パートナーとして日系企業子会社の監査責任者を務めるとともに、コンサルティングチームと協働した会計アドバイザリー業務に多く関与している。またIFRS導入プロジェクトにおいてテクニカル・アドバイス提供するとともに、日本や豪州の各地にて会計やM&A投資のセミナー講演を多く行っている。