Posted: 13 Nov. 2020 2 min. read

引当金の平準化で融資継続

新型コロナウイルスの流行は、金融機関の存在意義を問い直している。企業の資金ニーズに対応することで地域経済の下支え役を担っているのは既知の事実だ。だが、融資の焦げ付きに備える貸倒引当金の急増に頭を抱える銀行の経営者も少なくない。

コロナ禍の深まった3月から、民間の金融機関による貸出金の増加額は約30兆円に上る。中小企業向けの保証付き融資も少なくないが、融資の残高に応じて増減する貸倒引当金は、足元で膨張圧力が高まっている。

貸倒引当金には過去の倒産実績に基づいて計上する一般貸倒引当金と、経営破綻している企業など信用度の低い債権を手当てする個別貸倒引当金の2つがある。コロナ禍のような不況時には両者が連動して増加するため、銀行の資本余力が低下し、金融が目詰まりを起こすリスクがある。

金融庁は2019年、検査マニュアルを廃止し、過去の実績にとらわれない引き当て手法に道を開いた。こうしたなか、一部の銀行で、将来の見通しに応じて引当金を算定する「フォワードルッキング(FL)引き当て」と呼ぶ手法の導入が進んでいる。

リーマン危機を経て、平時から危機への備えを厚くする機運は国際的にも高まっている。流れを踏まえたうえで、FL引き当てを使った引当金の標準化を提案したい。

従来手法では不況時に倒産が発生すると、個別引当金が増える。過去の倒産実績に基づいて計上する一般引当金も増えるため、銀行経営にはダブルパンチとなる。

だが、FL引き当てを導入し、将来の景気悪化を見越したうえで一般引当金を計上できれば、足元が好況でも、引当金の積み増しで将来の不況時に備えられる。

不況時に引当金を積み、好況時に取り崩すような従来の手法は、不況時の貸し渋りなどを通じ景気変動を増幅させるとされてきた。FL引き当てが定着すれば、こうした副作用を軽減できる。

苦境に陥った取引先の支援に汗を流すためには、不況時にも銀行が十分な健全性を確保しておく必要がある。コロナ禍による経済収縮が現実味を帯びる今こそ、銀行はFL引き当ての導入を真剣に検討すべきだ。

 

※本稿は2020年11月12日付けの日本経済新聞の「私見卓見」欄に掲載されました。

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル

桑原 大祐/Daisuke Kuwabara

桑原 大祐/Daisuke Kuwabara

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ パートナー。大手金融機関においてデリバティブディーリング、市場リスク管理、ALMを担当の後、大手監査法人系コンサルティング会社を経て現職。リスク管理と経営管理を中心に、金融機関に対するアドバイザリーを行うと同時に、非金融インダストリーの金融ビジネスの戦略立案等に従事。米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校経営学修士(MBA)。共著に「バーゼルⅡ対応のすべて(2008年・共著、金融財政事情)」、「内部監査高度化のすべて(2010年・共著, 金融財政事情)」、「これからのストレステスト(2012年・共著, 金融財政事情)」、「バーゼルⅢ自己資本比率規制計算とリスク管理実務の完全解説(2015年・共著, 金融財政事情)」、「気候変動リスクへの実務対応~不確実性をインテグレートする経営改革(共著・中央経済社)」があり、「週刊金融財政事情」に執筆多数。金融庁、全国地方銀行協会、第二地方銀行協会、金融財政事情等の主催セミナー講師実績多数。