ここ数年、生命保険会社が様々なアプローチで顧客との距離を縮めている。
具体的には、婚活パーティーの開催、妊娠・出産・子育て相談サービスの提供、がんや認知症の予防アプリ等、多岐に渡る。
この背景には、継続的な顧客接点の形成がある。保険会社の顧客との接点は、従来は契約、及び保険金の支払いのタイミングを中心に限定的だったが、今後は長い人生の中での様々なライフイベントを起点に顧客接点を増やし、継続的な関係にシフトしようとしている。
多様な顧客接点を持つことで、新規契約や保険の追加・見直しのきっかけにするだけでなく、顧客接点から得られた情報を元に、デジタル技術と組み合わせてその人に合った保険をつくる「パーソナライズ化」をより精緻に実現する、という狙いもある。
一方で、中長期的にはこれから労働力人口が減少し、国内マーケットは縮小していく。その中で、保険会社は変化していくのだろうか。
私は、保険の枠にとどまらず、社会課題解決型の事業を強化していくと見ている。保険会社の社会課題解決というと、機関投資家として行うESG投資があるが、今後はそれに加えて顧客向けの商品・サービスの開発が進むだろう。社会課題解決型の商品・サービス開発におけるカギは「存在意義の問い直し」である。
保険会社の存在意義について歴史を紐解いてみると、「みんなでお金を出し合い、万が一何かあった時には助け合う」という「相互扶助」の精神があり、保険会社はそのプラットフォームとして社会に貢献してきた。
労働力人口の減少や顧客ニーズの変化、テクノロジーの台頭等の外部環境の変化を受ける中で、保険会社は原点に立ち返り、「相互扶助」の精神の下、既存事業の枠を越えた新たなプラットフォームで社会価値を生もうとしている。
例えば、保育施設運営会社と連携した保育所のシェアリングサービスや、高齢社会で安心して年を重ねるための介護サービス、自治体と連携した健康増進イベント等、業界を越えて新しいことに本気で取り組んでいる。
社会課題解決型事業の潮流は保険業界にとどまらず、自動車、エネルギー、アパレル等様々な業界で起こり始めている。日本企業は自社の存在意義を見つめ直す時が来ている。
デロイト トーマツ グループ 執行役 デロイト トーマツ インスティチュート(DTI)代表 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 中央大学ビジネススクール 大学院戦略研究科 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会会員、国際戦略経営研究学会 理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター 経営戦略および組織改革が専門。 主な著書 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社)、「自己変革の経営戦略」 、「ポストM&A成功戦略」、「クロスボーダーM&A成功戦略」(いずれもダイヤモンド社)など。 関連サービス ストラテジー・アナリティクス・M&A(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ