Posted: 20 Jan. 2020

スポーツがつなぐ力 ~「今治モデル」の軌跡と今治東の全国大会初出場を振り返る

今年の全国高校サッカー選手権は静岡学園の劇的な優勝で幕を閉じました。5万人を超える観客の中での感動的な試合でした。サッカー王国静岡の復活を感じさせる個人技を大切にした素晴らしいチームでした。

その静岡学園に3回戦で惜敗したのが、愛媛県代表の今治東中等教育高校です。FC今治のオーナーとして私もスタンドで応援しました。また我々のアドバイザーであるラモス瑠偉さんや我々のコーチもたくさんスタンドに駆けつけました。

結果は敗れてしまいましたが、初出場にもかかわらず王者静岡学園に恐れることなく、対等に近い戦いをしてくれた事は応援していた人の心に響いたと思います。

スポーツがつなぐ力

5年前、私がFC今治のオーナーになり、市内に家を借り、街を歩いていてびっくりしました。街の中心にデパートの跡地などの更地があり、港に続く長い商店街はほとんど人が歩いておらず、多くの店のシャッターが降りていました。

「これではFC今治が強くなっても見にきてくれる人がいなくなる、クラブが立っている場所がなくなってしまうのではないか」と背筋に悪寒が走ったのを覚えています。

そこで、先ずはサッカーで少しでも街を元気にできないかと「今治モデル」ということを考えました。市内に27ある少年団の指導者や中学校、高校の指導者の方々にもお会いして、「みんなでFC今治を頂点とする一つのピラミッドを作りましょう。その中では、我々のコーチを派遣して、岡田メソッドを無償で指導します。また指導者の交流やFC今治のトップの選手が一緒にプレーする機会を作ります。小さいけど日本一質の高いサッカーのピラミッドを作りましょう。」と話して回りました。

そしてその頂点のFC今治が、面白いサッカーをして強くなったら、全国から今治でサッカーをしたいという子供や若者たちが集まってくるだろう。岡田メソッドを勉強したいという指導者が国内だけではなく海外からもくるだろう。そういう外から来た子供や若者を老夫婦だけになった家にホームステイさせて、御老人がアスリートの食事の勉強を始めたり英会話を始めたり、子供たちがタブレットでおじいちゃん、おばあちゃんの買い物をしてあげたり・・・気がついたら街が妙にコスモポリタンで活気に満ちた雰囲気にならないだろうか?

そんなホラに近い夢を語っていたら、今治のサッカー指導者たちがどんどんと仲間になってくれました。我々のターゲットとしては、将来的に「今治モデル」で育った選手が、FC今治のトップチームで活躍し、日本代表選手になってくれることですが、当面今治の高校が全国大会に出ること、特に注目度の高い全国高校サッカー選手権に出ることでした。

今回それが5年目で、目の前で現実になったのです。

もちろん経験豊富な谷監督の力がほとんどですが、我々も少しお手伝いできたという充実感がありました。今治の街でも盛り上がっていたそうです。

サッカーをきっかけに街の人が一つになり、新たな絆が生まれてくる。

これからIoTやAIが発達してきて、テクノロジーの力でより便利快適な社会になるでしょう。しかし人間の幸せはそれだけではなく、困難を乗り越えたときの達成感、人と一体になり事を成し遂げたときの絆、つまり数字では表せない「目に見えない資本」、これがなくてはならないものなんだと改めて確信しました。

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プロフィール

岡田 武史/ Takeshi Okada

岡田 武史/ Takeshi Okada

デロイト トーマツ グループ 特任上級顧問

大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学でサッカー部に所属。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本戦出場を実現。その後、Jリーグでのチーム監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、2010年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、2014年四国リーグFC今治オーナーに就任。今治から世界に勝つための新たなクラブ体制作りに取り組んでいる。 2014年デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 特任上級顧問就任を経て、2019年デロイト トーマツ グループ 特任上級顧問に就任。スポーツクラブ経営者としての知見や実績も積極的に取り入れながら、スポーツビジネス領域において、企業、政府・地方自治体、地域社会、教育機関、投資家などを広く巻きこんだ、裾野の広い事業機会の開拓に向けてアドバイスを行っている。