Posted: 19 Mar. 2020 3 min. read

「空飛ぶクルマ」が生む新ビジネスの可能性

2020年に入り、「空飛ぶクルマ」分野の業務提携や巨額出資など、様々な日本企業による実用化に向けた動きがいくつも報じられている。なぜ「空飛ぶクルマ」はここまで注目されるのだろうか?その理由は、この次世代の乗り物が我々の社会やビジネスに大きな変化をもたらす可能性があると考えられているためだ。

 

「空飛ぶクルマ」とは、経済産業省が策定するロードマップでは、「『電動・垂直離着陸型・無操縦者航空機』などによる身近で手軽な空の移動手段」とされている。従来の“空を飛ぶ”乗り物である航空機やヘリコプターと比較して、静音性、利便性、コスト等の面で、より日常・近距離の移動ニーズにマッチしやすい特徴を備えており、遠距離移動の場合にしか想定されなかった「空の移動」をより身近にしていくポテンシャルを秘めた乗り物と捉えられる。2020年代半ばの事業化が目標とされており、実現した場合に具体的にどのようなビジネスが生まれるだろうか。また、既存の産業にどのような影響が起き得るだろうか。

 

まずは、当然ながら機体、機体部品、ソフトウェア、管制機器などのモノを提供するメーカーが出現し、「空飛ぶクルマ」に関連するサプライチェーンが構築されていく。サービスとして典型的に構想されているのは、“Air Taxi”と呼ばれるようなオンデマンドの人の輸送サービスや、ラストワンマイルを中心とした物流サービスなどだ。これらの担い手は、実際に機体を保有・運航する「オペレーター」と、ユーザーと空き機体/離発着場をマッチングする「サービスプラットフォーマー」によって構成されると予想される。また、「空飛ぶクルマ」事業に関連する各種リスクをヘッジするため、自動車分野と同様に様々な保険商品が開発されていくことが容易に想像できる。

 

インフラとしては、”Skyport”や”Vertiport”とも呼称される離発着施設を保有・運営し、機体の格納・保管や、バッテリー交換、各種整備サービスなどを提供する事業者も登場するだろう。これらの事業者は直接的な「空飛ぶクルマ」関連サービスのみならず、従来の空港管理者や鉄道駅管理者のように周辺施設の管理・運営や、リテール事業等を組み合わせた事業を展開する可能性もある。また、都市開発・エリアマネジメントの一環として、既存の大手不動産ディベロッパーが離発着施設運営に進出する可能性もあろう。さらに、地上の自動車関連サービスにはない、「空飛ぶクルマ」に特徴的なサービスとして、空を飛ぶ機体の飛行ルートを効率良く、かつ安全に制御するための「管制サービス」を担うプレイヤーも必要となる。昨今の公共サービス民営化の流れからみても、当該サービスの担い手が民間事業者になる可能性は考えられる。

このように「空飛ぶクルマ」を巡って裾野の広いビジネスエコシステムが形成されていくことが予想される中、1つの大きな特徴として着目されるのは、業界横断的な連携が促進されていく可能性が高いという点である。実際に、既に「空飛ぶクルマ」に関連するプレイヤーの動向をみると、既存の航空業界大手メーカーと自動車業界大手メーカーが互いに提携したり、特定のスタートアップに協調投資したりといった動きがみられる。これは、“空を飛ぶモノを開発・維持する”技術・ノウハウを蓄積してきた航空業界と、“大衆化した乗り物を大量生産する”技術・ノウハウに一日の長がある自動車業界が互いの強みを活かしながらWin-Winの関係を目指そうとしている構図と捉えることができよう。

 

そして、今後「空飛ぶクルマ」を活用した具体的なサービスが展開されていく段階に入れば、ユーザーの移動特性を適切に分析した上でのマッチングや、効率・安全を両立させた最適な飛行ルートの解析・提案などを実現するためのアルゴリズムの開発に長けたソフトウェア関連プレイヤーや、これら全体システムのインフラを支えるセキュリティ関連プレイヤー、通信関連プレイヤーの存在感も大きくなってくるだろう。「空飛ぶクルマ」に関連するビジネスには様々な業界からの参入可能性が開かれており、既存の産業構造を一変させる可能性が秘められている。

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