児童労働のない製品の関税をゼロにする国際通商ルールの提案|D-nnovation Perspectives|Deloitte Japan ブックマークが追加されました
今日6月12日は児童労働反対世界デーであることをご存じだろうか?国際労働機関(ILO)が2002年に定め、児童労働の問題に対して意識を高めるための様々な活動が行われている。一方で「児童労働」と聞いて、どこか遠い国の問題と思われる方もいるのではないだろうか。しかし、この問題は、我々の生活と決して無縁ではない。児童労働とは、義務教育を妨げる労働や危険・有害な労働のことを指し、国際条約で禁じられている。国際労働機関の最新の発表によると、世界の子どもの10人に1人(1億5200万人)、アフリカでは5人に1人が従事している。9割はアフリカやアジアの途上国におけるものだが、日本でも建設現場の危険労働や広告業界での深夜労働の例が報告され、児童買春や人身取引の被害件数は増加している。
世界の児童労働の7割は、カカオ、コットン、コーヒー、エビ加工等の農林水産業に集中しているが、スマートフォン等に使用される希少金属を採掘する鉱山労働、電気製品の解体作業など様々な場面で行われている。これらを消費または利用する先進国の企業、そして消費者は、間違いなくこの問題に加担していることになる。
SDGs(持続可能な開発目標)のターゲット8.7は、2030年までに強制労働、現代奴隷、人身取引に終止符を打ち、2025年までにあらゆる形態の児童労働を終結させることを謳っている。しかし期限内の達成は極めて困難な状況である。
問題が解決されない根源的な原因は「経済合理性」との矛盾にある。収益確保を最優先とする企業活動において、短期的なコスト削減だけを考えると、低コストまたは無賃金での労働者の酷使は目的に適ってしまう。つまり企業には、児童労働をなくすインセンティブが存在しにくい。しかし児童労働による企業活動が、かえってコストアップになる仕組みができたならば、企業は利益追求を目的としても問題発生を抑えようとするだろう。
児童労働の撤廃と予防に取り組む認定NPO法人ACEは、ガーナ政府と連携し「児童労働のない地域(Child Labor Free Zone; CLFZ)」の設立とコミュニティにおける仕組みづくりを推進しており、デロイトトーマツ コンサルティングはACEと協働で、CLFZ設立のためのガイドライン策定を支援してきた。2020年3月にはガーナ政府によりガイドライン発効が宣言され、今後はカカオ農家や漁村などを中心に、CLFZが拡大する予定である。
これはCLFZ制度を活用して、児童労働に依らない製品の優先的な調達を促進し、児童労働撤廃への動きを大きく加速させるものである。このような社会的厚生の最大化を目的とした関税無税化は、既にIT製品や医薬品に関して適用されており、実現可能性は十分にある。
児童労働に依るほど儲かってしまう現状の仕組みから、児童労働に依らないほうが儲かる仕組みをつくる、この「経済合理性のリ・デザイン」こそが、問題解決の近道である。
児童労働反対世界デーにあたり、実は身近な児童労働問題について、考える機会としていただければ幸いである。
コンサルティングファーム、投資ファンドを経て現職。企業のサステナビリティ、イノベーションに関する戦略立案や経済産業省の受託調査、NPO/NGOの事業計画策定に従事。日本のNGO ACEと協働で、ガーナにおける児童労働の撤廃と予防に関するガイドライン策定を支援。