Posted: 24 Dec. 2020 3 min. read

米国大統領選がもたらしたもの

トランプからバイデン政権に継承される脆弱性

大統領選挙は良くも悪くも歴史的なものとなった。パンデミック下での実施、稀にみる接戦、勝者未確定、不正を巡る多数の訴訟、等々、話題に事欠かない。

率直に言って、今回の選挙は米国が抱える根深い問題を如実に示すものであった。様々あるが、社会的連帯感とでもいうべき感覚の欠如がとりわけ顕著になった。政治でいえば党派対立、経済でいえば貧富の固定化、社会でいえば構造的差別、福祉でいえば医療弱者の存在、これらが連帯感を感じさせることを難しくさせている。それどころか、コロナ禍と選挙戦を通じて「分断」が一層深まった。

コロナ禍に対する米国の対応は決して褒められるものではなかった。議会は当初こそ矢継ぎ早に巨額の財政支援を決めたが、その後は党派対立に回帰した。連邦政府と州政府の足並みの乱れを含め行政は機能不全に陥った。メディアは偏向報道に終始した。ビッグテック企業はその影響力をどのように発揮するか、最後まで立場を明確にできず、結果的に分断を助長することになった。

こうした社会の各所における歪みがコロナ禍をきっかけに一気に噴出した。コロナ禍が日常生活へ影響し、これが直ぐにマクロ経済全体に波及し、それを受け政治の党派対立が深まり、社会不安が高まるなかで、人種差別を含む構造的差別が悪化し、メディアが狂乱し、人々の不満が爆発し、民主主義が揺らぐとまで言われる事態に陥った。見事なほどに負のサイクルが回った一年であった。

悩ましいのはこうした脆弱性を解決する方策が見いだせていない点にある。今の米国では、政治(P)、経済(E)、社会(S)、技術(T)、法制度(L)、環境(E)に内在する問題が、何か一つのショックで互いに増幅してしまう状態にあるようだ。こうした構造的な問題はトランプ大統領からバイデン大統領に政権が移行すれば解決に向かうと考えるのは早計であろう。

では、日本企業は何をすべきか?PESTLEの観点からシナリオを練るのが第一歩であろう。その際に、次の政権が短命に終わるリスクや政策の方向感が数年単位で変わってしまう可能性を念頭に投資分野と投資期間を練る必要がある。特に環境とテクノロジーについてはこうした検討が必要である。環境分野では、米国がサステナビリティ分野で一機に巻き返しに動くシナリオもあり得る。世界最大&最強の資本市場がこれを後押しするとなれば、米国の躍進も視野に入ってこよう。テクノロジー分野では、米中間のTechno-nationalismと米国内のテック政策を両面から見ていくことが必要である。政策内容如何でテクノロジー分野における米国の競争力が大きく毀損する可能性もあり得よう。2021年の米国については、構造問題を大局的に見守りつつ、環境とテクノロジーに注目したい。

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岩井 浩一/Koichi Iwai

岩井 浩一/Koichi Iwai

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ 所属。日本銀行、運用会社、銀行、証券会社、金融庁において、マクロ経済・金融市場調査、信用リスク管理、金融規制調査等に従事。トーマツ入社後、大手金融機関のクライアントを中心に、リスク管理、規制対応、経営管理高度化に係るアドバイザリー業務に従事。2018年12月からNY駐在。