第1回:なぜロボットか?ウィズコロナ時代の成長産業|D-nnovation Perspectives ブックマークが追加されました
新型コロナウイルスは収束する気配はなく、世界中の人々はコロナと共に生きることを余儀なくされている。ウィズコロナ、アフターコロナの時代では、いわゆる『ニューノーマル』の生活様式や企業活動が模索されている。ウィズコロナ時代の『ニューノーマル』を機会とするためには、現在、特に成長が有望視される分野に優先的に取り組むことが重要なのは自明であろう。このブログ連載では注目分野の一つである、『ロボット』について様々なテーマを取り上げながらビジネスのヒントを考察していきたい。
筆者は、日本企業はロボット事業に取り組むべきと考える。その理由は、①人類共通の課題であるコロナ対応で更なる市場規模の拡大が見込まれること、②日本はロボット大国かつ課題先進国であること、③ビジネスにおけるロボットの役割が変化していること、の3点に集約される。下記に詳述する。
新型コロナウイルスの影響が顕在化する以前から、ロボットの市場規模は増加しており、将来の成長市場と見られていた【図1】。新型コロナウイルスは人と人が物理的に接触することで、ウイルスが蔓延していく特徴がある。このような、非接触・非対面の問題を解決するために、ロボットは非常に有効なソリューションである。従来は労働者不足がロボット導入の判断材料であったが、ウィズコロナの現代では、たとえ労働者が充足されていたとしても人との非接触環境を実現する場面ではロボットの導入が進んでいくものと考えられる。ウィズコロナの時代では、ロボットが一層の役割を担うことが期待され、広範な潜在事業機会があるものと推察される。
日本は、ものづくりの用途である産業用ロボットで世界一の市場規模を誇り、また、いわゆる4大メーカーのうち2社は日本企業である。ユーザーについても代表的な自動車メーカーなどの産業用ロボットはもとより、ペット型の家庭用ロボットなども広く受け入れられてきている。このように、日本はロボットを作る側、使う側の双方でロボット大国である。また、少子高齢化の影響を受けた労働者不足と消費者の高い要求水準があいまった課題先進国(例えば、2018年頃の宅配便の再配達問題)でもあり、ロボットを活用した社会課題解決で、世界に一歩先んじる環境にある。
ロボット市場は製造業向けの産業用と非製造業向けのサービス用(更にB2Bの業務用、B2Cの個人・家庭用に細分化される)に大別される。将来的なボリュームゾーンは産業用からサービスロボットへシフトしていくことが、見込まれている【図1】。すなわち、ロボットの主要な役割が、工場内のものづくりから店舗や家庭でのサービス提供にシフトするということを意味する【図2】。また、ロボットはハードウェア×ソフトウェアが高度に融合した自動化システムである。日本のロボットメーカーはものづくりの産業用ロボットにおいて、ハードウェアと現場でのユーザーとの擦り合わせを通じた、専門家向けのハイスペック・高価なロボット開発を強みとしてきた(資本財的な位置づけ)。しかしながら、サービスロボットの分野では、ユーザーがロボットを活用して消費者にサービスを提供する形態(業務用)、消費者が直接ロボットを利用する形態(個人・家庭用)であるため、使い勝手の良い・廉価なロボットが求められている(消費財的な位置づけ)。このように求められるロボットが変化する中、GAFAをはじめとしたテックジャイアントやスタートアップはAIやクラウドといったソフトウェア側に強みを持ち、5Gの本格運用と相まって、ゲームチェンジを虎視眈々と狙っている。
ウィズコロナの時代は、ロボットの観点ではチャンスであるが、過去の日本企業は、家電やスマートフォンで米国や中国などのテック系企業に後塵を拝した苦い思い出がある。当ロボットブログの連載(毎月1記事を目安)では、日本企業がロボットの世界で家電・スマートフォンと同じ失敗を繰り返さず、世界をリードしつづけるためのヒントを発信していきたい。更なるロボット産業の発展のため、読者の皆様から忌憚のないご意見をいただければ幸いである。
デロイトトーマツコンサルティング合同会社所属。IP&C(Industrial Products & Construction)セクター担当として、業界全体のトレンド分析・将来見通しのほか、ロボット、物流領域のプロジェクトにも従事。ロボット関連の業界団体委員も務める。主な寄稿記事『海外サービスロボット事情〜業務用途における主要事例紹介〜』一般社団法人日本ロボット工業会機関誌『ロボット』2020年5月号(No. 254)掲載