Posted: 29 Jan. 2020 3 min. read

新幹線による鮮魚輸送。そこから見える大企業×スタートアップのカタチ

寒ブリ・寒ボラ・寒ガレイといった言葉もあるように、冬場は旬を迎える魚が数多く、私も鮮魚店に足を運ぶのが楽しみになる季節だ。

この時期にぴったりな取り組みの「新幹線を使った鮮魚輸送」が最近本格的に始まったことをご存知だろうか。

日本海側で朝に競り落とされた鮮魚を新幹線に載せ、東京まで輸送、販売するというものだ。店頭に並ぶまでの時間は5時間で、通常のトラック輸送と比べると時間が格段に短縮された。

運輸

この取り組みは、大企業である鉄道会社と、水産物の卸を手掛けるスタートアップとが手を組んでいる。それぞれの狙いを私は次のように見ている。

  • 鉄道会社の戦略で重要なことは、輸送手段やエキナカ・エキチカというスペースを活用していかに沿線価値を上げるかということ。モノが溢れる時代には、「リアル」なモノを調達・輸送する手段や、販売場所を持っていることへのニーズは高いが、その中で沿線価値向上にうまく繋げられる協業相手を求めている。
  • 水産業界のスタートアップは、まさに「リアル」の典型である魚を取り扱っている。「産地直送」「鮮度」は付加価値を高められる商材だ。大企業のインフラを活用することで、産地の商品をスピーディーに届けられ、多くの人が集まる場所で販売できることは付加価値向上、販路確保の両側面においてメリットが大きい。


今回は店頭での販売であったが、このような大企業とスタートアップがそれぞれ持つ「リアルな経営資源」に、ECのようなバーチャルな世界を掛け合わせることで更なる進化も考えられる。言わば、「リアル」を起点にした、新たなプラットフォームをつくることもできるだろう。そうした可能性を秘めたコラボレーションだと私は見ている。
 

このような大企業×スタートアップのコラボレーションは増えている。大企業内にCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げ、自社事業とのシナジーを求めて有望なスタートアップに投資をしているが、必ずしも成果が出る訳ではない。

これまでデロイト トーマツ グループでは大企業とスタートアップの協業を支援してきたが、その中で成功するポイントが見えてきた。

それは、「大企業がどこまで既存事業を変えられるか」である。

新しいことをやろうとすると、やはり既存事業との利害対立が一部出てくる。例えば、今回の事例では、客席を割いて新幹線の輸送スペースをどこまで拡大できるか、エキナカの店舗スペースをどこまで提供するか、既存のグループ内の貨物業者などとのすみわけをどうするか等、様々な利害対立が考えられる。

大企業がこのような利害対立をどう乗り越えて自己変革し、スタートアップと共に成長していけるかが問われている。

関連リンク

FNN Live News α:JR東のスタートアップ 輸送は新幹線 駅ナカで鮮魚販売

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松江 英夫/Hideo Matsue

松江 英夫/Hideo Matsue

デロイト トーマツ グループ 執行役 CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)