電帳法、要件さらに緩和。“スマートワーク”を加速させるか? ブックマークが追加されました
新型コロナウィルスの感染拡大で変わりゆく日本社会。医療従事者などエッセンシャルワーカーの人々の重要性が改めて認識されるとともに、在宅勤務などによるリモートワーカーのあり方にも焦点が当たることとなった。こうした中で、テクノロジーの活用による生産性・付加価値向上と従業員の働き甲斐を両立させる働き方、すなわち、“スマートワーク”の推進が、企業にとってますます重要な経営課題になってきている。
“スマートワーク”の代表的施策であるテレワーク(在宅勤務など)を進めていく上では、各種業務プロセスが可能な限りデジタル化されている必要があることは言うまでもない。そのためには、環境変化に適応するための業務プロセスの見直しとAI/RPAなどによるオートメーション化推進、取引先との電子契約や電子署名の推進、内部統制の見直し、サイバーセキュリティの強化といった物的インフラのデジタル化は勿論のこと、組織に属する個人にとっての働きやすさ、職場内のコミュニケ―ション、人事評価のあり方などの人的インフラのデジタル化も必要となる。エッセンシャルワーカーを支援する意味でも、こうした物的インフラや人的インフラのデジタル化の推進は必須であろう。
ところで、物的インフラのデジタル化に関しては、いわゆる「e-文書法」という文書の電子保存要件を定めた法律と、国税に係る帳簿書類の電子化について個別に定めたいわゆる「電子帳簿保存法」という法律(税法)がある。「e-文書法」は、広い範囲の文書を対象に電子保存の要件を積極的に緩和する色合いが濃い法律である。他方、「電子帳簿保存法」は、法人税等の租税収入の基礎になるものであることから、納税者による改ざんなど脱税を許容するものではあってはならない。このため、厳格な要件が徐々に緩和されてきたという背景がある。例えば、平成28年度の税制改正でスマートフォン等により撮影した領収書の電子保存が認められるようになったが、領収書の受取者が保存を行う場合は、その受取者が領収書に署名を行うことや受取から3日以内にタイムスタンプを押すことが要件とされていた。電子帳簿保存法(税法)は、会計帳簿及び会計帳簿を作成するために直接関連する書類が対象となっているものであり、すべての書類を対象としているものではないが、企業において書類の電子化が議論される際には、従来から電子帳簿保存法の要件充足の可否が大きな論点になることが多かった。
2020年12月10日、与党による令和3年度税制改正大綱が公表された。経済社会のデジタル化を踏まえた、電子帳簿保存法の抜本的な見直しが行われることが示されている。例えば、領収書などの書面の電子保存(スキャンデータやスマートフォンでの撮影データ)に係るタイムスタンプの付与期間の緩和(3日以内⇒最長約2月以内)や、受取者における自署を不要とするなど、納税者のデジタル化を推進しやすくする改正案が複数盛り込まれている。電子帳簿保存法の改正の他にも、接続性・クラウドの利用・レガシーシステムからの脱却・サイバーセキュリティといった点が確保された事業変革デジタル投資を促進するDX投資促進税制の創設、税務関係書類の押印義務の範囲を縮小する見直し、スマートフォンによる決済サービスを利用した納付手続の創設なども行われる。
各種業務プロセスのデジタル化に関しては、従前より書類の電子化など電子帳簿保存の要件充足が大きなイシューの一つであったと思われるが、税制がさらに緩和されることで企業にとっての利便性が高まることが明確となって来た。上述の通り、デジタル化とは、単なる電子化に留まらず、多岐な論点に跨るものであるが、今回の令和3年度税制改正大綱は、デジタル庁の発足も含め環境変化への適用スピードを上げて行こうとする日本政府の意思を強く示していると考えられる。官民一体となってのデジタル化の加速とともに、“スマートワーク”の推進の動きをも加速させる一つの要素になるのではないだろうか。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/tax/articles/bt/tax-reform-topics.html
税理士 1999年に勝島敏明税理士事務所(現 デロイト トーマツ税理士法人)へ入社。法人税務全般に関して幅広い知識および経験を有している。社内DXプロジェクトのオーナーを務めるなどデジタル化推進の時代における業務経験も有している。 2018年7月〜2022年5月 デロイト トーマツ グループ 評議員 2018年7月〜 デロイト トーマツ税理士法人 理事(現任) 2022年7月~ デロイト トーマツ税理士法人 理事長(現任)