Posted: 14 Jul. 2020 2 min. read

COVID-19の中で考える移転価格対応

【シリーズ】COVID-19とレジリエンス経営

COVID-19が世界経済に影響を与える中で、税務に対する関心も高まっている。企業利益が減少する一方で各国の財源不足も想定されることから、日本のみならず各国においても移転価格見直しの動きが加速されることが予想される。危機終息後を見据えて移転価格のリスクマネジメントの観点から主要なポイントを解説する。

本稿は「COVID‐19とレジリエンス経営」と題し様々な経営課題を毎回20分で解説する連続Webinarからの抜粋記事です。Webinarはこちらをご覧ください。

 

今後の移転価格税制の執行環境

COVID-19と同じように景気後退を迎えたリーマンショック後の日本の移転価格税務動向調査を見ると、課税件数・課税所得金額共に増加しており、今回の危機を経て各国の税務当局は税務調査を行ってくることが考えられる。移転価格に関して税務当局の指摘を受けた場合、取引金額が大きく複数年にわたるものが多く、1件あたり100億円を超える指摘を企業が受けたケースも多くある。移転価格課税リスクは、リスク金額が高いだけではなく経営に与えるインパクトも大きくなる。

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COVID-19対応において考える移転価格対応

COVID-19状況下での移転価格対応は、以下6つのポイントから検討することができる。

1)移転価格戦略とポリシー:日系企業の多くは通常期を前提として現地法人の利益水準を検証する移転価格ポリシーを採用している。連結利益が減少するコロナ禍においても各国で現在の利益率を維持して残余損失を本社が負うべきであるのか、グループ全体の連結水準を考慮して移転価格ポリシーを再検討するのか。

2)サプライチェーン変更:COVID-19の影響を受けサプライチェーン改革を実行する場合、どのような税務上の影響やリスクがあるのか、税務最適化の余地があるのか。事業再編の一環として無形資産を移動する場合、利益の中心であった無形資産を1カ国に置き続けるのか、他国で管理すべきなのか。

3)人材と機能実態:COVID-19によって人材の異動や、それに伴う重要な機能の移管がないか。意思決定の所在地の変更、機能の変更、人材の異動について検証と記録が十分であるか。

4)契約条件:現在の関連者間の契約には価格調整や契約終了などの柔軟性があるのか、もしくは今後柔軟性を持たせる調整が必要か。現時点で影響額を見通せない場合でも、契約条件の変更が可能なようにMOU(基本合意書)などを事前準備しておくことで税務当局に指摘されるリスクを回避できる可能性がある。

5)移転価格実務:COVID-19の影響で従前より本社や地域統括本社が大きな機能を担うようになっている場合、その増加分を各国子会社に適切に請求・配分できているか。各国の実績値をモニターしている場合は、実績値が一貫して適切に実現されているか、さらに会社間の資金移動の影響も軽微であるか。

6)税務調査、事前確認制度(APA)・相互協議(MAP):既に合意済みのAPAがある場合、その合意の重要な前提条件への抵触がないのか、合意内容を守ることができるのか。現状を踏まえ検討をし、場合によってはAPAの再交渉や、今後の再締結の可能性もある。

 景気後退期における移転価格の利益配分の再検討

日系企業の大半は、海外子会社を限定的なリスクの会社として一定の保証された利益で運営しており、残余利益と損失は税務上の中核法人である事業主体の本社に帰属するビジネスモデルを取っている。COVID-19によりサプライチェーンの分断、事業の変動、人材の移動、消費者需要の変化、流動性の問題が出てきており、グローバルで経済的に厳しいと予想される中、営業マージンの減少・損失を事業主体である本社が負うべきなのか、ある程度は子会社にも負担させるのかという議論があがっている。企業によっては、ベンチマークとしてきた比較対象企業について現状に基づいたデータを分析し、経済状況や業績を反映することで、現地子会社側にもある程度の損失を負わせるケースも検討している。また、企業は現地の利益を特殊要因として処理できるかどうかも今一度確認し、必要に応じて調整していく必要がある。その際、どのような調整を加えたのか、その調整が不可避だったのかという事業分析を記録・保管していくと、税務当局から求められた場合に備えることができる。

より詳しくは、Webinarをご覧ください。

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