Posted: 10 Jan. 2020 3 min. read

2020年の米国を読み解く(前編)―テクノロジーの開発・利用における民間部門と公的部門の在り方

デジタルテクノロジーが米国経済・社会だけでなく、政治に与える影響力が増している。デジタルテクノロジーが進化するにつれ、「テクノロジーの開発・利用における民間部門と公的部門の在り方」が問い直され始めている。他方、大統領選挙の年を迎えるなか、「デジタルテクノロジーと政治の在り方」が隠れた重要テーマになっている。2020年の米国の行方を占ううえでは、この二つの「在り方」論を見逃すわけにはいかない。

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デジタルイノベーションにおける民間部門と公的部門の在り方

民間部門のデジタルテクノロジーが進化を続けるなか、最近、米国最強のイノベーターは嘗ての国防省ではなく、今やビッグテック企業に変わったという見方が広がっている。インターネットやGPS、音声認識技術等、多くの先端的なテクノロジーの起源は国防省のプロジェクトにあったと言われているが、今やその国防省がビッグテック企業に100億ドルという膨大な金額を支払ってクラウドテクノロジーを利用する時代になっている。つまり、現在は、安全保障領域においてすら、ビッグテック企業が持つアイディア、技術、ヒトが必要とされているのである。ビッグテック企業のイノベーションがそれだけ速く、信頼できるものになってきているのであろう。

 

これは、見方によっては、公的部門が民間のイノベーションに遅れをとっているということだが、こうした現象は今や珍しくない。フェイスブックによるデジタル通貨リブラの開発がその典型例である。FRBのブレイナード理事は現在の米国金融制度においてリブラをどのように監督することができるか法律上の明確な裏付けがないことを認めている。また、金融当局は軒並み、リブラ利用に伴うAMLリスク等に懸念を示しているが、当局としてどのようなリスク管理が必要であるという姿(あるべき姿)は示せていないように映る。このように、公的部門や既存の法制度はビッグテック企業のイノベーションにキャッチアップできていない。

 

イノベーションの主役が代わるなかで、政府と民間企業とりわけビッグテック企業との関係はどのようになっていくのか。一つの鍵は米国政府・議会における政策論議である。2020年はデジタルテクノロジーの在り方を巡り議論が深まると予想される。こうした議論においては「安全保障強化 vs. プライバシー確保」、「市場独占抑制 vs. イノベーション促進」といった、時に相対立する目的に関してどのように折り合いをつけるかが一つの注目点であるのは言うまでもない。例えば、前者に関しては、一部議員がビッグテック企業が持つ個人情報をCIA等の情報機関が閲覧できるようにする法案を提案しているが、これは人権重視の議員からすれば受け入れ難いものである。他方、後者に関しては、民主党の大統領候補でもあるウォーレン上院議員がビッグテック企業の市場支配を問題視し、ビッグテック企業の解体を主張している。しかし、多くの企業のみならず国防省までもがビッグテック企業に“依存”している今、解体して大丈夫なのかという議論も含め、様々な反対が予想される。

 

相反する目的のバランスをとることが難しく、また、多くの行政機関に跨る課題になることもあり、テクノロジーを巡る政策論議はなかなか進展してこなかった。しかし、デジタルテクノロジーの存在感が産業を超えて高まっているため、米国はそろそろこの問題に解答を用意しなければならないだろう。その重要な第一歩が近く訪れる可能性は高い。2020年には、官民挙げて、デジタルイノベーションを巡る様々な議論が展開されるだろう。米国におけるテクノロジーの在り方論は、日系企業にとっても競争環境やアライアンス戦略、あるいは将来のイノベーションの源泉を考えるうえでも、重要な示唆を持つ可能性がある。(次回に続く

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岩井 浩一/Koichi Iwai

岩井 浩一/Koichi Iwai

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ 所属。日本銀行、運用会社、銀行、証券会社、金融庁において、マクロ経済・金融市場調査、信用リスク管理、金融規制調査等に従事。トーマツ入社後、大手金融機関のクライアントを中心に、リスク管理、規制対応、経営管理高度化に係るアドバイザリー業務に従事。2018年12月からNY駐在。