Posted: 19 Nov. 2020 3 min. read

RCEPについに署名。メリット享受のために、今、企業がすべきこととは

2020年11月15日、RCEP(地域的な包括経済連携協定:Regional Comprehensive Economy Partnership Agreement)がついに署名に至った。2012年11月に交渉立ち上げが宣言されてから、実に8年の時間を要したことになる。RCEPは日本、ASEAN加盟国(10カ国)、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが参加国となるFTA(自由貿易協定)であり、これが発効すれば、世界のGDP、貿易総額、及び人口の何れも約3割に及ぶ巨大な経済圏が誕生することになる。日本にとっては中国、韓国と締結する初のFTAとなることが大きな特徴で、日本企業にとってもメリットが期待できるが、そのために、今こそ必要な準備があることも認識すべきだ。

まず、RCEPの内容は、税関手続並びに貿易円滑化、サービス貿易、投資、知的財産、電子商取引、政府調達、紛争解決等の多岐の分野に渡るが、取り分け企業にとって影響が大きいのは、やはり物品貿易、即ち関税の引き下げであろう。特に、我が国の重要な輸出物品である工業品につき、14カ国全体で約92%の品目について関税の撤廃が実施されることとなった。

中国及び韓国において関税が撤廃される品目の割合は、中国は従前の8%から最終的に86%に、同じく韓国は19%から92%へと大幅に上昇している。つまり、これだけの品目につき、即時撤廃若しくは段階的な引き下げにより関税コストの削減が可能になる。

また、日本がASEAN加盟国やオーストラリア、ニュージーランドとの間で既に締結済みの協定では関税引き下げがなされなかった品目が、RCEPで新たに対象になったことは大いに注目に値する。例えば、タイにおける一部の自動車部品等がこれにあたる。なお、ASEANをはじめとしたRCEP参加国は、何れも積極的に他国との協定を締結している。所謂Out-Outの協定のメリットを検討する際には、将来的な適用関税率やサプライチェーンも念頭に置いた上で、300を超える既存協定とRCEPとの関税削減額の効果試算を比較した上で、個々の企業にとってベストな協定を選択することが重要となる。

このように大きな関税コスト削減の可能性を秘めたRCEPであるが、無条件で関税の引き下げが可能になる訳では無い。協定が定める条件(原産地基準、直送基準)を満たし、必要な手続きを踏まえた上で、初めて関税引き下げのメリットを享受できることになる。特に、”Made in RCEP参加国”となるための原産地基準については、品目(HSコード)毎に適用される基準が異なるため、先ずは輸入国におけるHSコードを確認した上で、必要な条件を確認する必要がある。

一方で、中国や韓国の税関当局は、協定上の利用条件を満たしているか、また、HSコードや通関申告時の課税標準(関税評価額)が適正か、という点について厳しく確認を行う傾向があり、RCEPの発効に伴い、これらの対応が更に厳格化することが懸念される。税関当局が輸入通関時の申告内容やRCEPの利用可否について疑義を持つ場合には、税関事後調査や検認が行われ、追徴課税や罰金の賦課、更にはサプライチェーンへの影響やレピュテーションリスク等にも繋がる可能性がある。

各企業においては、自社の現在および将来のサプライチェーンを踏まえたRCEPによる関税コストの削減メリットを確認すると共に、上述のコンプライアンスリスクを念頭に置き、協定発効前の今のタイミングで、早々に、自社の原産地の判定結果やHSコード、関税評価額が適正か否かを確認することが強く推奨される。

 

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福永 光子/Mitsuko Fukunaga

福永 光子/Mitsuko Fukunaga

デロイト トーマツ税理士法人 パートナー

大手グローバルメーカーで勤務後、2015年税理士法人トーマツ(現 デロイト トーマツ税理士法人)に入社。約15年間、関税に関するアドバイザリー業務に従事。国内外の関税案件に関する実務経験を活かし、グローバルにビジネスを展開する日系企業に対して、自由貿易協定の戦略的活用、関税評価プランニング、関税分類の適正化、関税コンプライアンス体制の導入支援、物流ネットワークの再編に係る関税アドバイス、海外における税関調査対応等に関するアドバイスを提供する。 著書 『サプライチェーンにおけるグローバル間接税プランニング』(共著、中央経済社)、『国際課税・係争のリスク管理と解決策』(共著、中央経済社) 主なプロジェクト 大手自動車メーカー等 FTA活用支援/大手自動車メーカー 輸出入業務に係る内部監査実施支援/大手電機メーカー アジアSCM再編に係る関税アドバイス提供/大手繊維メーカー グローバル関税コンプライアンス体制構築支援/大手機械メーカー 海外における関税事後調査対応支援/大手精密機器メーカー 組織再編に伴う関税アドバイス提供/大手電機・機械メーカー 通商・物流に係るグローバル統括機能の立ち上げ支援 等