脱「クッキー」聞く力がカギ ブックマークが追加されました
インターネットを用いた販売や広告が大きな転機を迎えている。米グーグルが、外部企業によるユーザーの閲覧情報の利用に制限を設けたためだ。消費者のデータを大規模に分析し、狙い撃ちで広告を届ける従来型のモデルは限界に直面しつつある。そこで企業が消費者との接点を維持し続けるのに必要な条件は何だろうか。筆者は「聞く力」であると考える。
人々のネット閲覧情報を記録した「クッキー」はネット広告の市場拡大をけん引してきた。特に自社以外の第三者のサイトを経由した「サードパーティークッキー」は、企業が消費者の好みを知ることができる便利なツールとして普及している。
しかし自らの情報が意図しない形で収集される個人が反発するのは当然だった。欧州連合(EU)はすでにクッキー利用を法的に制限し、グーグルは2022年にサードパーティーへの対応を打ち切る。消費者はオススメ商品が勝手に示される気味悪さから解放される一方、多くの企業が顧客と接点を維持する方法に悩んでいる。
そこで注目されているのが「ゼロパーティー」と呼ばれる情報だ。消費者が企業に意図して届けてくる声を指す。既存顧客の購買履歴など「ファーストパーティー(自社保有)」の情報とは区別され、幅広く個人が企業に対して伝えてくる要望ともみなされる。古くからある「お客様の声」をイメージするとわかりやすい。はがきや電話で声を届けてくる人々は、企業に何かを伝えようとしている。企業は顧客の声を集めるため、キャンペーンやクイズなど能動的な働きかけを以前からしてきた。第三者に頼れなくなった今、企業は再び消費者の声を地道に聞き取る力を求められている。
ゼロパーティー情報を集める手法を開発する動きもあるが、筆者は一朝一夕にいかないと考える。人同士と同様、消費者が企業に進んで相談をもちかけるには日数がいるからだ。それでも顧客の声を聞く力は商売の原点である。謙虚に聞く姿勢を重視しつつ、声の中で何が重要かを判断し、デザインや技術の力で実現にこぎつける開発力も重要になる。安易な手法に頼らない、企業の信頼の積み上げが重要な時代に入った。
本稿は2021年4月7日付けの日本経済新聞の「私見卓見」欄に掲載されました。
Deloitte AI Institute 所長 アジア太平洋地域 先端技術領域リーダー グローバル エマージング・テクノロジー・カウンシル メンバー 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。 東北大学 特任教授。東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問。日本ディープラーニング協会 顧問。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社)、『パワー・オブ・トラスト 未来を拓く企業の条件』(共著:ダイヤモンド社)がある。 記事:Deloitte AI Institute 「開かれた社会へ:ダイバーシティとインクルージョンの手段としてのAI」 関連ページ Deloitte AI Institute >> オンラインフォームよりお問い合わせ