Posted: 02 Nov. 2021 4 min. read

苫小牧におけるCO2の回収・有効利用・貯蔵(CCUS)の実証実験の意味

【シリーズ解説】GX(グリーン・トランスフォーメーション)戦略とは

カーボンニュートラルを達成する上でカギを握るのが再生可能エネルギーの利用である。しかし、日本は地理的要因から大規模な風力発電が容易ではなく、太陽光パネルの設置にも限界がある。アジアの国々も日本と同様で、化石燃料によって発電のすべてを再生可能エネルギーで代替するのは難しい。そこで注目されるのが、カーボンニュートラルで「お荷物」と捉えられてきたCO2をはじめ、産業から生み出されるエネルギーを循環させて利用しようとする考え方である。

 

CO2を「マテリアル」と捉える

CO2削減というのが企業活動から生み出される「悪」を減らそうとする試みであるとすると、CO2の再利用は事業活動によって得られるCO2という副産物を資源として捉え、それによって新たな事業を立ち上げようとるす試みだと言える。CO2は製品のライフサイクルの中で生み出されるネガティブなアウトプットであるが、これを他の産業のインプットに変えることができれば、原材料とエネルギーの循環が生まれ、さらには新しいビジネスモデルを創出することができる。エネルギー循環の考え方はCO2に限ったものではなく、水素、熱、アンモニアの循環にも拡大できる。得られるインプットの選択肢が増えることで、事業の可能性も広がるだろう。ただし、CO2や水素を排出する「アウトプット」企業だけではこの循環は構築できない。フェアな循環を実現させるためには、CO2(あるいは水素や熱)の回収・有効利用・貯蔵にかかるコストと、そこから得られる利益を、参加者や地域が納得できるような形で配分するシェアモデルやルールの確立が必要となる。異なる産業に属する複数の企業と地域を巻き込んだエコシステムが求められるのである。

地域単位のエネルギー循環

北海道・苫小牧では、このCO2の回収・有効利用・貯蔵の大規模実証実験が行われている。CO2を資源として捉え、ある事業所で発生するCO2を分離・回収し、別の事業所で製造する素材や石油・ガスの増産、あるいは航空機用の液体合成燃料に採用するカーボンリサイクルを実現しようとしているのである。これは複数業種間にまたがるエコシステムであり、事業の再構築とも表現できる。また、北海道・室蘭では地域内で水素を循環させることでカーボンニュートラルを実現しようする取り組みを実施している。今後の発展の可能性としては、熱の発生源と需要が集積する都市部において、熱のネットワークの構築が考えられる。工場や発電所、ゴミ処理場や下水処理場から生み出されたエネルギーを、安定的な供給源として、給湯需要の大きい総合病院やホテルなどで利用することが想定される。また、産業から生み出される水電解水素や水素を原料としたり、住宅やオフィス燃料電池で利用することも可能だろう。

エネルギー循環に向けて

地域でのエネルギー循環を基盤としたカーボンニュートラルの実現にはデジタルとの融合が不可欠である。目に見えないCO2や水素を、いつ、どこで、誰が、何から作った/排出したということを可視化し管理していくことが求められるためである。また、常に変動する廃熱や副産物の供給に対しては、リアルタイムデータやAI予測による需要のマッチングが必要となる。アウトプットとインプットの両面から地域全体でのエネルギー、物質、資金の流れを可視化し、参加者がコストと利益を戦略的に共有していくというのが将来像であろう。循環に基づいた地域単位でのカーボンニュートラルを実現できれば、拡張性を持って他地域への横展開も可能になるだろう。特に分散型エネルギーの導入が進むだろうアジアやアフリカへの展開が期待できる。こうした変革の方向性が日本企業の勝ち筋となるだろう。

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榎本 哲也/Tetsuya Enomoto

榎本 哲也/Tetsuya Enomoto

デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー

これまで10年以上に亘り、エネルギー業界に特化して150件以上のプロジェクトを実施。 現在はエネルギーユニットで海外・官公庁チームリーダーを務めており、特に低炭素化技術に関する政策提言や民間企業の研究開発戦略の策定、エネルギー事業者の海外事業戦略の策定に強みを持つ。