Posted: 28 Apr. 2021 5 min. read

Federated Learning(連合学習) - プライバシーや機密を保護しながら革新を実現するAI

シリーズ:デジタルトラストについて考える

近年、幅広く活用されるAIはクラウドを介して提供されることが少なくありません。音声応答サービスのSiriや Google Assistant、機械翻訳である Google TranslateやDeepL Translator、文字入力ソフトや顔認識アプリや手書き文字認識、レコメンデーションや需要予測も今やクラウドベースで提供されています。

 

そのようなクラウドベースのAIは通常、データを一箇所に集めて学習を行います。利用企業から見るとデータをクラウド上に全て集めるため、個々のデータがきちんと保護されているのかという懸念があります。一般ユーザーから見ると、文字入力や機械翻訳で入力した個人的なテキストがAIの学習目的とはいえ、クラウドに収集されているのだとしたらプライバシーの観点から不安があります。そこで、Federated Learning(連合学習)という手法が注目を集めています。

 

連合学習が求められる訳

連合学習はデータを共有せずに学習を行います。その性質から、データプライバシー、セキュリティ、データアクセス権、異種データの活用等、企業や社会が注意を要する重要事項に対処しつつ、機械学習によるAIの恩恵をもたらすことができるものとして期待されています。応用分野は、個人のプライバシーの担保から、企業のデータを秘匿した上での業界共通AIの構築、社会基盤としてデータ保護が求められる金融、医療、製薬業界、軍事・防衛等、さまざまに広がっています。具体的な事例として、Googleが2017年にスマートフォンでの文字入力で適用しており、また最近でも、クッキー技術を用いない新しい広告配信の基盤に連合学習を用いることを発表しています。また、中国のネット銀行、微衆銀行(ウィーバンク)は顧客のデータをローカルのサーバーに留めて情報漏洩のリスクを抑えることを目的として連合学習の研究を行っていることを発表しています。

連合学習の仕組み

一般的な実装としては、まずクラウド上での共通データに基づき、学習モデルを構築します。その後、学習済みモデルは各デバイスに配布され、実行されます。例えば、スマートフォンやタブレット、AIスピーカー等のデバイス上で、音声認識を行ったり、画像認識、顔認証を行ったり、機械翻訳を行ったりします。その後、個々のデバイスでの利用状況やデータに応じて学習を行う(顔認証ではスマートフォンの利用者の顔データを学習する等)わけですが、その際にデバイス内で学習を行い、クラウドには学習結果の差分のみを送信します。送信情報は他のデバイスから送信された差分と共に平均化され、クラウド上の共有モデルが改善されます。個々のデータ(顔認証ではユーザーの顔データ)はデバイス内に留まるので、個人のプライバシーを担保することが可能になります。

連合学習は超分散化時代の技術

連合学習は、データの保護のみならず、デバイス毎のカスタマイズを可能にし、高い処理速度、低消費電力も実現します。デバイス内で学習するので、学習結果をすぐにユーザーは利用することができます。いわゆるエッジコンピューティングを実現する技術とも言えます。

中央のクラウドを使わない、完全な分散型(P2P型)を志向した連合学習もあります。完全な分散型の連合学習では各ノードが協調することでノード共通のモデルを獲得します。P2P型システムとして「中央」を持たなくなるので、SPOF(単一障害点)がなくなり、障害に対して強靭なシステムになります。完全分散型の連合学習は、その構成上、ブロックチェーンとの相性がよく、共通モデルのバージョン管理をブロックチェーンによって改ざん不能な形で行う等が可能です。これは、ブロックチェーンとAIの現実的なシナジーと言えます。

 

AIを含めた第四次産業革命テクノロジー(4IRT)の活用は、社会の飛躍的な進歩と大規模な経済的価値をもたらすと同時に、意図しない有害な結果を生み出す可能性があります。先日、日本語訳が発行された、世界経済フォーラムとデロイトの協働制作レポート「Global Technology Governance Report 2021」(要約版)では、4IRTのガバナンスギャップに着目しており、プライバシーや機密を保護した上でのデータ共有は大きな課題です。技術の進展によりデータ活用の便益は高まり続けます。いかにデータを守りつつ、革新を実現するか。連合学習はそのための核となる手法になるかもしれません。

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