第1回:改めて問う、自動車産業に求められる「DX」とは何か? ブックマークが追加されました
“Transformation”を英語辞典で調べると“a complete change”=完全に変わる、と出てくる。すなわち「DX」とは現状業務やビジネスの改善にとどまるデジタル化ではなく、従来からのビジネスモデル、業務、働き方など、企業活動そのものを根本から変える“変革”に取り組むことを意味している。
本連載では、自動車産業を取り巻く環境変化から、各企業が取り組むべき「DX」について論考していきたい。
本稿は2021年6月3日に日経xTECHに掲載された「続・モビリティー革命2030 DX編」を一部改訂したものです。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01653/00001/
まず、自動車産業を取り巻く環境変化については「都市・社会の変化」「顧客の変化」「クルマの変化」の3つが挙げられる。それぞれの変化に対しての自動車産業の課題そして機会は以下のように整理できるだろう。
都市・社会の変化
スーパーシティを始めとするスマートシティがさまざまなデータを横断的に収集・整理し提供するデータ連係基盤、つまり「都市OS」を軸として生活サービス・インフラを構築していく中、自動車産業は都市・社会のデジタルエコシステム⇔クルマという視点に立った価値提供を模索していく必要がある。
顧客の変化
顧客はいつでも、どこでも、簡単に、あらゆる商品・サービスをインターネットで検索、情報収集、そして購買している。こうした「顧客のデジタルシフト」が“あらゆる世代”で進む中で、自動車の販売・サービスはいまだ新たな体験価値の提供に至っているとは言い難い。またクルマを所有ではなく、サービスとして利用したいニーズに対して、如何に対峙するかが求められている。
クルマの変化
EVは、パワートレインの変化だけではなく、常にインターネットにつながり、クルマの機能がアップデートされるなど、新世代自動車=デジタルカーへの進化といえる(図1)。この新世代自動車は “移動体としての価値”だけでなく、社会、人の“生活をアップグレードする、新たな価値”を提供するプラットフォームになるポテンシャルをもつ。
このような自動車産業の根本に大きなインパクトを与える環境変化に対しては、これまで取り組んできた“改善の積み上げ”では太刀打ちできない。バリューチェーン全体に渡り、デジタル技術(データ)を用いた“変革”が必要となる。
「守り」のためのITコストは毎年据え置きとコスト削減メスがなかなか入りづらい聖域と言える。現状のIT資産を棚卸し、将来のエンタープライズシステムのあり方を構想、よりリーンで、柔軟性のある現代的なシステムアーキテクチャへの移行するという「レガシーシステムのモダナイゼーション」を進めなければならない。
これまでリアルでしか存在していなかった、公共サービス、生活サービス・生活インフラなどがデジタルプラットフォーム上に実装され、有機的につながっていくことになる。自動車産業は、新世代自動車という新たな価値を生み出すポテンシャルをもつ、プラットフォームを生み出しつつある。これを活用し、クルマ×デジタル×〇〇の掛け算で様々なサービスアイデアを発想、開発し、小失敗を繰り返しながら、新価値を練り上げていく。将来に向けた新たな事業の芽を育てていく新ビジネスDXへの挑戦が必要だ(図2)。
以降の回で、それぞれの領域のテーマについて深堀、考察していく。
デジタルを活用したビジネス企画構想、業務改革・改善、システム導入まで幅広い知見、経験を持つ。業務・システムの企画・構想だけでなく、それを現場に体現する実行力に強み。 自動車OEM、自動車部品サプライヤー向けDXプロジェクト実績多数。 著書に『続・モビリティー革命2030 不屈の自動車産業』(共著:日経BP社)がある。 関連するサービス: ・自動車 >> オンラインフォームよりお問い合わせ