Posted: 02 Nov. 2021 4 min. read

DX推進エンジニアがもつべき視点は?

DX実践談:日本のモノづくりの再構築(1)

日本のモノづくりの置かれた現況をグローバルでの客観的な指標である、“GDPにおける労働生産性”と“IMD国際競争力”の2つの指標から考察すると、いずれも対象国の中でも下位の状況を20年以上継続している。これは、私のようにコンサルタントとなる前に製造業に長く従事した者からは、残念な状況と言える。

 

グローバル規模で比較すると、インダストリー4.0を提唱して早くから製造業のDXに取り組んできた欧米諸国の相対的優位にも変化の兆しが見られる。世界経済フォーラム(WEF)は、 第4次産業革命をリードする世界で最も先進的な44の工場を、「ライトハウス(灯台)」として認定している。選考要件は、単なる⾃動化による⽣産効率向上だけではなく、⼈材育成や働き⽅、企業や業界の持続可能性、社会や環境へのインパクトなど、広範囲な観点から評価である。この評価プロセスを経て認定されたライトハウスは、アジアで22、欧州で17、北米で3、南米で2工場となっている。このように、ライトハウスに認定された工場の数でみれば、アジアが全体の半数を占め、既にDXを含む製造業の変革において世界をリードする地位・役割を確立しつつあるとも見受けられるのだ。

 

では、日本のモノづくりにおけるDX導入状況はどうか?日本からもライトハウスとして、2工場が認定されている点から、必ずしも日本のモノづくりが地盤沈下している訳ではない。DX導入当初は、多くの日本企業で目的と手段の履き違いなどが散見されたが、ここ数年は、DXで目指す変革の概念やその価値の検証である、PoC(Proof of Concept:概念実証)やPoV (Proof of Value:価値実証)も数多く行われてきている。さらに、モノづくりのリーダ的な地位・役割として、認定された工場の成功事例に焦点を当ててみると、ある企業は、“あらゆる関連する企業とコネクト”をキーワードに、“グループ内/外や上流/下流の企業など数百社との連携・ソリューションの標準化・情報共有による全体最適化/顧客満足度最大化”に至っている。いわば、単一のDXソリューションによる“点の改善”から、複数のDXソリューションを用いた業務標準化や機能・組織連携を通して、“線の改善”、さらには工場間、企業間を連携して、“面の改善”に変革している。また、別の企業の成功事例でも、AIによって産学連携・自社内ケイパビリティを確立しつつ、あらゆる業務プロセスにAI導入・拡大を行うと共に、自社内人材育成制度を構築し、継続的な経営効率化へ大きなインパクトを与えている。ここでも“面の改善”と言える。

 

これらの成功事例をエンジニアの観点で見ると、あらためてDX推進は“面の改善“であるべきと言える。即ち、全体を俯瞰し、共通的な業務プロセスやシステムをあらゆる部門や生産機能へ導入し、従来の壁を越えた全てで運用するレベルまで適用することである。それは、”システムの全体最適に向け、複数のDXソリューションを組合せた技術(メタ技術)による高次へのシステム変革“とも換言できる。日本のモノづくりは、従来から効率重視の分業化、または業務を細分化させ、ボトムアップ的な活動を推進してきた。しかし、こうした成功体験は、日本のモノづくりにおいて、システム全体を俯瞰し、全社的な設計視点でアクションを取れるエンジニアが育たない仕組み、或いはそのようなエンジニアを育てない組織体制を定着させてきた面も否定できない。良くも悪くも、日本のモノづくりは、“タコ壺”エンジニアを大量育成することに終始する仕組みとなっている。DX推進において、グローバルでモノづくりをリードするためには、複数のDXソリューションを組合せ、システム全体を俯瞰し、複組織や生産機能の障壁を突破しながら、変革し続けることのできるエンジニアが必要であり、そのための人材育成が早急な課題である。

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