Posted: 26 Apr. 2021 3 min. read

ブレイクスルーとなったNASAの前代未聞のプロジェクト

宇宙ビジネスの民間委託(前編)

2021年4月23日(金)日本時間19時前に、JAXAの星出彰彦宇宙飛行士は米フロリダ州のケネディ宇宙センターを出発し、国際宇宙ステーション(ISS)に向かった。星出宇宙飛行士は日本人として二人目となるISS船長として、半年間にわたる長期ミッションに従事する予定である。日本人として、本当に誇らしい限りである。

ところで星出宇宙飛行士が搭乗したロケットは、NASAが製造・運営を行っているものではなく、民間企業が提供している。宇宙に関連する活動の多くはこれまで官公庁が担ってきたが、近年は民間による取り組みが多くなり、日本でも小型衛星などの分野で多くのスタートアップ企業が設立され、活発にビジネスを展開している。広く知られてはいないが、民間企業の宇宙ビジネスへの進出意欲と歩調を合わせる形で、実はNASAはISSへの移動手段を民間企業に委ねるという前代未聞のプログラムを実施していた。このプログラムを皮切りに民間参入が進み、正にブレイクスルーとなった事例だ。

 

そのプログラムはCOTS(Commercial Orbital Transportation Services:商用軌道輸送サービス)と呼ばれるものである。ISSまでの物資の輸送を民間企業への業務委託によって実現するために、開発段階からNASAが支援を行うという内容であった。2005年にスタートし7年にわたる試行錯誤を経ながら、最終的にはISSへのフライトを成功させるところまで到達した。

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言葉にすると簡単だが、このプログラムの遂行は容易なものではなかった。ISSまでの移動・ドッキングまで含めた能力を当初から有していた企業は発足当時には無く、企業側でも技術開発を行いながらのチャレンジであった。その過程で何度もロケットの爆発などの失敗を経験しており、そのためNASAもプログラムへ参加した複数の企業間には情報のファイアウォールを設けて競争環境を確保しつつも、個別には技術的助言を行うなどの手厚い支援を講じた。

 

技術力だけでなく企業側の資金調達能力も極めて重要であり、NASAのプログラムの責任者には著名なベンチャーキャピタリスト[1]も参画した。従来の技術者中心のNASAの人材構成のままでは、この様なプログラムを効果的に稼働させることは難しかったと考えられる。実際、初期に参加していた企業の一つ[2]は必要な資金調達が行えなかったためプログラムの対象から外れ、別の企業が代わりに支援対象として改めて選び直されるという出来事もあった。

 

COTSでの支援を経て、ISSへのフライトに2社[3]によるサービス提供が開始された[4]。そのうちの一社であるSpace Exploration Technologies Corp. (SpaceX)の設立者であるElon Musk氏は、「NASAの支援が無ければ、SpaceXを立ち上げることも、この地点に到達することもできなかった[5]」と最大限の賛辞を贈っている。同2社は自らも多大な資金提供を行っているが、半額近くはNASAからの支援によるものであり、COTSのプログラムが無ければ、2社による打ち上げサービスの提供はほぼ不可能であったと考えられる。

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COTSの対象はISSへの物資輸送サービスであったが、NASAは搭乗員の輸送についてもCOTSと類似するプログラムを実施し[6]、こちらでも民間企業による搭乗員輸送サービスの実現に成功している。冒頭で紹介した星出宇宙飛行士が搭乗している宇宙船も、このプログラムで開発されたものであるのだ。

 

次回の後編では、宇宙関連の産業における日本企業の現状について紹介するとともに、今後その分野を発展させるためのアイデアを述べたいと思う。

 

[1] 元物理学者でホワイトハウスフェロー、ベンチャーキャピタリストのAlan Marty氏

[2] Rocketplane Kistler社。

[3] SpaceX社とOrbital Sciences Corporation社 の2社。Orbital Sciences Corporation社は企業買収などを経て、Northrop Grumman Innovation Systems社に統合されている。

[4] ISSへの物資輸送はCommercial Resupply Services(CRS)というCOTSとは別枠の委託契約に基づいている。

[5] “We could not have started SpaceX, nor could we have reached this point without the help of NASA.” 出典:”Commercial Orbital Transportation Services A New Era in Spaceflight” NASA

[6] CCDeV、CCDeV2(Commercial Crew Development:商用乗員輸送開発)、CCtCap(Commercial Crew Transportation Capability:商用乗員輸送能力)といった一連の開発支援プログラム

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廣瀨 明倫/Akimichi Hirose

廣瀨 明倫/Akimichi Hirose

デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー

デロイト トーマツ サイバー合同会社 シニアマネジャー 中央省庁にて情報通信の先端的な技術振興行政を手掛けた他、政府機関や各種行政機関、在外公館等でも幅広く行政官としての経験を蓄積。 退官後はコンサルティング、金融、ITベンチャー等を経て、デロイト トーマツ サイバー合同会社にて現職。Emerging Technologyと呼ばれる社会を変革しうる「新興技術」群に対して、サイバーセキュリティのコンサルティングサービスを提供している。

金子 泰人/Yasuhito Kaneko

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デロイト トーマツ グループ アナリスト

デロイト トーマツ サイバー合同会社 アナリスト 大学院時代に電気電子工学に関する研究に従事。デロイト トーマツ サイバー合同会社へ新卒入社後、サイバーセキュリティに関する体制構築や法規制対応、科学技術の知見を活かした産学連携の案件に関与。