渋沢栄一のスピリットを現代へ、日本再躍進の鍵を握るのはミレニアル世代起業家 ブックマークが追加されました
「日本資本主義の父」と称される実業家、渋沢栄一。2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公であり、新1万円札の肖像に選ばれるなど、注目度が高まっている。不透明な時代を生きる私たちにとって、今こそ、彼のスピリットを受け継ぎ、イノベーションを起こしていくことが求められている。
渋沢栄一は、幕末から明治、大正、昭和の激動期を生き抜き、近代日本の経済社会の基盤整備を行った。彼のスピリットの根源にあったのが、「社会の課題を産業にする」ということだ。銀行や商業会議所など当時の日本人にとっては未知であった新しい概念を導入しながら、日本社会が抱える課題を事業として具現化した渋沢は、生涯で500近くの企業設立や経営に関係した。彼のイノベーションが元となり、その後日本は経済大国としての地位を確固たるものとしていった。
しかし、足元を見ると、現在の日本は最先端テクノロジーを活用したビジネスやサービスの変革であるデジタル革命において後進国となっている。初期段階で大幅に出遅れてしまった日本がこれからのステージで逆転していくために、渋沢栄一のように社会課題解決とイノベーションを結びつけ新たな事業を創造していくことが必要だ。
ここで問題となるのが、デジタル化推進における指揮官の不足である。デジタルへの取り組みにおいては、経営トップによる直接のコミットメントが不可欠であるが、変化の激しいデジタル領域において、現場感覚をもちながら、あるべき姿を描いていくリーダーは多くない。この状況を打破するために私が注目しているのが、ミレニアル世代の起業家の存在だ。彼ら/彼女らはデジタルネイティブと言われ、デジタルテクノロジーが身近な幼少期を過ごした原体験から、社会課題をデジタルによる解決策と結び付け、現場目線で新しい価値を着想しうる潜在力にあふれている。渋沢栄一自身も、大いなる希望を抱いて官から民に転じたのは33歳の時であり、30代以降、実業家としてさまざまな事業の立ち上げに邁進した。
ミレニアル世代の起業家の中でも、私がこの5年で特に増やすべきと考えているのが、大企業グループ内の若手社長である。イノベーションはスタートアップの得意領域であるが、イノベーションを起こす人を爆発的に増やさなければいけない時にスタートアップだけでは数が足りない上、分野も偏ってしまう。大企業にいるからこその知見や資産を活かせるイントレプレナーを増やす必要があるのだ。実際、他社とのアライアンスにより新しいビジネスモデル創出の動きが加速する中で、大手企業が子会社を作り、そのリーダーに若手を抜擢するケースが増えてきている。
さらに現代ならではの強みとして、団塊世代の息子・娘に当たるミレニアル世代がオーナー社長を引き継ぐケースが増加しており、先代からの事業の経営刷新を図り、業績を大幅に飛躍させるという成功事例が出てきている。これまで日本が培ってきた産業力を新しい形でアップデートして、新たな価値を生み出している。
ミレニアル起業家が育つには、まず「起業しよう」という発想を持つことが原点となる。日本は欧米に比べ、身近なところに起業家がおらず、そもそも若手に起業という発想自体がないことが問題となっている。私はこの課題を打破するために、音声SNSの「Clubhouse」に大きなチャンスを感じている。アメリカ・サンフランシスコの起業家から広がり、急速に日本でも拡大しているClubhouseでは、手軽に著名な起業家たちの話を聞き、質問ができる。この対話を通じて、自分自身の中に起業という可能性の種を見出すことができる。Clubhouseの日本での広がりは、独立系の起業家を増やすだけでなく、社内起業家そして第二創業の起業家たちがより成長するための起爆剤となるだろう。
起業そのものは、この10年間でハードルが下がっており、イノベーションの民主化は着実に進んでいる。今後は、より深刻で困難な社会課題の解決に挑戦することが肝要となってくる。そのためには10年から30年の長期の時間軸でどういう社会を作っていくべきなのかというビジョンが必要であり、SDGsやESG投資に見られるような大きな地球全体の課題にミレニアム世代の起業家が取り組んでいくことが鍵となる。今まさに、ミレニアル世代の起業家たちによる「論語と算盤」の実践が求められている。
2010年よりトーマツ ベンチャーサポート株式会社(現 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社)の事業立ち上げに参画。 2019年デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長。公認会計士。 世界中の大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案まで手掛けている。起業家が大企業100人にプレゼンを行う早朝イベントMorning Pitch発起人。主な著書は『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)。新聞・雑誌・テレビ・オンラインメディア等、メディア掲載多数。「2017年 日経ビジネス 次代を創る100人」に選出。