Posted: 18 May. 2021 5 min. read

途上国援助とビジネスの世界の架け橋

シエラレオネでのエボラ出血熱対応経験

2020年3月11日にWHOが新型コロナウィルス感染症(COVID-19)をパンデミック(世界的大流行)であると発表してから1年2ヶ月が経過した。各国でワクチン接種が進められているものの、1日あたりの新規感染者数は2021年5月9日時点、世界全体で約78万人に達している。その内、ブラジルでは約6万人、インドでは約39万人が報告されており[1]、収束の目途は立っていない。日本でも3度目の緊急事態宣言が発令され、渡航制限や検疫の強化等の水際対策も図られているが、ウィルスの封じ込めまでの道のりは長い。

日本国内のテレビや新聞では毎日のように感染防止策や空港での水際対策が叫ばれつつも、パンデミックとWHOが発表した1年前は、「海外の病気は日本には入って来ないだろう」という雰囲気が漂い対岸の火事と思っていた人も少なくなかったのではないだろうか。これほどまでに人々が自由に世界中を動き回る時代において、ウィルスだけに国境を越えさせないということは容易ではない。

 

このコロナ禍と似た状況を、私は過去にシエラレオネでも経験している。そのため、私は当時から、海外の感染症も自分ごととして捉える重要性を感じていた。

 

2014年、西アフリカのリベリア、シエラレオネ、ギニアでエボラ出血熱の感染が拡大した。エボラ出血熱は血液、涙、汗などが感染経路となり、致死率は約50%とも言われている[2]。私の前職である緊急人道医療援助団体の仲間は、大規模治療センターのテント施設の中で防護服や長靴を身にまとい患者の救助に当たっていた。現地の医療提供体制は元々脆弱であったため、エボラ出血熱患者を受入れるノウハウもなく、感染リスクを抑えるため、数少ない医療機関は閉鎖され医療崩壊が起きた。また外出禁止令や学校閉鎖、外資系企業の一時撤退により、社会経済活動も停滞したのである。

 

そして2015年7月、私自身も同団体の財務・経理担当としてシエラレオネに飛んだ。その時点でエボラ出血熱の感染は終息に向かっていたが、感染拡大防止策は続いていた。入国審査の時点から検温と塩素水での手洗いを行い、住まいやオフィスの入り口では、塩素水のスプレーで靴の裏まで消毒を実施した。銀行やスーパーの入り口にも塩素水を入れたバケツに蛇口を取り付けた消毒設備が設置され、人びとの手洗いを警備員が見張っている状況であった。私たちのチームでは教会や市場など人が集まる場所への出入りが禁止されるとともに、握手やハグの代わりにお互いの肘を突き合わせて挨拶をするなど、接触感染を防ぐための対策がとられていた。

 

WHOの基準では、最後の患者の治療完了時点から42日間、新規の感染者が発生しなければ終息が宣言されることになっていた。あと1~2週間で終息宣言ということころで新規感染者が発生するという状況を幾度となくくり返し、ようやく11月に終息宣言の日を迎えることができた。私たちのチームにとっても待ちに待った終息宣言であり、チーム全員で祝ったことが忘れられない。その冒頭ではエボラ出血熱で亡くなったスタッフに追悼の祈りを捧げ、その後チームリーダーの合図で全員がお互いにたくさんのハグをした。互いに接触してはならないという生活を何か月もしてきた仲間どうし、ハグをして喜びを分かち合えたのは感動的であった。

人道援助団体から監査法人への転職

4か月の派遣期間を終えシエラレオネから帰国した後、私は新たな世界に飛び込むことにした。前職で10年間勤務したことに加え、シエラレオネに発つ前に米国公認会計士の試験に合格していたこともあり新たなチャレンジを求めていた。そこで出会ったのが監査法人トーマツのパブリックセクター・ヘルスケア事業部だった。私は人道援助活動に係る寄付金管理業務や寄付者対応も経験していたため、寄付の使途についてのアカウンタビリティや透明性の大切さ、そして寄付者に対する財務報告の重要性を実感していた。そこで、援助活動を行う団体等の会計監査を通して、その団体の先にいる人々を間接的に援助できればとの思いで監査法人トーマツに入所した。実際、監査現場では数字の先にある途上国現場や寄付者の気持ちを想像し、別の形で途上国支援に関われることへの喜びがあった。

ビジネス関係による国際協力

「途上国」と一言で言っても、OECD開発援助委員会は後発開発途上国、低所得国、低中所得国、高中所得国[3]に分類している。それぞれの段階における援助のニーズは異なっており、また、最終的にはいずれの分類においても各国が援助から自立することが望ましい。各国の自立を促すためには、先進国が一方的に財政支援や物資の提供を行うだけではなく、先進国と途上国の政府や民間企業、NGO等が連携しビジネス関係を通して互いに成長をとげることが重要であり、それが持続可能な発展につながる。

 

デロイトトーマツグループにはそれを実現できる環境がある。多様なバックグラウンドと志を持った人材が集まり、社会課題解決に向けてそれぞれの専門性を活かしている。私自身も途上国援助とビジネスの世界の橋渡し役になれればとの思いで、リスクアドバイザリー事業本部のヘルスケアに異動し様々な業務に携わっている。

 

COVID-19をきっかけに、ヘルスケアに関するニーズや感染症に対する意識は大きく変化した。そして、医療資源の輸出入に関する制限または規制緩和、遠隔診療の導入、医療提供体制の再構築等、途上国を含め各国で改革が進められている。デロイトトーマツグループの一員として、官公庁、民間企業、医療機関等へのアドバイザリー業務を通して、これらの改革や世界のヘルスケアサービスの発展に、今後も貢献していきたい。

 

[1] https://ourworldindata.org/covid-cases#country-by-country-data-on-confirmed-cases

[2] https://www.who.int/health-topics/ebola#tab=tab_1

[3] https://www.oecd.org/dac/financing-sustainable-development/development-finance-standards/DAC-List-ODA-Recipients-for-reporting-2021-flows.pdf

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森川 光世/Mitsuyo Morikawa

森川 光世/Mitsuyo Morikawa

デロイト トーマツ グループ

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部ヘルスケア シニアスタッフ 緊急人道医療援助を行う国際NGOを経て2016年に有限責任監査法人トーマツに入所。独立行政法人、公益法人、特定非営利活動法人、上場会社等の会計監査に従事した後、2019年にリスクアドバイザリー事業本部ヘルスケアに移籍。医療インバウンド及びアウトバウンド事業、政策調査案件、ODA事業等に従事している。