ポストコロナ時代に向けた日本発「シブサワ・ドクトリン」 ブックマークが追加されました
世界経済フォーラムの提唱する「グレート・リセット」の下で国際社会がステークホールダー資本主義の実現に向かう中、三方よしといった日本の「実践知」の活用が求められている。一方で、そうした日本の価値観を効果的に世界に発信していくことがますます重要になっている。(参照:前回記事)
私は「シブサワ・ドクトリン」こそがその役割を果たすのではないかと考えている。株主資本主義の源流はミルトン・フリードマンが提唱した「フリードマン・ドクトリン」とされる。ノーベル経済学賞を受賞したフリードマンは市場至上主義者で知られ、企業の目的は利益と株主配分の最大化であり、政府が社会的活動を担うべきだと主張した。これに対抗する日本の概念が、「近代日本資本主義の父」と評される渋沢栄一が唱えた「シブサワ・ドクトリン」だ。
渋沢は『論語と算盤』(1916年)をはじめとする著書において、企業の社会的責任を説いた。彼の思想として、①道徳経済合一(倫理観に基づいた事業をする)、②公益第一、私益第二(公益実現を通した私益実現を目指す)、③事業持続性(長期的価値創造のため持続可能な事業をする)が挙げられる。
こうした渋沢の考え方は、現在の日本的経営に大きな影響を与えている。「社会の公器」(松下幸之助)や「利他の経営」(稲盛和夫)といった企業の社会的責任を重視する考え方には、その影響が見て取れる。コロナ禍で経済の在り方そのものが問われる今、シブサワ・ドクトリンの意義が再確認されるべきではないだろうか。
加えて、渋沢の考えは日本企業の競争力の源流ともされる。世界的に著名な経営学者のピーター・ドラッカーは、”Behind Japan’s Success”(Harvard Business Review)において、戦後における日本企業成功の要因として渋沢の思想を指摘している。
実際、コロナ危機以前からシブサワ・ドクトリンに対する国際的関心が高まっている。2008年の金融危機後には、国内外の著名な学者らが「Ethical Capitalism: Shibusawa Eiichi and Business Leadership in Global Perspective」という名の本が出版し、新たな経済や企業経営の在り方として渋沢の思想が脚光を浴びた。
世界経済はコロナ危機により再び岐路に立たされている。日本はルーツに立ち返り、自らの「実践知」である「シブサワ・ドクトリン」を世界に発信し、世界経済のステークホールダー資本主義への変革をリードするべきではないだろうか。これこそが日本流の「グレート・リセット」と言えるだろう。
※デロイト トーマツは世界経済フォーラムと協働し4つの柱からなる日本の「グレート・リセット」を発表しました。4つの柱とは意識のリセット、企業文化のリセット、経済のリセット、グローバルな連携・協力のフレームワークのリセットであり、詳細はこちらからご覧ください。