Posted: 15 Mar. 2021 4 min. read

なぜ世界経済フォーラム(WEF)は日本に注目するのか

【シリーズ】日本のグレート・リセットを考える(3)

日本を重要視する国際的コンソーシアム

世界経済フォーラム(WEF)と言えば、毎年1月にスイス東部の保養地ダボスで開催する年次総会、通称「ダボス会議」で広く知られている。コロナ禍に見舞われた今年は、いつもの年と違い、年次総会が8月にシンガポールで開催されることになったが、それに先立ち、去る1月25日から29日にかけて、オンライン形式での国際会議「ダボス・アジェンダ」が開かれた。

オンラインでの開催とはいえ、世界の政治、ビジネス、学術研究などの分野を代表する錚錚たる面々が参加し、ステークホルダー資本主義の推進、気候変動や地球環境問題への対応、国際協力の枠組みの再構築の必要性などが議論された。日本からは菅総理大臣も参加し、ポストコロナにおける成長の原動力として世界に向けて「脱炭素の実現」のメッセージを発信したことも記憶に新しい。

私は、前職で外資系テクノロジー企業の日本法人社長を務めていた時代から、デロイト トーマツに移って今日に至るまで、過去10年近くにわたり、様々な形でWEFとの関わりを持ってきた。そうした中で、肌感覚として感じることは、WEFが、他の国際的コンソーシアムに比べて、「日本を重要視」しているということだ。

たとえば、WEFがスイス本部以外で正式なオフィスを設けているのは少ないが、日本はそのなかで早期から東京にオフィスを開設した。また、2016年にWEFがサンフランシスコに開設した第4次産業革命センター(C4IR)が米国外の初のグローバル拠点に選んだのが東京(2018年開設)であった。WEFが今年の年次総会に向けて立ち上げたThe Regional Action Groups (RAG)という世界各地域の課題やアジェンダに取り組むプロジェクトがあるが、全世界を8つのRegion(地域)に分けて進められているこのプロジェクトの中で、日本も1つのRegionとして重要な検討拠点となった。ちなみに、デロイト トーマツは、この日本でのRAGの活動を支援し、WEFと共同でレポート「日本の視点:『実践知』を活かす新たな成長モデルの構築に向けて」を執筆・公表し、「ダボス・アジェンダ」でも反響を呼んだ。

WEFが日本に注目する理由

WEFが日本を重要視する背景が私の中では長らく謎であったのだが、RAGの日本の活動に私が関わる中で、その謎が解けた。

WEF会長であるクラウス・シュワブ氏は、WEF(の前身)を設立した1970年代初頭から、今でいう「ステークホルダー資本主義」の考え方をいち早く提唱していたが、ミルトン・フリードマンに代表される新自由主義の考え方が主流化する中で、欧米ではなかなか理解を得ることができなかったそうだ。しかしながら、当時の日本の経営者との対話を通じ、日本においては古来「三方よし」の伝統があり、「企業は社会の公器」という考え方が定着していることを発見したというのだ。以来、シュワブ氏は、日本の国や企業を「ステークホルダー資本主義」の先進事例として深く研究することになり、これがきっかけとなり、WEF全体でも日本に対する注目・関心が高いレベルで維持されてきたのだ。

WEFとの連携を通じて、世界の課題解決に貢献する

国際社会を動かすパワーとして、仮に軍事力を含む政治力が幅を利かせる国連やOECDを「第一極」、圧倒的な市場支配力をバックに自らをデファクトスタンダード化することに力を注ぐGAFAなどを「第二極」とするならば、これらとは一線を画するWEFの「第三極」的なアプローチは、ものづくり起点での経済を国力の源泉とする日本にとって本来的に相性が良いはずだ。今日の国際社会において、日本が政治の分野で突出したリーダーシップをとったり、GAFAのようなデファクトスタンダードに立脚して影響力を発揮したりすることは容易ではない。そのような中で、どちらか一方に与することなく、リベラルな立ち位置から国際協調を実現するルール“シェイパー”として独自の貢献をしていくことは、WEFの掲げる理念にも合致する。従って、こうしたアプローチを、WEFとも連携しながら推進することは、国際社会での日本の存在感を高める上でも戦略的に有効だと考えられるのだ。

これまでも、WEFの評議委員を務める竹中平蔵氏のように、WEFに積極的に関わり、WEFからの発信にも力を注いできた日本人も少なくないが、日本の企業が組織的にWEFと連携してきた実績はまだ乏しいのが実情である。ESG投資が主流となり、社会課題の解決と経済価値の創出を同時に追求することが求められる時代において、日本企業はWEFをグローバル視点でのアジェンダセッティングやルール形成のための場として、もっと戦略的に連携していくことを考えるべきであろう。

4月6日から7日にかけて、WEF主催の国際会議「第1回グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット」が東京で開催される。この会議はWEF内でダボス会議同等のレベルとして位置付けされ、テクノロジーの発展とあるべき姿を議論する重要な会議であり、日本で開催される意義も大きい。コロナ禍に端を発する世界的な危機を機会に変え、グローバル規模で経済と社会をより良い方向に改善するために、日本においてどのような議論が行われ情報が発信されるか、世界が注目をしている。

World Economic Forumレポート

4つの柱からなる日本の「グレート・リセット」を発表しました。4つの柱とは意識のリセット、企業文化のリセット、経済のリセット、グローバルな連携・協力のフレームワークのリセットです。

プロフェッショナル

川原 均/Hitoshi Kawahara

川原 均/Hitoshi Kawahara

デロイト トーマツ コンサルティング 経営会議議長 パートナー

30年以上にわたり外資系IT企業において金融およびハイテク業界のクライアントエグゼクティブ、インターネットビジネス推進責任者、ソフトウェア事業責任者を歴任したのち、先進的クラウドサービス企業 日本法人社長に着任し日本におけるクラウドビジネスの立ち上げおよびエンタープライズビジネスの急拡大をリードした。一方でデジタルトランスフォーメーション推進のリーダーとして総務省等の主催する委員会のメンバーも務め、ICTを活用した新しい社会基盤創りの提言を行っている。 >> オンラインフォームよりお問い合わせ