Posted: 21 Oct. 2021 4 min. read

日経ムック「グリーン・トランスフォーメーション戦略」刊行によせて COP26でさらに注目されるカーボンニュートラル。その達成に必要なGXとは?

【シリーズ解説】GX(グリーン・トランスフォーメーション)戦略とは

デロイト トーマツ グループ横断で、CEO直轄のイニシアチブとして推進している「Climate Sustainabilityイニシアチブ」を中心に執筆/監修をした、日経MOOK「グリーン・トランスフォーメーション戦略」が、いよいよ今月発売されることとなった。本書籍は、日本経済が活力や国際競争力を保ちながらカーボンニュートラルを実現するための道筋を示すという視点から、「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」というテーマの下に、今後必要とされるビジネスと社会の抜本的な変革の方向性を具体的に提示している。日本固有の強みを活かしつつ、長期的かつグローバルな視点から変革を構想・推進するべきであるという考え方に基づき、グループの総合力を結集して、実践的な変革の進め方を多面的に、そしてできるだけ具体的な「現実解」として、示すことができたのではないかと思っている。

 

カーボンニュートラル宣言以降注目されるCOP26

来る2021年11月1日、COP26がイギリスグラスゴーで開催される。COP26では、‘Paris Rulebook’、パリ協定達成に向けたルール策定、特に、目標達成に向けた途上国の削減されたCO2の市場メカニズムのルール策定、途上国への資金提供の方向性が議論となる。また、石炭の段階的な廃止、EVの普及などの1.5℃目標に向けた方向性も議題になる可能性がある。

日本も2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言し、企業も続々と、それにならった宣言をしているが、達成に向けた現実的なステップがみえているとは言い難い。カーボンニュートラルの世界を実現するには、従来の脱炭素の取り組みに加え、資源循環(サーキュラー・エコノミー)をも視野に入れた変革、「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」に取り組む必要があり、これこそが、日本が勝ち残る術だと我々は考えている。デロイト トーマツでは、GXを「カーボンニュートラルと経済成長、その手段としての資源循環を同時達成し、環境負荷を最小化した世界に変えていくこと」と定義している。

エネルギーの脱炭素化と日本特有の課題

カーボンニュートラル達成に向けて、まずエネルギーの脱炭素化が必要なことは論を待たない。環境負荷の低いエネルギーの使用やCO2の回収・有効利用・貯蔵といった研究が進んでおり、特に日本は水から水素を取り出す技術や、水素とCO2からプラスチックを作り出す技術などで高い競争力を持っている。ただし、ここでは日本では再生可能エネルギーのコストが他国よりも高いこと、エネルギーの海外依存度が高いことなど、日本特有の課題を意識する必要がある。エネルギー自給率の向上を目指すだけではなく、輸入した資源を使い続ける循環を確立していくことが不可欠である。

物質に起因する環境負荷の軽減と抜本的な社会システムの移行

サーキュラーエコノミー(資源循環)とは、原材料の効率的な利用だけではなく、製品寿命の延長や修理、使えなくなった製品の回収と再販売・再資源化のことである。原材料や製品に起因する環境負荷を抑え、有限の資源を循環させて使用していくという意味で、エネルギーの脱炭素化とあわせてカーボンニュートラルの両輪となる。高い耐久性と品質を持った製品を生み出せる日本の技術がここで生きてくるだろう。現在でも廃棄物の分別・可視化・追跡といった取り組みが企業や自治体で実施されているが、あらゆる業界や消費者を巻き込んで、社会全体にサーキュラーエコノミーを根付かせていく抜本的なシステム移行への対応がGXの成否を左右する。

特に企業については、経営戦略に対する考え方の変革が求められる。数年先を見据えた経営計画ではなく、2050年のカーボンニュートラルを見据えた長いスパンの時間軸が必要である。また、気候変動が世界的な課題であることを考えると、世界全体のGXを視野にいれた空間軸の見直しも求められるだろう。自社の得意領域を活かしながら、足りない部分は他社との共創も視野に入れ、より長期的かつグローバルな視点からGX戦略を打ち出すことである。「カーボンニュートラルの世界観」をいち早く描き、それをデファクトスタンダード化することで先行者利益を得られる大きな機会が生まれる。

資金循環

物質・エネルギーを循環させ、原材料から製品の消費・リサイクルにいたるまでのサーキュラーエコノミーを実現していくためには相応の技術力が必要であり、そこに資金を振り向けていくことが欠かせない。投資を受けた企業が技術を完成させ、資金を提供した投資家がリターンを得る。そしてまたそのリターンが新たな技術に対する資金に振り向けられる。このような資金の循環を可能にするためには、企業はサーキュラーエコノミーにおける自社の貢献というストーリーを示していくことが必要になろう。投資家側も2050年に向けた長期的な視点による投資判断が求められる。

物質、エネルギー、資金。この3つの資源の円滑な循環によって日本モデルのGX戦略を構築し、カーボンニュートラルの世界を着実に具体化することが今後の日本企業や日本経済全体の持続的成長のカギを握る。日本企業がグリーン・トランスフォーメーションにおいて世界で存在感を示し、世界の市場で勝ち残っていけるようにするためには、企業だけではなく、社会全体の取り組みが求められる。

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丹羽 弘善/Hiroyoshi Niwa

丹羽 弘善/Hiroyoshi Niwa

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

気候変動、及び中央官庁業務に従事。製造業向けコンサルティング、環境ベンチャー、商社との排出権取引に関するジョイントベンチャーの立ち上げ、取締役を経て現職。 システム工学・金融工学を専門とし、政策提言、排出量取引スキームの構築、気候変動経営戦略業務に高度な専門性を有す。気候変動及び社会アジェンダの政策と経営戦略を基軸とした解決を目指し官民双方へのソリューションを提示している。 関連するサービス: ・ 政府・公共サービス ・ クライメート(気候変動)&サステナビリティ 関連記事: ・ 地球はこのままでは守れない──デロイト トーマツが考える「環境と経済の好循環」とは >> オンラインフォームよりお問い合わせ