「骨太の方針2023」を読み解く ブックマークが追加されました
2023年6月16日、経済財政運営と改革の基本方針2023(以下、骨太の方針)*1が閣議決定された。2001年の小泉内閣からスタートしたこの「骨太の方針」は、まさに政策の基本方針であり来年度の予算要求の基礎となっていく重要な文書だ。
また、「骨太の方針」と同日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(以下、新しい資本主義)*2も公開された。こちらの文書は「成長と分配の好循環」を掲げる新しい資本主義実現に向けて、具体的にどのような取組を実施していく方向性であるのかを理解するために重要であり、骨太の方針と並べて読み込むことをお勧めする。
出典:内閣府*1・内閣官房*2をもとにデロイト トーマツ作成
政府の成長戦略がビジネスパーソンにとってなぜ重要な文書なのかといえば、「骨太の方針」あるいは「新しい資本主義」はまさに政府の目指す戦略がまとめられた文書であり、税制改革、金融政策、貿易政策などの政策に直結する。これらの政策は、企業の業績や市場の動向など経済に大きな影響を及ぼすことが明らかであるため、ビジネスパーソンにとっては熟読する必要がある文書といえる。
岸田政権では「新しい資本主義」を掲げ、従来コストと認識されてきた賃金や設備・研究開発投資などを「未来への投資」と再認識し、人への投資や国内投資を促進する政策を展開している。
政府は、人への投資と構造的賃上げの指針として「三位一体の労働市場改革による構造的賃上げ」を打ち出した。岸田政権が発足当初から繰り返し掲げている「人への投資」を軸として、①リ・スキリング、②(個々の企業の実態に応じた)職務給の導入、③成長分野への労働移動を三位一体で進めていく方針を示している。今回の骨太の方針では、リ・スキリングが、「企業主体から個人主体」に重点が移っていることも特徴のひとつだ。「キャリアは会社から与えられるものでなく、一人一人が自らキャリアを選択する」を基本的な考え方として5年以内を目途に効果を検証しつつ、制度改革も含め推進していく。
次に投資については、前述の「人への投資」に加え、骨太の方針には「海外からヒト、モノ、カネ、アイデアを積極的に呼び込むことで我が国全体の投資を拡大させ、イノベーション力を高め、対内直接投資残高を2030年に100兆円とする目標の早期実現」と明記された。経済産業省*3の調査によれば「対内直接投資残高は2022 年 6 月末時点で 43 兆円であるが対内直接投資残高の対GDP比は、2021 年末時点で 7.5%と OECD 加盟国平均の 67%(2021 年末時点)からは低い水準に留まっている」状況であり、2030年に100兆円達成するためには野心的な戦略が必要だ。ここ最近は、緊張の高まる台湾や韓国と比較し地政学リスクが低いとして、日本の立地競争力は高まってきている。また、今回の骨太の方針で注目すべきは政府が「長期的なビジョンを提示し、呼び水となる官の投資について複数年度でコミットする」と記載していることだ。規制・制度措置の見通しを示すことで、民間の予見可能性を高め、民間投資を誘発していく方向性を示している。
出典:内閣府「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」*4
新しい資本主義の成長のエンジンとして政府が位置付けているスタートアップ政策については2022年11月、「スタートアップ育成5か年計画*5」を打ち出した。これを確実に実現するために外国人起業家向けビザ(スタートアップビザ)の利便性向上や技能実習制度・特定技能制度の在り方の検討など、上記を推進していくために阻害要因となっているものについては規制改革も含め検討していく方針を示している。海外からの人材・資金を呼び込むためにいかに日本の魅力を発信していけるか、あるいは付加価値に繋げていけるかが勝負である。
*1 内閣府HP「経済財政運営と改革の基本方針2023」,令和5年6月16日閣議決定
*2 内閣官房HP「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」,令和5年6月16日閣議決定
*3 経済産業省委託調査事業「令和4年度我が国のグローバル化促進のための日本企業及び外国企業の実態調査報告書」,令和5年2月,p.28
*4 内閣府HP『「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」の決定について』, 2023年5月22日
*5 内閣府HP「スタートアップ育成5か年計画」, 令和4年11月
有限責任監査法人トーマツ A&A事業企画所属。ITソリューションサービス企業等を経てデロイト トーマツ入社後、グローバルでビジネスを展開する小売業、製造業、物流業等における会計監査、内部統制監査をはじめ、内部統制構築支援、SSAE18関連サービス、デジタルガバナンス・ ITガバナンス関連サービス、リスクマネジメント構築支援等に従事。 現在は、主にデジタル✕女性活躍の視点で、主にまちづくり、地域活性化、食品ロス等の社会課題解決に向けた取組を進めている。 資格:システム監査技術者、公認情報システム監査人(CISA)