Posted: 21 Jun. 2023 5 min. read

【シリーズ】こども・子育て政策への提言①

若い世代への資産移転による所得増と少子化対策の好循環

はじめに

1990年の「1.57ショック」から始まった我が国の少子化対策は、保育支援の拡大からスタートし、待機児童の解消、働き方改革、結婚・妊娠・出産支援、幼児教育・高等教育の無償化、最近では不妊治療支援、男性の育児休暇取得支援など、約30年にわたってその範囲を拡大させてきており、2023年4月1日にはこども家庭庁が新設された。

政府がこども・子育て政策に本腰を入れていこうとしているなか、デロイト トーマツらしい新たな視点や企業としての取り組みを紹介しながら、こども・子育てをテーマとした提言を有志で連載していく。第1回目は、「若い世代への資産移転による所得増と少子化対策の好循環」について論じてみたい。

 

 

 

若い世代の経済不安払拭の必要性

2023年3月31日に示された「こども・子育て政策の強化について(試案)」では、①若い世代の所得を増やす、②社会全体の構造・意識を変える、③すべての子育て世帯を切れ目なく支援する、という3つの基本理念が定義され、それを実現するための「こども・子育て支援加速化プラン」が提示されたが、「若い世代の所得を増やす」理念を実現するための具体的な施策が乏しかった。同年6月13日に提示された「こども未来戦略方針」(案)でも、「若者・子育て世代の所得向上に全力で取り組む」ことが強調されたものの、所得を増やすための具体的な施策は明確になっていない。

2021年に国立社会保障・人口問題研究所が30-40代に対して行った調査では、理想の子ども数を持たない理由として「子育てや教育にかかる経済的負担」がもっとも高い割合を占めている。いくら結婚や出産以降の周辺施策を充実させても、最初の一歩である若い世代の経済不安を取り除かない限り、少子化に歯止めをかけることはできない。

 

 

若い世代への資産移転による経済不安の払拭

若い世代の所得を一気に増やしていくことが難しいならば、若い世代への資産移転を進めることで経済不安を払拭していくことが考えられないだろうか。

個人金融資産の年代別の分布をみると、60歳代以上の割合が約65%を占めており、過去20年間でこの世代の保有割合は1.5倍に増加している。30代以下が占める割合は20年前の約10%から現在は約5%と半分の割合になっている。いわゆる老老相続も増加する中、若い世代への資産移転はなかなか進んでいないのが現状だ。令和5年度税制改正(案)の中で、「資産移転の時期の選択により中立的な税制」の構築を目的に贈与税と相続税について見直しがなされているが、例えば日本証券業協会が「中間層の資産所得拡大に向けて~資産所得倍増プランへの提言~」の中で示しているように、高齢者の資産を子供世代が代理人として運用する「家族サポート口座」(仮称)の創設などといった資産移転の方法も考えらえる。

旺盛な消費欲を持つ若い子育て世代への資産移転はそのまま経済成長につながる。資産移転を通じて若い世代に原資を確保させることで子育てに対する経済不安を払拭し、旺盛な子育て消費が経済成長を促し、若い世代の賃上げへとつなげていく。政府は賃上げによる経済全体の成長への好循環を謳っているが、若い世代の賃上げと少子化対策の好循環を実現するための第一歩は、若い世代への資産移転となるのではないか。

 

 


おわりに

第1回目は若い世代の経済不安の払拭をテーマに、若い世代への資産移転による所得増と少子化対策の好循環について論じた。今後はこども・子育て政策を具体的に実現していくための財源のほか、伝統的な「結婚」の概念にとらわれないパートナーシップのあり方など、様々な観点からこども・子育てについて論じていきたい。

 

出典:「第16回出生動向基本調査 結果の概要」(国立社会保障・人口問題研究所) (2023年6月21日に利用)

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