Posted: 23 Jun. 2023 3 min. read

カーテン回収サービスに見る「循環型ビジネスモデル」への転換

大手家具・インテリアメーカーで、不要なカーテンをいつでも回収するサービスが6月中旬から始まった。

不要になったカーテンを店舗で回収し、生地の状態が良いものは製品や生地素材としてリユースしたり、またフェルト状にして自動車の断熱材等としてリサイクルしたりする、という取り組みだ。2021年からカーテンの回収サービスを期間限定で不定期に実施していたが、好評につき、通年で実施することになった。

 

この取り組みは、「循環型ビジネスモデルへの本格的な転換の試み」だと見ることができる。

これまでも多くの企業が不用品の回収やリサイクル・リユースを手掛けてきたが、今後より本格的にビジネスモデルを循環型に転換するうえで最大の課題は、コストの低減である。

まず、不用品の回収にコストや手間がかかる。とりわけ、日本は海外に比べて、ペットボトルや缶の回収は定着している一方で衣料品などの回収が進んでいない実態があり、ある調査では「衣料品やおもちゃを店舗の回収ボックスに持っていく」人の割合はアメリカやイギリスは約5割である一方で、日本はわずか2割に留まるというデータがある。不用品の回収量が少ないとリユース・リサイクルの再加工にスケールメリットが効かず、必然的に割高になってしまう。

 

今回の取り組みは、二つのことを行い、上記の課題を解決するうえでの可能性を示している。

一つは「顧客との関係を変えている点」だ。今回は、不要になったカーテンを持ち込んだ顧客や、更に買い替えをする顧客に対してポイントを付与し、回収と買い替えの両面でのインセンティブを高めている。これによって、顧客にとって、回収意欲を高めるだけでなく、季節や気分に合わせて新たなカーテンの購入という買い替え頻度を高める行動につながる。このことは、企業にとって新たな売上機会の発掘と共に、回収ボリューム拡大によるコストの効率化につながる。

二つ目は、「業界内外の他社との連携」だ。リサイクル・リユースに他社製のカーテンも受け入れることで回収量を増やし、再加工におけるスケールメリットを高めると共に、自社で使いきれない素材を自動車断熱材として業界を超えて他社に提供することで、業界を超えて資源を無駄なく使いきることができる。
 

このような不用品の回収について、業界のリーダーが他社を巻き込んで自らの循環型ビジネスモデルを転換する動きが業界を超えて広がることで、循環型社会に繋がる展開に期待する。

 

※本稿は、2023年6月16日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

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松江 英夫/Hideo Matsue

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デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)