北海道のGX投資が加速 ~GXを梃子に世界から日本に投資を呼び込む「グローバル循環」×「地域循環」~ ブックマークが追加されました
2023年6月、脱炭素社会の実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)を北海道で推進するため、産官学金からなるコンソーシアム「Team Sapporo-Hokkaido」*1 が、札幌市に設立された。
このコンソーシアムは、自治体、金融庁等の省庁、道内外の金融機関、大学、エネルギー事業者等21の機関で構成され、GX金融情報等の集約・共有手法の構築、北海道の価値向上に資する再エネの供給促進や需要転換、ファンドやファイナンス等の整備、規制緩和の検討等を行っていこうとしている。
この取り組みの背景には、GX投資を支えるファイナンスにおいて「日本がアジアにおけるGX投資のハブとして“国際金融センター”になる」という狙いがある。
GXは、「今後10年間に150兆円超の官民GX投資を実現」という政府目標の下、これから投資が加速することが見込まれている分野であるが、多額の資金が必要な一方で事業性の不透明さ等からリスクが高いと言われている。そのため、民間投資を呼び込むため公的資金を入れて投資リスクを軽減するという「ブレンデッド・ファイナンス(公的資金と民間資金を組み合わせた調達手法)」を活用しようとしている。
いまや世界的な脱炭素関連事業への投資競争は激化しており、世界のESG投資額は2020年時点で35.3兆ドルに達した。運用資産全体に占めるESG投資の割合を国別に見ると、欧州が42%、米国が33%に対し、日本は24%*2と他国と比べると遅れており、これはまだ大いに伸びしろがある、と見ることができる。
北海道を舞台に産官学金が一体となって国内外からESG関連投資を呼び込むことができれば、GXを梃子にした地域経済の活性化を軸とした新たな日本の成長モデルになり得る。
今回、北海道でこうしたコンソーシアムが設立されたことの背景にはもう一つある。
実は、北海道は、再エネ導入のポテンシャルを地域別に見ると最も高いのだ。その規模は、ある試算では第2位の東北エリアの約3倍*3になり、国全体の再エネの潜在量のうち、3〜4割を占めるとされている。これは道内のエネルギー需要を賄うだけでなく、他地域へのエネルギー供給拠点になる可能性がある。再エネには様々な種類があるが、北海道の再エネの潜在量の内、太陽光が5割、洋上風力が3割強*3を占めるというデータもあり、有力視されている。
更に、これから北海道で脱炭素化が進むと、先端半導体やデータセンターの誘致等、エネルギー需要の多い成長産業の誘致に拍車がかかる可能性がある。今年2月には、次世代半導体の量産を目指す日本企業が千歳市に進出することが決まり*4、大きなニュースとなったが、他にも進出する企業が増えるということも起こり得る。企業が増えると地元の雇用が創出され、ヒト、モノ、データ、カネが地域に還元する「地域循環」の経済効果も期待できる。
GXを梃子にして、国の境界線を跨いでリソースを引き込む「グローバル循環」を「地域循環」に発展させることによって、日本の成長力の強化に繋がってゆくという展開に期待したい。
※本稿は、2023年6月23日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。
参考文献:
*1 札幌市・北海道・金融庁「~GX投資に関するアジア・世界の金融センターの実現~『Team Sapporo-Hokkaido』の設立について」
*2 Global Sustainable Investment Alliance “Global Sustainable Investment Review”
*3 電力中央研究所研究報告書「土地利用を考慮した太陽光発電および陸上風力の導入ポテンシャル評価」及び「再エネ海域利用法を考慮した洋上風力発電の利用対象海域に関する考察」を基に試算
*4 Rapidus「Rapidus、最先端半導体工場の建設予定地として、北海道千歳市を選定」
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関連リンク:
デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)
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デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)