Posted: 21 Jul. 2023 3 min. read

プロテインが長寿社会の切り札となるか

プロテインというと、従来は筋トレ愛好家向けという印象が強かったが、最近では商品形態のバリエーションが増え、ターゲット層も広がってきている。

例えば、シェイカー不要でそのまま飲んだり、食品にふりかけて食べたりできるパウダーや、いつでもどこでも気軽に摂取できるタブレット、プロテインが含有されているお茶やパンも登場し、これらを日本のメーカーも手掛けている。


商品形態が広がり、プロテインを摂取する人が増えることは、日本の「健康長寿の増進」につながると考える。

そもそもプロテイン(protein)とはタンパク質のことであるが、タンパク質は人間の体の約16%を構成し、皮膚や髪の毛、筋肉、内臓などのもととなる重要な成分だ。

少子高齢化が進む日本では、元気に自立して日常生活を送ることができる「健康寿命」を延ばすこと重要な課題の一つとなっている。健康な状態と要介護状態の間を「フレイル」(筋力や心身の活力が低下した虚弱の状態)と呼ぶが、フレイル対策にも骨・筋肉の維持が重要とされており、そのためにはタンパク質の十分な摂取が必要だ。バランスの食材から摂取することを理想としつつ、足りない分をプロテイン等で摂取していくことも今後必要だろう。

 

利便性と機能性の優れた商品が登場すると、世代を超えたターゲット層に対して需要のすそ野が広がり、市場の拡大につながる。実際にプロテイン補助食品の世界の市場規模は約3.5兆円(252億米ドル、2023年)で、2028年には1.5倍の約5.1兆円(367億米ドル)に拡大するという予測*1 がなされている。高齢者をターゲット層にしたプロテインも登場しているが、潜在需要はまだまだあるはずだ。

 

一方で、世界では「タンパク質危機(プロテイン・クライシス)」という共通の課題を抱えている。今後、地球規模で人口が増加することで食肉の消費量は2020年に比べ2032年には10~15%増加する*2 と予想される一方で、従来の畜産では必要なタンパク質を全て賄えず不足すると言われている。更に従来の畜産は温室効果ガスや水の消費量が多いという課題も指摘されている。

これから必要なタンパク質を賄うためには、プラントベース(植物性由来)のプロテインの増産が必要となる。プラントベースのプロテインは、大豆が主流で、他にもエンドウ豆や玄米があり、更に将来的には微生物をパウダー状にしたプロテイン*3 も次世代プロテインとして期待されている。

 

世界のプロテイン市場は、現状では大手や新興企業等が乱立している状態であるため、今後は、日本企業が積極的に参入し、健康長寿の増進に向けて細やかなニーズを捉えた商品開発により市場を作り出すことによって、世界でシェアを伸ばしてゆく余地は大いに見込める。

「健康寿命の増進」と「プロテイン・クライシス」という課題を同時解決できる商品やソリューションが、この日本から次々に生み出される展開に期待する。

 

※本稿は、2023年7月14日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

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松江 英夫/Hideo Matsue

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デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)