Posted: 04 Aug. 2023 3 min. read

ごみ焼却からクリーンエネルギーへ ~「メタネーション」の可能性

ごみの焼却工場から出る二酸化炭素(CO2)を活用して、クリーンエネルギーを作り出す実証試験*1 が始まった。

これは神奈川県横浜市、都市ガス会社、重工会社がタッグを組み、ごみ焼却工場の排ガスから分離・回収したCO2を、水素と組み合わせて、都市ガスの主成分のメタンを合成するという実証実験だ。この技術のことを「メタネーション」と呼ぶ。


私は、今回の取り組みは、世界で優位性が見込める「日本の脱炭素化技術」と「地域課題の解決」を掛け合わせる点に可能性があると見ている。

具体的は、世界で優位性がある水素、CO2回収(CCU: Carbon dioxide Capture and Utilization)、メタネーションの技術を、ごみ焼却工場の脱炭素化という地域共通の課題解決に活用する点に意義がある。

 

実は、「廃棄物」は日本の温室効果ガス排出量が三番目に多い分野(3.4%)で、中でも焼却に伴うものが約8割*2 を占めている。焼却するごみ自体を削減することはもちろん重要であるが、将来的にごみ焼却をゼロにすることは困難であるため、ごみ焼却工場の脱炭素化が全国共通の課題になっている。その解決策の一つとして今回のCO2回収とメタネーション技術が期待されているのだ。

合成メタンは、利用によって排出されるCO2と、回収されたCO2が相殺されるため、大気中のCO2は増加しないクリーンエネルギーだ。

メタネーションのメリットは、ガス導管やタンク等の既存インフラをそのまま使うことができるため、初期投資を抑えやすい点である。

 

一方で、メタネーションを普及させる上での最大の課題はコストだ。ある都市ガス会社の予測*3 によると、実際に2030年時点の合成メタンの想定価格はLNG輸入価格よりも高いため、開発した技術をビジネスで実装化するには、製造規模を拡大しコストを下げることが必要である。

これまで日本は、技術力が高くてもコスト競争力を持ち得ず、”技術で勝ってビジネスで負ける”を繰り返してきた。今後はその経験から学び、最初から日本だけでサプライチェーンを閉じずに、海外を巻き込む発想を持つことが重要だ。具体的には、コストを抑えるために水素を安価で製造する必要があるが、そのために再エネ価格の低い海外での調達と製造に積極的に取り組む必要がある。海外で再エネにより水素を製造し、それを日本に輸入し国内で合成メタンを製造するということだ。

 

更にそこに向けては、「ルール形成への参画」も必要だ。

現在、合成メタンを含むカーボンリサイクル燃料の“国を跨いだ”製造・利用については、国のCO2削減目標への計上ルールが決まっていない状況*4だ。既にEUは先行して、今年6月、合成メタンを「再生可能エネルギー」として認定するための基準を初めて示し、回収・利用したCO2相当量を燃料の排出係数から控除できることも明記した。日本も主体的に世界のルール作りに積極的に関わり、市場を作ってゆくことが必要だ。

 

これからは、国内で開発した有力技術を、積極的に海外を巻き込んで調達・製造を行うことでスケールメリットを活かしながら、日本の地域課題の解決に活用する。―このような国内外を跨いだバリューチェーンの循環を作ることで、“技術でもビジネスでも勝てる”日本になってゆくことを期待する。

※本稿は、2023年7月28日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

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松江 英夫/Hideo Matsue

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デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)