「木育」を広げよう ~“木を学ぶ”から“木と共に育つ”へ ブックマークが追加されました
「木育」という言葉をご存じだろうか。
木育とは、2004年に提唱され、子どもから大人までの全ての人が、木材との触れ合いを通じて森林の役割や社会的な意義への理解を深め、木材・森林を活かせる人材を育てる教育活動である。
日本は、OECD加盟国の中で第三位の森林率*1を誇り、森林面積はフィンランドやスウェーデンなどの北欧諸国と同等の広さがある世界有数の森林大国だ。森林には、光合成によるCO2吸収、生物多様性の保全、土砂崩れや洪水等の防災、豊富な水資源の供給等、様々な役割があり、重要な存在である。
その一方で、林業産出高はピーク時の2分の1に減少し*2、国内需要の落ち込みも大きい。木材自給率は2000年代よりも回復しているものの、4割程度*3と低い状況にある。
今後は、森林を活かせる人材を、需要と供給の両面から増やすことで市場拡大を図る必要があり、そこで木育は重要な役割を果たす。
海外に目を向けると、面積は日本と同程度ながら林業が盛んなフィンランドでは、木育は、学校教育や一般の生活に取り入れられて“日常化”されていることが特徴だ。フィンランドは、自然に親しむことが国民の権利として保障されている(自然享受権)こともあり、木育が国の教育カリキュラムに組み込まれており、子どもから高齢者の全世代において森林や自然と過ごす生活様式が一般化している。
日本でも、学校やNPOによる子ども向けワークショップや、自然体験活動を基軸にした幼稚園・保育園*4の取り組みなどが増えているが、今後は、子どもの非日常の体験の域を超えて、大人を含めて「全世代が“日常的に触れる”活動」にすべく、産官学が連携しながら、地域社会全体としての動きに広げてゆく必要がある。
そこにおいて、全世代を対象に地域社会の活動とする好事例として、長野県伊那市の取り組み*5がある。
面積の82%を森林が占める伊那市では、「山(森林)が富と雇用を支える50年後」をビジョンの基本理念に掲げて、「ウッドスタート(木製の誕生祝)」「ウッドライフ(地域材の住宅等)」「ウッドエンド(地域材の木棺)」を3本柱に据えている。市民が、子供から大人まで一生を通して様々な場面で、木材を利用することへの意識を高められるような活動を展開している。
このように木育を、単に人が木を一方的に理解するだけでなく、「木と共に人が育つ」という文化に発展させることで、森林の価値を日本全体で高めてゆくことを期待する。
※本稿は、2023年8月25日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。
脚注・参考文献:
*1 林野庁「世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート 概要」
*2, 3 林野庁「令和4年度 森林・林業白書(令和5年5月30日公表)」
*4 例えば、自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育のネットワークがある
*5 林野庁「木育をはじめとする木材利用の普及啓発に関する事例集」
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関連リンク:
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デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)