備えない防災「フェーズフリー」を暮らしとビジネスに ブックマークが追加されました
2023年9月1日の「防災の日」には、全国各地で様々な防災訓練が行われた。
例えば、東京・丸の内エリアでは、ディベロッパーが中心となり警視庁や東京消防庁と連携し、震度7の地震を想定した大規模な防災訓練を2000人規模で実施した。
防災対策には、このように平時から有事を想定したコミュニティづくりが重要だ。災害はいつ、どこで起こるか見通せないため、いざ起こった有事の際に機能するコミュニティの存在が鍵を握る。
例えば、有事にコミュニティが機能した例として熊本県球磨村の取り組みがある。2020年の記録的豪雨の際に、河川が氾濫し被害の大きかった地区において全員が助け合い迅速な避難に成功したという。その背景には、地域で、平時から災害発生時の「タイムライン」(行政や住民がとるべき行動を時系列でまとめた計画)を住民同士で話し合い、防災意識を高めていたという取り組みがあった。
今後、防災力を高めるうえで重要なキーワードが「フェーズフリー」だ。フェーズフリーとは、日常時と非常時の区切りをなくし、普段使っているモノやサービスを、もしもの有事の時にも役立てゆくという考え方だ。言わば、“備えない防災”だ。
フェーズフリーによるコミュニティづくりの実践例としては、北海道小清水町の防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」*1がある。これは役場併設の公共施設としては日本初のフェーズフリー施設で、併設されたカフェ、コインランドリー、フィットネスジムは、有事には避難場所や炊き出し等の用途で使用される前提で作られている。住民からすると、普段過ごす場所に何かあった時に避難できることは安心感につながる。
実は、フェーズフリーはビジネスにも活用できる。具体的には、商品開発のデザインにフェーズフリーを取り入れた例として、有事に計量カップとして使える目盛り付き紙コップや、平時は段ボール箱として使い、有事にはベッドとして使える強化段ボールなどがある。
さらに最近では、フェーズフリーを活かして企業と自治体が連携した新たなビジネスモデルも登場している。ホテルを運営するある企業では、122の自治体と連携協定を結び、平時はコンテナを客室として提供し、有事には被災地にトラックで運搬し、避難所として活用するサービス*2を行っている。
このように日々の暮らしやビジネスにおいて、「フェーズフリー」という有事と平時の両面一体の構えを持つことが、日本の防災力を高めることに繋がる展開に期待する。
※本稿は、2023年9月1日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。
脚注・参考文献:
*1 北海道小清水町 防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」
*2 レスキューホテル
※外部サイトにリンクします
関連リンク:
デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)
デロイト トーマツ グループ「価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略」
デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)