Posted: 13 Sep. 2023 3 min. read

体験型店舗による「美の拡張」 ~化粧品業界の挑戦と可能性

2023年9月、興味深い体験型店舗「うらないお店」*1が登場した。これは化粧品ブランドが手掛けたもので、肌悩みを解決に導く「占い」と、商品を「売らない」を掛け合わせた店舗だ。店内では、肌悩みや普段の生活習慣に関する質問に答えながら巨大あみだくじを進み、その番号のおみくじを引くと肌の運勢やアドバイスが分かる占い体験を楽しんだり、幻想的な空間のフォトブースで写真を撮ることで“自分でも知らない一面”に気づく体験をしたりすることができる。

 



このような体験型店舗の試みは、化粧品業界の将来の可能性を示唆しており、そのキーワードは「美の拡張」だ。

従来、化粧品業界では、スキンケアやメイクのような「外見」の美を磨く商品を中核に据えて展開してきたが、近年では、自分の美に対する価値観や、その時の体調やメンタル等の「内面」をケアする商品やサービスに範囲を拡張している。実際には、今回のような体験型店舗で、瞑想などのリラクゼーション体験を提供する、また肌のスキンケアレッスンと共にライフスタイルプランを提案するなど、内面から美意識を高める取り組みが広がっている。

こうした背景には、消費者意識の洗練化という変化がある。化粧品の国内市場はコロナ禍で縮小したものの、その後、外出機会の増加により回復基調にあり、3兆円近い規模に成長している。その中で注目すべきことは、“高価格帯市場”の伸びだ。あるデータによると、2020年から2022年にかけて、中・低価格帯市場が2%の伸びに対して、高価格帯市場は13%成長と高い伸びを示している*2

そこにおいては、高機能カメラやAIを駆使した肌の診断・提案のサービスや、バーチャルメイク体験は、購入額の高い人ほど関心が高いというデータ*3もあり、このような体験型店舗の需要はさらに大きく伸びる可能性がある。

 

今後、化粧品メーカーにとっての挑戦は、外見と内面の相互での「美の拡張」によって、顧客の一人一人のQOL(生活の質)をいかに高めてゆけるか、にある。

具体的な取り組みも生まれ始めている。例えば、ある化粧品メーカーでは、肌のビッグデータや触覚研究のノウハウを基に、顔の動画から心と身体の状態を可視化し、五感体験(振動・音楽等)により疲労・ストレスへの気持ちの切り替えを促すアプリをリリースした。また、高齢化が進む中で、複数の化粧品メーカーが「化粧療法」の研究に基づいて、介護施設等で化粧を用いたケアを行い認知症の予防・改善によって健康寿命の伸長に貢献するという取り組みを行っている。

 

「美の拡張」によって、化粧が本来持つ潜在力を発揮することを通して、人々の生活の質が高まり心身ともに健康美が高まる、そんな日本の未来に繋がる展開に期待する。

※本稿は、2023年9月8日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

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松江 英夫/Hideo Matsue

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デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)