「見えない」再エネ所有者に依存する電力の世界 ブックマークが追加されました
2021年10月22日に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において、2030年に向けた新たな電源構成の目標などが決定され、再エネ比率の目標も引き上げられた。
この目標を達成する手段として、昨今は大規模な洋上風力発電の新規導入などにも期待が寄せられるが、FIT制度(固定価格買取制度)の下でこれまで大量に設置されてきた太陽光を中心とする再エネ発電所を継続していかなければ、再エネ目標の到達と維持は到底困難と言える。では一体、これらの再エネ発電所は、誰がどのように維持管理していくことになるのだろうか。
長らく日本の電力供給は、旧一般電気事業者(大手電力会社)が大規模電源を保有し、適切に維持管理することで支えてきた。一方で温暖化対策・CO2排出削減の一環として再エネ導入の機運も高まる中で、2012年にFIT制度導入を契機に太陽光を中心に全国各地で様々なプレイヤーが発電事業者として名乗りをあげた。
高い目標を後押しする制度設計により新規の再エネ電源が導入され、それにより旧来の化石燃料ベースとする発電所と比較してCO2排出が削減される・・このシナリオ自体は非常に望ましい。一方で見方を変えれば、FIT制度下で多数の再エネ発電事業者が乱立し様々な目的により発電所を所有することになり、維持管理が困難な状況に陥る危険性がある。これから主力化しようという再エネ電源に関して、どのような事業者がどのように発電所を運営しているのか、定期的な形式上の報告による現状把握を除けば、政府がすべての電源に目を配るのは不可能であり、多くのリスクを含んでいる。
最大の懸念事項は、それぞれの再エネ所有者が各々の目的で再エネに取り組んできており、従来の大手電力会社と異なり電力供給に対する責務がある訳ではないため、自身の都合によって事業をやめることが出来る点が挙げられる。特に、再エネ大量導入の契機となったFIT制度においては、運転開始20年間で売電期間がいったん終了するため、例えば投資回収を終えて事業継続意向がない場合や、あるいは土地契約満了やオペレーションの負荷などを理由にFIT終了に合わせて発電事業をやめるという事象が起きることも考えられる。
これは国の再エネ目標達成に大きな影響を及ぼすだろう。また、仮に一時的に再エネ目標を達成することができたとしても、その継続・拡大においては不確定要素が根強く残る。導入された電源を20年のみと言わず継続運転していく方策が非常に重要だ。ここに、国の主力電源を「見えない」所有者に依存する最大のリスクがあると言える。当然ながらFIT制度下では所有者情報を把握でき、事業譲渡があれば名義変更により譲渡先が把握されるため名前は「見える」訳だが、より具体的にそれがどのような事業者であるのか、さらに長期的に事業継続意向があるのか無いのかが、「見えない」ことに課題がある。
今後、発電所閉鎖が相次ぐというリスクを回避するためには、FIT制度下での売電期間終了を待たずして、徐々に事業継続や所有者移管等の議論を各所で行うことが肝要だ。また、エネルギーの課題に対して国が一定の関与を担うことへの期待もある。
デロイト トーマツでも、太陽光発電所や再エネの売買を支援するプラットフォーム “Renewable Energy Platform”を開発し、2023年3月より運用を開始した。このプラットフォームは、太陽光発電所や再エネ電力の売却希望情報をマップ上にデータベース化して表示するものである。これまでは相対取引や仲介業者を通しての取引に限定され、新規参入企業にとって取引実態の把握が難しいとされていた発電所売買市場の課題を解決するため、全国の購入希望企業に広く情報を提供している。現状では「見えない」、いわば閉ざされたと言える世界が、徐々に発電所の状況や所有に関する情報により透明性が高まり、国の将来を担う電源が適切に維持管理されていくことが求められている。
出典:デロイト トーマツ グループ「Renewable Energy Platform」より
日系シンクタンク、大手デベロッパーを経て現職。主にエネルギー関連の戦略・ビジネスモデル策定、及び個別プロジェクトの事業性評価等に従事。 再エネ事業開発の経験も有し、案件組成・セカンダリ―取引への専門性も有する。