親のケアに焦点を当てた保育施設 ~育児負担を軽減する新サービス ブックマークが追加されました
2024年1月、新たなスタイルの保育施設が神奈川県川崎市にオープンした*1。この保育施設は、親向けの休息室を併設している点がユニークだ。十分な休息をとれていない親たちが、子どもを預かってもらう間、リクライニングベッドやマッサージグッズを備えた休息室で、睡眠をとったり、読書をしたりといったリフレッシュ時間をゆっくり過ごすことができる。その間、保育スタッフが子どもを見てくれて、子どもは遊具などで遊んだり、お面や帽子などの制作物を作ったりすることができる。また、その保育中の様子を親が後で確認できる保育カードも用意している。
この保育施設は、子どもだけでなく親のケアにより重点が置かれている点で意義がある。
その理由は、日本では「育児の負担が大きい」という深刻な課題があるからだ。内閣府による国際意識調査*2において、「子育てをして負担に思うこと」を20代~40代に聞いたところ、日本では「精神的な疲れ」が43%で、他国(フランス、ドイツ、スウェーデン)と比べて圧倒的に高い。また、日本の過去の結果と比較すると、「身体的な疲れ」と「精神的な疲れ」を挙げた割合は、10年前はそれぞれ20%台後半だったが、直近では40%台となり年々増えているという実態がある。
育児の負担をどのように軽減するか、社会全体で考えていかなければない。既に自治体や民間企業が保育や一時預かりサービスを運営しているものの、ケアの対象は主に子どもに重きが置かれていた。しかし、今回のように、子どもと同時に親を対象にしてケアする民間のサービスはまだ今後広げる余地があり、サービスの選択肢が広がっていくことに意義がある。既に存在する親向けのサービスとしては、自治体の例では、静岡市が「ママケアデイサービス」を実施している*3。生後4か月~1歳未満の子どもを持つ母親を対象に、温泉旅館で子どもを預かる間に、母親が休息できるサービスを提供し人気になっている。また、千葉県流山市では、民間企業が託児所とコワーキングスペースとビューティーサロンを備えた施設*4を運営しており、ここでは子どもを預けてテレワークや読書をしたり、ビューティーサロンでくつろぐことができる。これからは官民でこのようなサポートの選択肢を増やしてゆくことが求められる。
さらに今後は「仕事と育児の両立」において、“育児負担を軽減するための職場”としての企業の役割もより重要になる。
厚生労働省は昨年12月に「仕事と育児・介護の両立支援」に関する対策をまとめた*5。これは育児・介護休業法の改正に向けた方針であり、企業の両立支援策の義務化が予定されている。このうち育児に関する支援では、企業の大小や業種を問わず、子どもが3歳になるまではテレワーク活用促進を事業主の努力義務とするほか、子どもが3歳から小学校入学前までは、事業主が各職場の事情に応じて、柔軟な働き方に関する制度(始業時刻等の変更、テレワーク等、短時間勤務制度、保育施設の設置運営等、新たな休暇の付与)を2つ以上設けることが義務化される。また、労働者は権利として、所定外労働の制限(残業の免除)を請求できる。企業は従業員の育児のサポートを加速させることが求められている。
そうした流れを先取りして、中小・中堅企業においても既に取り組みが始まっている。100人未満のある運輸業では短時間制社員制度、育児の有給休暇の導入をしている*6ほか、ある製造業では柔軟な時差出勤対応やテレワークを導入している*7。
今後、育児負担の軽減に向けた様々な取り組みが増えることで、社会全体として仕事と育児を両立しやすい環境整備が広がってゆくことを期待する。
※本稿は、2024年1月12日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。
脚注・参考文献:
*1 三井不動産「孤育て課題に寄り添い、子育てしやすいまちづくりを目指す 民間初、ママ・パパ用休息室併設の一時預かり保育「YASMO」が始動」
*2 内閣府「令和2年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」 「第2部 Ⅳ. 育児について」
*3 静岡市「ママケアデイサービス」
*4 「託児所&コワーキングスペース&トータルビューティサロン cocoti」
*5 厚生労働省「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について 概要」
*6 厚生労働省 女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集「大橋運輸株式会社 (運輸業、郵便業)」
*7 厚生労働省 女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集「株式会社サカタ製作所 (製造業)」
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関連リンク:
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デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)