Posted: 23 Jul. 2019

金融機関向け「アナリティクスによる拠点不動産戦略アドバイザリーセミナー」講演報告

「データサイエンス×不動産戦略」からみる営業エリアの将来推計に基づくリスク評価と戦略策定、拠点不動産戦略の実行事例

有限責任監査法人トーマツおよびデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社は、金融機関を対象に2019年6月25日(火)『アナリティクスによる拠点不動産戦略アドバイザリーセミナー ~「データサイエンス×不動産戦略」からみる営業エリアの将来推計に基づくリスク評価と戦略策定、拠点不動産戦略の実行事例』を開催。本稿では本セミナーのサマリを紹介する。

会場の様子
会場の様子

金融機関が“いま”求められているモノとは?

異次元の金融緩和、特に2016年度からのマイナス金利導入の影響により、収益のベースとなる市場金利が低位で推移している。他方で、海外では金融緩和解除の動きもあり、将来の金利動向は不透明である。人口に占める高齢者層の割合が増えることで地域経済の活力が徐々に弱まることや、Fintechの台頭によって金融ビジネスへの異業種参入による競争環境激化が想定されている。このように目まぐるしく変化している状況に対し、金融機関は自身のビジネスモデルを変革していくことが求められている。

 

金融機関の拠点不動産戦略にはアナリティクスが活用可能

金融機関におけるビジネスモデルの変革の際に注目されているものの一つにアナリティクス技術の活用がある。本セミナーのテーマである拠点不動産戦略においては、エリアごとの人口動態・実質GDP・世帯貯蓄高・インフレ率等、様々なデータの分析にアナリティクスを活用し、その分析結果を基に、どのような地域に進出すべきか、もしくは撤退するべきか、という意思決定を高度化することで、持続可能なビジネスモデルの構築に繋げることが可能と考えられる。

 

拠点不動産戦略の全体像

アナリティクスを活用した拠点不動産戦略の策定・実行においては、大きく「アナリティクスによる拠点不動産の調査分析」と「CRE戦略の策定・実行」の2つのフェーズに分けられる。また、拠点不動産戦略の策定・実行を進める際には5つの視点を踏まえて検討を進める必要があり、具体的な検討ステップは以下となる。

 

拠点不動産戦略の策定・実行を進める際に必要な5つの視点

  • 長期的視点で営業エリアに将来性があるか (人口動態 / 預金量 / 貸出金量 / 自行拠点の重複 / 他行拠点との競合等)
  • 営業エリアの将来性を踏まえた上で、個別拠点の収益力に成長が見込まれるか (将来収益シミュレーション)
  • 拠点不動産の減損リスクや、建物の老朽化リスクが適切に把握されているか (不動産時価評価、建物現地調査等)
  • 個社の状況に応じた拠点戦略が策定されているか (建替、現状維持、売却、賃貸等の方針や、拠点の将来像、有効活用案等)
  • プロジェクト全体のスケジュールやコスト管理は現実的なプランに基づいているか、策定したプラン通りに進捗しているか。
拠点不動産戦略の策定・実行の検討ステップ

本稿では、「アナリティクスによる拠点不動産の調査分析」フェーズ(以下【策定段階】とする)と「CRE戦略の策定・実行」フェーズ(以下【実行段階】とする)における実際の取組み事例を紹介していく。

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 シニアマネジャー 岡田 嘉邦
有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 シニアマネジャー 岡田 嘉邦

持続可能な拠点不動産戦略の実現に向けた課題とは?

金融機関の拠点不動産戦略を実現させるためには以下の課題がある。

  • 拠点廃止による、コスト影響(往訪時間の増加による人件費増加等)の定量化が困難
  • 拠点の廃止が隣接拠点に及ぼす影響分析が容易でなく、順序性を勘案することが困難

これらの課題を解決するためには、アナリティクスの活用が有効である。そこで、以降では実際にアナリティクスによって拠点不動産の調査分析を実施した事例を紹介する。

 

【策定段階】拠点統廃合後の商圏分析例

本事例においては、機械学習にも用いられるボロノイ分割という手法をベースにWhat-if分析を可能とした拠点戦略に関するモデルを検討していった。金融機関の拠点戦略を検討する際にボロノイ分割を導入しない分析では、将来の富裕層の密度の可視化および現状の拠点網の将来収支シミュレーションといった大局的な分析に限られていたが、ボロノイ分割を採用することで、以下のような将来推計を加味したより詳細な分析も可能となる。

  • 現状の拠点から富裕層の密度が高い地域への距離コストの定量化
  • 現状の拠点の勢力(商)圏の可視化
  • 拠点の統廃合シミュレーションによる勢力(商)圏分析
  • 拠点の将来収益性の序列分析

このような分析の実現により、各拠点の統廃合後の損益シミュレーションが可能になり、さらには拠点廃止の序列をつけることが可能となった。

 

【策定段階】オフィス賃料等の将来推計例

もう一つ事例を紹介する。今回の事例においては、自社が投資または拠点を有しているエリアの将来推計に関してパネルデータ分析を活用した。具体的には、公開されているオフィス賃料データと国勢調査のデータの分析結果より、相関があり蓋然性が高いことが考えられた「人口密度」と「昼夜間人口比率」の2つを説明変数として採用し、将来推計を含めたパネルデータ分析を実施した。その結果、有望な投資エリアおよび賃料下落が見込まれるエリア等を選定し、最適ポートフォリオの検討、投資方針への反映に活用することが可能となった。

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 マネジャー 松岡 秀貢
有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 マネジャー 松岡 秀貢

金融機関における拠点不動産戦略で検討するテーマとは?

金融機関が拠点不動産戦略を検討していく際には、数が多い施設(支店・ATM施設)、規模が大きい施設(本社・事務センター)、ノンコア資産(社宅・寮、研修施設等)のテーマが想定される。【実行段階】においては、このテーマの中で、効率化やリスク抑制策につながる、数が多い施設(支店・ATM施設)を対象とした事例を紹介していきたい。

 

【実行段階】CRE戦略の策定

人口動態等の外部環境におけるデータの活用は前述で説明した。【実行段階】においてもこれらのデータ活用は必要だが、加えて、各店舗の収益状況や顧客特性等のデータや、既存建物の性能分析(外壁の落下や漏水による損害・停電等の老朽化に伴うリスクやコストの把握)についても分析し、以下のようにポートフォリオの見直しを進めていく。

支店ポートフォリオの見直しの考え方

金融機関の不動産には金庫や書庫など特殊用途の不動産が存在していることから、売却や賃貸化の難しさは念頭に入れておく必要があり、CRE戦略を策定する際のポイントとなる。

 

【実行段階】プロジェクトの実施

拠点不動産戦略の最終ステップは、プロジェクト(拠点戦略)の実施となる。この際、現状調査等の実施、レイアウトプランの検討、工事等の実施、という流れで進めることとなる。これらを推進させるためには、個別の部門で対応しているだけでは実現が難しい。それぞれの部門の希望を詰め込んでいくと、コストが跳ね上がることや、予定していたスケジュールが後ろ倒しになる等が想定される。そこで部門横断で課題認識を共通化し、全体最適化に向けて収斂する取組みが求められる。

また、一店舗を新たに造るよりも一店舗を取り壊す方が10倍大変だとよく言われることから、昨今では、よりコンパクトな拠点を造り、効率・収益の最大化が求められるトレンドが見受けられる。このような取組みに対して、アナリティクスの活用が一つの切り口となる。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ヴァイスプレジデント 眞中 正司
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ヴァイスプレジデント 眞中 正司

まとめ:意思決定の高度化というデジタルトランスフォーメーションの実現に向けて

拠点不動産戦略は、長期的に企業の将来を左右するという点で、重要な意思決定となる。しかし、従来から必ずしも十分なデータ分析が実施されておらず、経験や勘による意思決定がなされるケースも散見された。しかし現在では、ビッグデータの蓄積や技術革新により、アナリティクスを拠点不動産戦略に活用することが可能となった。具体的には、自社の営業エリアにおける人口動態、世帯貯蓄高、年収などを将来推計し、長期的な視点で地域としての将来性を見極めることや、統廃合を行った場合の拠点別損益・商圏の変化、エリアオフィス賃料水準の将来推計といった取組みが進められている。

アナリティクスを活用することで、地域や拠点の将来性が「見える化」され、対外的な説明力も高まり、結果として意思決定の質が高度化されることから、今後、アナリティクス活用の流れが加速していくと想定される。まさに金融機関の拠点不動産戦略において、デジタルトランスフォーメーションの実現が可能な世の中になってきたのである。

 

 


 

アナリティクスによる拠点不動産戦略アドバイザリー 

~データサイエンス×不動産戦略~

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