Posted: 08 Jun. 2020

「クラウドの変革」がもたらすインパクトと、求められる人物像

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナーの森正弥とパートナーの森亮、2名のInnovatorにより、「クラウドによる変革がもたらすインパクト」と「クラウドによる変革を成功させるために求められるスキルとその人材像」をテーマに白熱した議論が繰り広げられた。

Innovator達のこれまでの歩み

・デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 森 正弥

外資系コンサルティング企業に入社後コンサルティング業務に従事、さまざまなテクノロジー領域を担当したのち、インターネットと研究開発に注力。その後グローバルインターネット企業に移り、研究開発の組織の立ち上げや、デジタルトランスフォーメーション(dX)を中心としたミッションを遂行。研究開発をGlobalでリードしながら、様々な新規事業を開拓し、当該企業の成長に大きく貢献した。AIやビックデータやクラウドに関する取り組みについての造詣も深い。

・デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 森 亮

外資系コンサルティングファームで20年超の経験を有し、近年では主にデジタルビジネス及びディスラプティブ・テクノロジー領域に注力し、企業のデジタル・トランスフォーメーションを支援すべく活動を展開。
デジタル化やIoTの最新トレンド研究を踏まえ、戦略策定変革テーマ導出のプロジェクトを多数手掛ける。「戦略×テクノロジー」領域でのコンサルティング経験に加え、クラウドビジネス、アドバンスト・アナリティクス、IoT等に関する見識・実績を豊富に有する。

#クラウドによる変革がもたらすインパクト

—まず、「クラウド」の現状についてお聞かせください。

森 正弥:

たくさんのコンピューターをネットワークでつないだものを「クラウド」と呼ぶことは1990年代からあったのですが、今日的な「クラウドコンピューティング」としての「クラウド」という言葉は2006年に世界最大級のグローバルインターネット企業のCEOであった人物が、スピーチの中で使ったのがはじまりだといわれています。

当時は、インターネットの利用が拡大し、企業システムのさまざまなトランザクションが急増していました。その対応策として、サーバーを「ネットワークの向こう側(=クラウド)」に集約させることであると述べ、その結果、大量のデータがクラウドに蓄積されるようになり、そのデータをもとに「AI」を活用した高度なインターネットサービスが登場したという流れになりました。

森 亮:

「クラウド」という巨大なインフラをベースに、アプリケーションを迅速に立ち上げるという技術進化も起きています。

最近では、ビジネス部門が独自の判断でITを導入・使用する、いわゆる「シャドーIT」という状況が散見されるようになりました。それが現場の実態です。

これまでの企業は、自社の論理に合わせてシステムを作りこみ、所有してきました。しかし今は、自社のキャパシティを超えたものが求められる時代です。その中で求められているのは、「クラウド」のような外部の力をうまく使いこなすスキルです。

お客様やマーケットが求めるニーズを迅速にキャッチアップし、サービスとして提供するシステムを構築していく上で、クラウドは根幹技術の1つになっています。

—新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で「クラウド」がより注目されてきました。COVID-19によるトレンドの変化は起きていますか?

森 正弥:

これまで、企業は災害対策やBCPなどを策定し、不確実性に対応するための計画を立ててきました。しかし、今回COVID-19という想定外の事態に直面し、立ち行かなくなったというケースも見られます。その実態を分析してみると、デジタル化の遅れがボトルネックになっているようです。

一方で、テレワークを実施するため急遽クラウドサービスを導入した企業の中には、「dXは思った以上に遂行できる」といった感触を得ているケースもあるようです。

今後は企業のdXが推進され、不確実性に対応できるビジネス構造やオペレーティングモデルを作るための投資が増えていくでしょう。

—クラウドというと「セキュリティ」に懸念を持つ人もいます。セキュリティの対応などについて教えていただけますか?

森 正弥:

セキュリティに懸念を持っているケースのほとんどは、内在化するリスクや外部展開できるリスクについて、細かく分析できていないのではないでしょうか。実際、セキュリティリスクは、クラウドを使う/使わないにかかわらず存在していますからね。

たとえば、データ保護やセキュリティリスク低減のための規制やガイドラインとして、GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法)、PCI DSS(PCIデータセキュリティスタンダード)があります。こういったガイドラインに、自社だけで対応することは困難ですよね。

森 亮:

もちろんクラウドプレイヤーはガイドラインに準拠していかなければなりません。それに加え、様々なリスクにも対応していかなければ、ビジネスが立ち行かなくなります。そのため、セキュリティリスクにひとつひとつ対応してサービスを提供し続けています。

確かに、これまで自社で大切に守ってきた情報をクラウドに保存することに対して「リスクがある」と不安に思うことはあるでしょう。しかし実際は、先進的なセキュリティ対策を採用するクラウドプレイヤーを活用することで、むしろ高いセキュリティレベルの確保やリスク管理が実現できます。今後は、外部のサービスを使うことによってリスクを転嫁していくという考え方がスタンダートになっていくでしょう。

—テクノロジーというポイントで言うと、日本は「アーキテクチャ」のキャッチアップが遅れている、といわれることがあります。この点についていかがでしょうか?

森 正弥:

これも歴史から考えていきましょう。1990年代後半から2000年代前半にかけて、最新のテクノロジーを採用していた投資銀行は、数多のITエンジニアを抱え、後にSOA(サービス指向アーキテクチャ)やWebサービスといわれるアーキテクチャに近いシステムを作り込んでいました。それが2000年代後半以降、やっと浸透し始めたのです。

当時私が勤務していたグローバルインターネット企業では、今でいう「マイクロサービス」的な開発手法をとっていました。小さなファンクションをAPIで数珠つなぎにし、画面やサービスを構成するのは当たり前。マイクロサービスやクラウド、コンテナといった概念を先取りしていたのです。

森 亮:

開発と運用を組み合わせ、開発スピードや品質を向上させる「DevOps」的な発想を、そのグローバルインターネット企業はすでに肌感覚で持っていたのかもしれませんね。

いずれにせよ、コンテナやマイクロサービスアーキテクチャ、オープンAPIやAPIライフサイクルマネジメントなどはオブジェクト指向から脈々と受け継がれ、レイヤーの上位階層に広がっています。

デジタルテクノロジーがもたらすアジリティや、スケーリングの力をいちはやくビジネスの成長ドライバーとして取り込んだGAFAのようなデジタルネイティブ企業が、一気に他社との差を広げ、引き離してきました。従来型の企業は、その攻め筋を自社に取り込んでいこうと、デジタル変革に躍起になっています。

森 正弥:

当時、私が勤務していたグローバルインターネット企業には「CUOS」という言葉がありました。これは「小さく(Chiisaku)生んで(Unde)大きく(Ookiku)育てる(Sodateru)」の頭文字をとったもの。「まずは小回りが利くサイズでサービスをリリースし、それをお客様と一緒に育てていくことが大切」ということを意味しています。まさにクラウド時代のサービスの姿を言い当てた言葉だと思います。

森 亮:

「Think Big, Start Small, Scale Fast」という言葉もあります。大きなビジョンを掲げながら小さく始めようという考え方は、多くの産業に広がっていますし、PoC(概念検証)を試みる企業も増えています。もっとも、デジタル変革の本質は「Scale Fast」にあって、この巧拙が成否を分けるといっても過言ではありません。

国内では、「PoC倒れ」、「PoC疲れ」ということが言われ始めています。これは、「試す数」や「PoCをやること」という手段が目的化してしまった結果だと思います。

森 正弥:

テクノロジーもビジネスも、「育てていく力」を考えていかないといけません。PoC疲れは、その問題を私たちに突きつけるテーマだと思います。

デジタル時代の戦い方は、小さく始めたビジネスをいかにスケールしていくのかということだと思います。

それを支える根幹技術が、クラウドです。例えばインターネットビジネスの場合、データを分析し、改善してマーケティングの課題を解決していく「グロースハック」が当たり前に行われていますが、他の産業でもこういった取り組みを行い、スケールファストを目指していくようになるでしょう。

森 亮:

いろんな業界で、グロースハックやハッカソンイベントが増えていますね。しかし、デジタル時代に使いこなせる材料としてのオープンAPIやマイクロサービス群やデジタルアセットは、まだまだ十分ではありません。今後、ビジネスを加速させるために、基盤の整備は欠かすことができなくなっています。

 

#クラウドによる変革を成功させるために求められるスキルとその人材像

—クラウド時代に必要とされる人材についてお聞かせください。

森 正弥氏:

従来、「ビジネスが分かる人材」と「テクノロジーが分かる人材」は別と考えられていて、ある種の対立関係にありました。

しかし、「このビジネスをどう育てていくか」ということに注目したとき、この2つを分けていたのではうまくいかない。これからは、IT知識やアーキテクトデザイン、分析などのテクノロジースキルである「Red Skill」と、業界知識やロジカルシンキング等汎用的なビジネススキルである「Blue Skill」を掛け合わせた「Purple People」人材が求められるようになります。

さらにGlobalで活躍できるということも重要となってくるので、「Global Purple People」であればなおよし、というところでしょうね。

森 亮:

今でも「ビジネス」が主で「テクノロジー」はその従者というような主従関係を感じることがあります。IT人材のキャリアパスの到達点と、企画畑の人材のキャリアパスとの到達点とが異なるケースは散見されますね。

だからこそ、アーキテクトの重要性が高まっていると感じています。市場では「エンジニアの人材が足りない」といわれていますが、ここでいうエンジニアは、単純にコードを書ける、ということではなく広義のデザイン力を持ったエンジニアです。

そういう人材が報われる制度や風土に国内企業も変わっていないと、優秀な人材はどんどん海外に流れてしまい、一番大事なピースであるはずのデジタル人材・テクノロジー人材が国内で空洞化してしまいます。

実際、OSS(オープンソースソフトウェア)などで素晴らしいテクノロジーが広がっていますし、新しいスタートアップもどんどん登場しています。それらをどのように組み合わせ、価値創出を生成するメカニズムに組み込んでいくのか。これからは、そういったことを考えていかなければなりません。

森 正弥:

優秀なエンジニアを優遇し、パフォーマンスを発揮してもらうことは、企業にとっても大きなテーマになっています。

例えば、商品のレビュー情報を理解するAIアルゴリズムの精度を向上させると、企業の売り上げは何百億円もアップします。そうなると、エンジニアに1億円払っても惜しくない。実際、海外ではそういった事例も出てきています。

現在の状況が今後も続けば、優秀なエンジニアはどんどん海外に出て行き、日本は空洞化していくでしょう。それを防ぐには、社会構造やビジネス構造を変えていかなければいけない。そういった危機感を抱えている企業や経営者は増えています。

森 亮:

これからは、テクノロジーの損失がビジネスバリューの損失に繋がる世界になっていくでしょう。

つまり、今後はテクノロジーが分かる人材の需要がどんどん大きくなっていきます。これまでビジネスが分かる人材を登用していた企業も、代謝していかなければいけないことに気づき始めているはずです。

森 正弥:

テクノロジーは、一朝一夕で身につくものではありません。知識の積み上げは非常に重要です。トレンドが変化し続けても、積み上げた知識があれば応用的に理解できる。その知識は、ビジネス側やストラテジー側でも重宝します。

大切なのは、テクノロジーをビジネスバリューにどうやって結びつけていくのか、社会課題をいかに解決し、世の中を良くするのかということです。

その点でも、クラウドをはじめとしたデジタルテクノロジー領域の未来は間違いなく明るいですね。鍛錬(勉強)を重ね、一緒に頑張っていきましょう。

—ありがとうございました。

プロフェッショナル

森 正弥/Masaya Mori

森 正弥/Masaya Mori

デロイト トーマツ グループ

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。2019年に翻訳AI の開発で日経ディープラーニングビジネス活用アワード 優秀賞を受賞。 東北大学 特任教授。日本ディープラーニング協会 顧問、企業情報化協会 AI&ロボティクス研究会委員長。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『クラウド大全』(共著:日経BP社)、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『大前研一 AI&フィンテック大全』(共著:プレジデント社)がある。 記事:デロイトデジタル「新しい世界へのマーケティングは、人とAIのコラボレーションによりもたらされる」 関連サービス ・ カスタマー・マーケティング(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ

森 亮/Ryo Mori

森 亮/Ryo Mori

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

外資系コンサルティングファームでの20年を超える経験を経て現職。金融業をはじめ多様な産業を対象とし、戦略立案、先端技術洞察、イノベーション・テーマ探索、マーケティング/CRM領域、組織・風土改革等のコンサルティング活動に従事。近年では主にデジタルビジネス及びディスラプティブ・テクノロジー領域に注力し、企業のデジタル・トランスフォーメーションを支援すべく活動を展開。 関連サービス ・ 保険(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ