Posted: 09 Mar. 2022 6 min. read

第3回「dX Leaders Summit」開催レポート ”DX, What’s Next?"

ゲスト:ソニーグループ株式会社 執行役員CIO 樋田 真氏

2022年1月28日、イノベーション創発施設「Deloitte Greenhouse」で開催された「dX Leaders Summit」のテーマは、「DX, What’s Next?」。「dX Leaders Summit」では、ソニーグループ株式会社の先進事例やデロイト トーマツ グループのプロフェッショナルによるパネルディスカッションを通じ、DXジャーニーの先にある変革やDX推進に向けた具体的な方策などについて、議論が行われた。

 

開催レポート

開会の挨拶に立ったデロイト トーマツ グループ CEOの永田高士は「コロナウイルス感染拡大の影響でニューノーマルが提唱されてから、早2年が経ちます。この間、日本企業のDXは、半ば強制的ながらも加速しました。しかし、部分的なプロセスや既存業務のデジタル活用にとどまっており、 DXの効果を組織全体で最大化できていない企業は少なくありません」と語った。

不確実性が高まり、予測不能な時代といわれるなか、多くの企業はDXの必要性を理解し、経営戦略の中心として掲げている。DXによって実現すべきことは、デジタルテクノロジーを手段として徹底的に活用し、新たな価値を見いだし持続的な成長を達成することに他ならない。しかし実態を見ると、オペレーションの自動化や業務プロセスの効率化にとどまっているケースも多い。

この現状に対し、永田は「ビジネスモデルの抜本的な変革、すなわち「Transformation with DIGITAL」を断行し、新たな経営モデルへの構造転換を図る必要があります」と断言した。

ゲストプロフィール

Keynote Session

 

Keynote Sessionに登壇し、「ソニーにおけるDXの取り組み」というテーマで語ったのは、ソニーグループ株式会社 執行役員CIOの樋田 真氏。幅広いビジネスを有するソニーグループが、既存領域の深化と新規領域の探索を行いながら実現してきたDXの取り組みについて説明した。さらに、それに関連した自社の事例や、DX戦略実現のためにCIO/CDOおよびIT部門に求められる役割や期待、経営層との関わり方についても言及した。

冒頭、樋田氏は「ソニーのパーパスは『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』というもの。世界中の人々と共に多様な視点を融合し、持続可能なビジョンを描く。そして、テクノロジーで人々の暮らしを豊かに変えていくということを示しています」と切り出した。

ソニーには、複数の事業があるが、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」という共通のパーパスが存在することで、各事業が一つの方向性に向かいながらさまざまな価値観を共有することができているという。

パーパスを実現するキーワードは、「人に近づく」。樋田氏は「感動バリューチェーンを通じ、クリエイターやユーザーなどさまざまな方々に感動を届け、事業を1つに束ねています」と語る。

デジタル化のフレームワーク

「デジタル化」の取り組みについて、「当社では①戦略層、②組織層、③人材層、④IT層という4層構造のフレームワークを作り、それぞれに対して取り組み内容を明確にし、共有しています」と説明する。そこでDX戦略コミッティを設立し、「DXは経営のアジェンダ」であるということについて経営層と合意形成を行った。また、グループを横断するCDOを設置し、樋田氏とCDOの二人でグループ全体を巻き込んだDXフォーラムの活動を行っている。DXフォーラムとは、各事業でのベストプラクティスを取りまとめるほか、PoCの成功体験をフォーラム内で共有し、これらを求心力として他の事業へ発展させることを目的とした組織となる。

「これまでのDXの取り組みは、業務の効率化や高度化がメインでした。今後はエレクトロニクスから金融セクターに至るまで、個社が企業価値を高められるDXを推進する必要があり、ハイブリッド体制の構築が急務と考えています」(樋田氏)

そこで、個社の活動についても本社がある程度リードし、しっかりサポートできる「Federated Model」を構築。分析のノウハウやPoCの結果フレームワークになったものなどをエクセレンスとして蓄積するCenter of Excellence(CoE)を設置した。さらにファーストパーティーデータの利活用を推進するといった活動を実施している。CoEの対象には、ノウハウや経験値、知的財産なども含まれる。あらゆる分野で培われているソニーの技術を徹底活用するためにもCoEの活用が必要だ。

「テクノロジー一辺倒ではバランスが悪い。ビジネスにもCoEの仕組みを取り入れ、簡単にノウハウが検索でき、リーチできるといったプラットフォームを作っていきたい」(樋田氏)

ノウハウやテクノロジー、知的財産を含むリソースの流用・活用を促進する仕組み作りにも着手している。樋田氏は「広くソニーグループの中で共有するだけでなく、将来的には、パートナー企業や社外とも共有し、切磋琢磨できるようなCoEにしていきたいと考えています」と話す。

新しいことに挑戦することを促す企業風土を作る

新しいことにチャレンジするマインドセットが重要と考えたソニーグループは、トレーニングメニューを工夫した。「既存のやり方に固執するマインドを捨て、新しいことに挑戦するマインドを育てることで、組織風土を変化させようとしています」(樋田氏)。

デジタル化に向けたクラウド技術の習得を目的としたトレーニングや、デザイン思考のトレーニングなどに加え、オペレーションの効率化に寄与するRPAやデータアナリティクス領域などでも多くの従業員がトレーニングを受けている。

「IT人材に求められるスキルがどんどん変わってきています。いままではIT技術が重要な要素でしたが、データ分析やビジネスモデルの開発などの曲面でも、それらをプロデュースしたり、コラボレーションを促したりする役割も求められています」(樋田氏)。

そのためソニーグループでは、キャリアパスの再設計を実施。最新技術を学べる環境なども合わせてチャレンジできる人材の育成や挑戦の場を継続的に作っている。

 

データ流通基盤「Sony Data Ocean」がDX加速のカギ

また、ソニーグループのデータ流通基盤であるSony Data OceanやITを活用することで、既存業務の高度化を目指している。

「各事業体が持っているデータウェアハウスやデータレイクのデータを『Sony Data Ocean』に入れることで、今まで見えなかった顧客像が見えるようになります。」(樋田氏)

さらに、知的財産やプラットフォームに点在しているデータ活用についても、グループ全体で最大化していこうとしており、実際に事例も増えているという。

業務プロセスについてもITの活用を推進。「AIとRPAを組み合わせた形で業務を組み立てるため、プロセスから再設計しています。実際、エレクトロニクス領域ではRPAでデータを収集し、AIが販売予測を行い、製造販売業務を回すといったことが行われています」(樋田氏)

オペレーションの効率化・高度化が進めば、「今年度末には年間で36万時間の削減見込みとなっています」(樋田氏)。最近では、RPAロボットの生産性を新しいKPIとして設定し、ロボット業務の集約化・センター化を図りながらコスト効率を高める活動をしている。

このようにソニーグループでは、フレームワークのもとデジタル化が加速している。同グループの成功事例はDXを推進する多くの企業にとって参考になる部分が多く、業界からも注目を集めている。

Q&A Session

 

続くQ&A Sessionでは、大久保 伸夫(デロイト アジア パシフィック リミテッド Clients & Industries リーダー)がインタビュアーを務め、DXを推進していくうえでの組織の巻き込み方やCIO/CDOが果たすべき役割等を伺った。

経営層や現場のキーマンを巻き込むカギは「パーパス」

大久保:DX変革実現に向けた組織の巻き込みといったところついて、お話をお聞きできればと思います。どのように経営層や現場のキーマンなどを巻き込んでいったのかというところをお聞かせいただけますか?

樋田氏:確かに「巻き込み」は簡単ではありませんでした。当初、吉田(ソニーグループ株式会社代表執行役会長兼社長CEO)よりDXの話があったとき、「DXは経営アジェンダ」ということを申し上げ、DX戦略コミッティを作ったことで第一歩を踏み出すことができました。

経営層がパーパスを前面に押し出していることも、各事業のマインドを変えた大きな要素であったと思います。パーパスを実現するキーワード「人に近づく、感動を届ける」を共有したことで、組織や事業を超えたシナジーが生まれ、新たな顧客価値の提供に繋がるというマインドになっていたのだと思います。

CIO/CDOが果たすべき役割

大久保:企業には、CIOやCDO、あるいはCTOなどさまざまなロールがあります。DXを進める中で、CIOやCDOが果たす役割についてお聞かせ下さい。

樋田氏:DXとひと言でいっても様々な領域があります。既存ビジネスの効率化・高度化という観点では、RPAやAIなどCIOが果たすべき役割が大きい。一方、ビジネスモデルを変えていくにはテクノロジーだけでは進みません。そこで、CDOとCIOがコラボレーションしているというのが大きなメリットになっているのだと思います。

もう一つ大切なのは人間関係です。事業推進の人脈や各事業のIT責任者とのリレーションなど、これまで培ってきたものを活用して、全体を推進するといったこともしています。

個社の取り組みや戦略を可能な限り尊重する「Federated Model」が重要

大久保:DXを進めていくと、個社ごとに分科会や委員会、コミュニティが乱立し困ってしまうといった声もあります。ソニーではそういった全社的なガバナンスのストラクチャーをどのように構築されているのか教えていただけますか?

樋田氏:当社では基本的にFederated Modelを採用し、個社の取り組みや戦略をできる限り尊重して進めています。ただし、スケールするものや重複投資のような領域に関しては、本社がリードするケースもあります。そういった意味では、本社が統括して進めている領域もありますが、個社が取り組むことに関してはウェルカムです。我々としては乱立とは捉えておらず、活動が浸透していると理解し、いい状況だと考えています。

チェンジマネジメントの進め方

大久保:DXを推進するには、カルチャーやマインドセットの変革、人材のスキルセットの変革などを絶え間なく行っていくことが重要ですがトレーニングを受けることに抵抗を持たれる人材もいるという話も聞きますが、どのように変革を促してきたのか教えて下さい。

樋田氏:DXに限らず、新しいことにチャレンジする重要性を伝えるため、人事部門を巻き込んで評価制度を変更したり、1on1を実施し精神的安全性を確保したりと、さまざまな施策を打ってきました。

ここ数年は、新しいことにチャレンジすることは素晴らしいことだという風土を醸成するための活動を続けています。その結果、改革やトレーニングに躊躇する社員はほとんどいないという状況になっていますね。

オンプレミスとクラウドとの使い分け

大久保:最後に、クラウド化の利点についてお聞かせください。クラウド戦略など様々な切り口はあると思いますが、クラウドとオンプレミスをどのように使い分けているのかなど、具体的な事例も共有いただければと思います。

樋田氏:だいたい7割のアプリはクラウドで動く環境になっています。クラウドの利点は2点あると考えています。1点目は、フレキシビリティが高いことです。たとえばPSのネットワークビジネスなど、急激に多くのユーザーがアクセスするとスパイクが起きます。それに対応するためのサーバー増強は、オンプレだと簡単ではありませんが、クラウドだと実に簡単にできてしまいます。

2点目は、コスト削減です。ソニーグループはグローバルに17ほどのデータセンターを持っていました。クラウドシフトを行うことで、現在は6まで削減しています。そういう2つの点においてクラウドは非常に重要だと考えています。

ただし、重要なデータやAIを研究開発するためのサーバーなどはオンプレ環境でしっかりと作るといった取り組みもしています。目的に応じて、使い分けるということが重要なのではないでしょうか。

大久保:ありがとうございます。大変貴重なお話しを頂き、とても参考になりました。

Insights from Deloitte

Insights from Deloitteでは、「DX, What’s Next?」(DXの先にある変革)を実現するための取り組みについて、企業のDXを支援しているプロフェッショナル3人が登壇し、見解を述べた。

パネリスト有限責任監査法人トーマツ パートナー 長谷川 孝明デロイト トーマツ税理士法人 パートナー 上田 理恵子デロイト トーマツ リスクサービス パートナー 川端 達也

モデレーターデロイト トーマツ グループ 執行役員 CIO プログラムリーダー 箱嶋 俊哉

写真左から長谷川 孝明、上田 理恵子、川端 達也、箱嶋 俊哉

DXの取り組みの4つの課題

冒頭、箱嶋は「基調講演では、本セミナーのテーマである『DX, What’s Next?』の先の姿を見せていただいたという印象を受けました。パネルディスカッションでは、この「DX, What’s Next?」にどうやって持っていくのかということをテーマに進めていきたいと思います」と語った。

「DX推進にあたり企業が抱える課題とはどのようなものがあるか?」という箱嶋の問いを受け、有限責任監査法人トーマツの長谷川は、「①目指す姿を描き切れていない、②取り組みをしても、どんな成果が出ているのかよくわからない、③組織が縦割りで、事業や機能の枠を超えられない、④人材が確保できていない、という4つの課題が多い印象です」と答えた。

DXの取り組みにおいては、それぞれの組織やビジネスがさまざまな施策を掲げるが、施策が小粒であり、DXで何を実現し、変革をどのように成し遂げていくのかという部分まで踏み込めていないため、目指す姿を十分に描けていない。また、KPIなどの指標の設計ができておらず、ビジネス上の成果が不明な上、大規模企業では組織の縦割り構造が壁になり、思うようにDXが進められないといった状況だ。さらに、人材の育成や確保が難しいという課題があり、それぞれの組織が単発的に取り組んでも、全体としてドライブがかからないという点を指摘する。これらは多くの企業で共通している課題だという。

「こういった課題を乗り越えるためにデジタルガバナンス・コードやDX認定、DX投資促進税制などもうまく活用し、DXを推進している企業が増えています」と長谷川は言う。

DX投資促進税制とは、DXを推進する目的で行われている政府の支援策の1つ。日本企業のさらなる成長を目指し、事業変革を促すというものだ。

課税の特例は投資額上限300億円だが、最大15億円の税額控除が受けられる。こういった制度を活用することで、その控除額をさらにDX投資に充てることも可能となる。

デジタル変革にはデジタルガバナンス・コードを活用

次に、川端が「デジタルガバナンス・コード」について解説した。デジタルガバナンス・コードは、これら支援施策を活用するために何から始めればいいのかという物差しになる。

「デジタルガバナンス・コード」は、2020年11月に経産省が策定したもので、4つの柱が定義されている。

1つ目は、価値創造のストーリーを描き、それを発信していく「経営ビジョン・ビジネスモデル」で、2つ目は、経営ビジョン・ビジネスモデルを実現するためのデジタルを活用した変革の「戦略」だ。この中には、戦略を実現するための推進体制の構築も含まれる。3つ目は、「成長と重要な成果指標」。DXの戦略を成果に結びつける必要があるため、成果を測定する指標の設定やモニタリングが必要となる。4つ目の「ガバナンスシステム」については、経営者のリーダーシップやサイバーに対する対応、取締役会がDXの取り組みを監督していくことが柱となっている。

「1年間で250社ほどの企業がDX認定を受けています。攻めの対応に加え、サイバーに対する対応も必要な要件になっているというのが実状です」(川端)

DX推進指標と自己診断結果のチャートで見える化を実現

DXを全社的に推進していく上で、パーパスやKPIが重要な役割を担う。そのスタートラインとして川端が紹介するのが、経済産業省が公開している「DX推進指標に対する自己診断結果」のチャートだ。

「35項目と非常に細かいチャートですが、一つ一つは重要な内容となっています。このチャートを見ることで、自社がどのようなレベルにあるのか、DX認定企業や先行企業と比較することができます。それによって自社の立ち位置を把握し、何が足りていないのかということを見える化することができます」(川端)

戦略や成果といったことも重要だが、それを実行するためのケイパビリティを備えなければいけない。そこで、「何を強化していくべきなのかということを、チャートで見える化し、進めている企業が増えている」と川端は言及する。

現在、DXはバズワードではなく、日本企業の成長には欠かすことができない要素となっている。実際、日本政府もDX推進を支援するための制度を作っており、企業の成長を促している。これらの制度をうまく活用することで、部分的なDXによるプロセス、業務改革だけでなく、企業全体のトランスフォーメーションを加速することも可能となるだろう。

今回のInsight from Deloitteでご紹介した事例などを参考に、ぜひDXを加速する取り組みを始めていただきたい。

現在は、先行きが不透明で未来の予測が難しい「Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity(VUCA)」の時代といわれる。この時代を生き抜くには、デジタル技術やデータを活用した経営や事業の変革は不可避だ。だからこそ、DXを推進し、「Transformation with DIGITAL」を実現することが今求められている。デロイト トーマツ グループは、積極的にその支援を行っていく。

【問合せ先】デロイト トーマツ グループ CIOプログラム 事務局:cxoprogram.jp@tohmatsu.co.jp

プロフェッショナル

箱嶋 俊哉/Toshiya Hakoshima

箱嶋 俊哉/Toshiya Hakoshima

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

金融、公共、製薬業界を中心に、テクノロジーを軸としたコンサルティングサービスを担当。企業統合や基幹システム再構築などのグローバルおよび大規模プロジェクトに強みを持つ。 デロイト トーマツ グループとして提供するCXO Programの責任者も務める。 ITやリーダーシップに関する人材育成も得意としており、大学をはじめとする外部講演や執筆も多数手掛けている。主な著書に、「ITアーキテクトのためのシステム設計実践ガイド」(日経BP社)などがある。   関連するサービス: ・エンタープライズテクノロジー・パフォーマンス(ナレッジ・サービス一覧はこちら) ・CxO Agenda(詳細はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ