Posted: 21 Apr. 2020

つながる住民と自治体

テクノロジーがもたらす政策の「質」変化

行政手続きのオンライン化

住民が行政サービスを意識する代表的な例として、住民票の交付などの窓口サービスがある。現在は一般的に住民が役所の窓口を直接訪問し、申請手続きをしており、転居などの多い3月、4月には役所窓口に長蛇の列ができることも珍しくない。通常期であっても、住民は手続きのために仕事や用事を諦めなくてはならないことがあり、負担や機会費用につながっている。また、窓口対応をする職員も住民から紙で申請された内容をシステムに入力するなどの作業を行っており、業務負荷と手続きミスの要因となっている。

これらは、現在のテクノロジーで十分に解決ができる課題である。実際に住民票の交付請求・決済をスマートフォンからオンラインで受け付け、書類を自宅に郵送する実証実験もはじまっている。近い将来、私たちは書類を受け取るために役所を訪れることはなくなり、役所庁舎は職員のための事務所になるかもしれない。

また、手続きのオンライン化により、紙がなくなるインパクトは想像以上に大きい。これまで紙で行われた手続きが、電子的に処理されることで、PAやAIの活用余地が飛躍的に拡大し、職員が単純作業から解放される。それによって、職員は地域課題解決のための政策立案や企画など、正規職員にしかできない付加価値の高い業務に集中できるようになる。これは、政策の質に関わる変化である。

 

住民参画の課題と未来

住民は行政サービスの受け手であると同時に、政策に影響を与える主体であることを忘れてはならない。特に、市町村レベルでは、私たちは選挙時だけではなく、政策形成に参画する様々な機会(以下、住民参画)を有している。「地方自治は民主主義の学校である」と言われる理由もここにある。しかし、実態は課題も多く、住民が政策を動かす場面は限定的である。

2019年に有限責任監査法人トーマツが全国の市町を対象に実施した調査(「自治体コミュニケーションの未来を展望する調査」回答数563)によれば、ほぼすべての市町が現状の住民参画の手法に課題を感じており、特に「参加者の年代の偏り」と「参加人数の確保」が課題の上位にあげられている。これらが導く「住民意見の偏り」は、住民の意見を政策形成に活用することを困難にしている。一方で、同調査において8割の市町がテクノロジーを活用した新たな住民参画の手法に関心を示しており、ここに地方自治の未来がある。

今後、ネットが使える世代が住民の大部分を占めるようになることで、既存の紙アンケートなどのアナログの手法がデジタルに置き換わる。デジタルは双方向かつ、継続的な住民参画を可能とする点で、単なるアナログからの形式の転換に留まらず、住民参画の概念を変える力を持つ。それにより政策判断が大きく変化する可能性がある。

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デジタルでつながる住民と自治体

遠隔地からの住民参画を可能にすることもデジタル化の重要な側面である。現在、多くの自治体が人口減少に悩まされており、短期的な解決の道筋が見えているとはいえない。出生数の減少だけでなく、若者の人口流出が自治体の人口減少を深刻化させている。そこで関心を集めているのが、地域に関わってくれる人口を意味する「関係人口」である。

現状、「関係人口」の創出策として主に取り組まれているのは、観光や仕事などで訪問する人との「新しい関係」づくりである。しかし、より重要となるのは、テクノロジーを活用して、現在まちに住む人とのつながりを作り、進学や就職などで住民が転出した後もその「古い関係」を継続することであると考える(なお、当法人の前述調査によれば、転出者との継続的なつながりを持っている市町は1割に満たない)。

ライフステージの変化に応じて転出した住民は、故郷のことに関心を持っている可能性が高く、最も重要な「関係人口」となり得る。その関係を活用し、情報発信や遠隔地からの意見収集を行い、それを政策に反映させることによって、「帰りたくなる地域をつくる」ことが効果的である。

このように、テクノロジーは、住民と自治体の関係性を大きく変化させ、政策の「質」を変えるポテンシャルを持つ。自治体が住民とのつながりを深めることは、時にコントロールできない住民意見に向き合うことでもあり一筋縄でいかない難しさがある。しかし、住民との対話・合意形成は、官民連携してスマートシティを通じた都市サービスの向上を図るためには不可欠なステップであり、テクノロジーを梃子に挑戦する自治体が多く現れることを期待したい。

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執筆者

加藤 俊介/Shunsuke Kato

加藤 俊介/Shunsuke Kato

有限責任監査法人トーマツ マネジャー