Posted: 14 May 2020

都市運営の中核としてのデータ活用

統合プラットフォームと推進機関の必要性

データの提供・活用環境の充実

Soceity5.0やスーパーシティ構想等の国内におけるスマートシティの取り組みの隆盛に伴い、行政分野におけるデータの利活用にも注目が集まっている。データの利活用が注目される背景を「データの提供側(デバイスの保持者やアプリの利用者等)」と「データの活用側(データの分析結果を各種施策に反映させる行政機関等)」に分けて考察する。提供側においてはIoTデバイス・ウェアラブル端末等の普及が挙げられ、活用側においてはETL、DWH、BI等*1の各種ツールの機能の高度化・価格の低廉化が挙げられる。すなわち提供側の面では従来よりも“多様”かつ“大量”のデータを提供可能な環境が、活用側の面では従来よりも“高度”かつ“手軽”にデータを分析できる環境が整備されており、データを有効活用できる環境が整備されつつあることによる。

 

国内での取り組みの現状

上記のような背景を踏まえ、国内の行政分野においても新しいデータの利活用が行われている。例えば観光領域における人流データ(Wi-fi履歴・各種センサー情報等)を活用したマーケティング分析や、エネルギー領域における電力消費量の可視化をはじめとしたHEMS*2等の取り組みは国内でも具体化が進んでいるといえる。しかし、現状の国内での取り組みはSoceity5.0やスーパーシティ構想等で掲げられているビジョンとは隔たりがあると感じられる。それは国内での取り組みの多くが、各領域に閉じたものに終始しており、各種の取り組みから得られるデータを統合した活用がされていない、すなわち都市運営における意思決定のエビデンスとしてのデータの利用には至っていないという点にある。

 

データの統合プラットフォームと推進機関

データを中核に据えた都市運営の実現に向けては、「①各領域の取り組みから得られるデータを統合するプラットフォーム」と「②プラットフォームを活用して各種施策の検討の礎となる分析を担う(データの利活用を推進する)機能」が必要となる。ここではデロイトが実際に支援しているポルトガルのカスカイスの事例を参考として取り上げる。カスカイスでは数十の異なる領域の情報を市全体のマネージドサービスコマンドセンターに統合し、複雑な都市環境を管理している。管理した各種の情報に対する分析・洞察を提供する「都市運営の頭脳」としての機能を果たすべく、オンラインダッシュボードやカスタマイズ可能なレポートなどを備えた統合マップを都市管理者に提供している。例えば廃棄物管理データを道路建設・修理状況や各種の交通情報等のデータと統合して活用している。リアルタイムの交通状況と道路状況のデータを使用して、収集トラックの最適なルートと廃棄物の収集の最適な時期を特定し、運用コストを最大40%(900,000ユーロ)削減することを目指している。

都市運営の中核としてのデータ活用に向けて

無論、カスカイスの事例もすでに完成されたものではなく、現在進行形で取り組みを進化させている過程にある(今後のフェーズで都市情報のさらなる統合を計画)。都市の運営におけるあらゆるデータを一元化し、意思決定に活用するまでは、データを収集するためのハードの整備や、既存のデータベースの統合等、長い道のりを要することが想定される。しかし個別のサービス品質を向上させるためだけにデータを活用するのではなく、都市運営の基軸としてデータを活用する、その視点をもったうえでスマートシティの構想を描くことこそが、データを基軸とした都市運営の第一歩であることは間違いない。日本のスマートシティにおいてもこのような都市運営の視点を持ってデータ利活用に取り組むことが求められる。

 

*1 ETL:Extract Transform Loadの略で、企業内に存在する複数のシステムからデータを抽出し、抽出したデータを変換/加工した上でデータウェアハウス等へ渡す処理、およびそれを支援するソフトウェアのこと
DWH:Data Ware Houseの略で、データの倉庫、一般に時系列に整理された大量の統合業務データ、もしくはその管理システムのこと
BI:Business Intelligenceの略で、企業の情報システムなどで蓄積される膨大な業務データを、利用者が自らの必要に応じて分析・加工し、業務や経営の意思決定に活用する手法。そのためのソフトウェアや情報システムのこと

*2 HEMS:Home Energy Management Systemの略で、家庭内のエネルギー監理システムのこと。エネルギー監理システム(EMS)とは、電力使用量の可視化、節電(CO2削減)のための機器制御等を行うシステムを意味し、管理対象により住宅向けのHEMS(Home)、商用ビル向けのBEMS(Building)、工場向けのFEMS(Factory)等の名前がそれぞれ付けられている

本稿は2019年10月に執筆しています

 

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