Posted: 28 Jan. 2021 5 min. read

千代田 邦夫 先生 インタビュー

監査の再定義に関する佐々木上級顧問による有識者インタビュー

企業の会計不正が起きる度に会計監査に対する批判がされ、監査基準の改定等の対応が行われてきている。他方で企業による非財務情報の開示が拡大しESG投資等の関連で投資家の関心も高くなっており、この分野での監査の役割が課題になっている。さらにデジタル化の進展はAI等の利用により監査の高度化・効率化が期待される反面、監査そのものがAI等により代替される可能性も指摘されている。

このような状況において、社会が監査に求める役割は何か、将来目線で「監査とはどうあるべきか」に関し、佐々木清隆氏が多方面の有識者にインタビューを実施した。

第3回は、長年にわたり会計監査の研究・実務に従事し、2013年4月から2016年3月まで金融庁公認会計士・監査審査会会長も務められた千代田邦夫氏にお話をお伺いした。

なお、本稿において意見にわたる部分は聞き手・話し手の個人的見解であり、聞き手・話し手が現に所属し、またこれまでに所属したいかなる組織・団体の見解を示すものではない。

 

【話し手】千代田 邦夫
鹿児島経済大学、立命館大学、熊本学園大学、早稲田大学を経て、金融庁公認会計士・監査審査会会長。『アメリカ監査論』『闘う公認会計士』などの著作で、日経経済図書文化賞、日本会計研究学会太田賞、日本内部監査協会青木賞、日本公認会計士協会学術賞などを受賞。現在MS&ADインシュアランスグループホールディングス監査役。

 

【聞き手】佐々木清隆:デロイト トーマツ グループ 上級顧問
大蔵省(現財務省)入省後、OECD, IMF職員、金融庁・証券取引等監視委員会事務局長、公認会計士・監査審査会事務局長、総合政策局長として内外金融行政全般に広い経験を有する。

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千代田邦夫先生

1.監査の現状認識、監査に対する期待

(佐々木)会計不正が起きるたびに会計監査に対する批判が起き、これに対して監査基準等が追加され、基準を遵守するためのルールベースの準拠性監査が強化されていますが、対象企業の実態が十分に把握できていないのではないかという指摘があります。

他方で、AI等、デジタライゼーションの進展に伴い従来の監査が役に立たなくなるのではないかという声も聞かれます。

このような監査の現状や、監査が社会の役に立っていないのではないかとの認識について、どのようにお考えでしょうか。

海外当局も含めてルールベースの監査が中心であり、このような問題意識を有している当局等は国際的にみても少数ではないかと思われます。

(千代田)問題意識としては理解できます。他方で、法律に基づく監査の枠組みは、金融商品取引法等でかなり決まっています。企業の国際化とも相まって、監査の基準や枠組み等も国際的に定まっています。このような状況で、従来の監査の枠組みを変えるのはなかなか容易ではないと思います。

企業が内部統制で財務情報の適正性を担保し、不正を防止すべきとの意識は経営陣を含め確実に高まっています。その適正性担保のため、公認会計士がチェックし、大手監査法人であればメンバーファームの検査も受け、公認会計士協会のレビューも、金融庁公認会計士・監査審査会のチェックも経るという「重層的な構造」になっています。

多くの人々が企業の財務情報を信頼して利用することができるのは、こうした「重層的な構造」のチェックの結果です。監査の貢献は外部からは見えにくく、監査は決して派手な仕事ではありませんが、目に見えないところで監査が不正を防止し、財務情報の信頼性を高めている意義は極めて大きいのです。その意味で、監査は企業価値を向上させているといえます。

日本をリードする企業を中心に、公認会計士監査に対する期待が高まっていることは全くの事実であり、その期待に応えられる監査実務、つまり監査現場が生き生きとしているか、という点が課題です。

(佐々木)そこでいう監査に対する「期待」ですが、単に数字が正しいことに対する期待なのか、それ以上の付加価値を求めているのか、経営者が求めているものはどのようなものでしょうか。

(千代田)財務諸表監査なので数字の正確性が前提となりますが、現金預金以外は見積もりの数字が多く含まれています。実は、経営者も見積もりが実態を示しているかどうか、不安なのです。こうした不安や経営者も気づかないリスクを監査人が適切に把握し、経営陣と議論ができれば、企業・経営者としてもよい監査をしてもらっているなと確信するはずです。

他方、デジタル化によって、形式的な帳票の突合等はAI・ロボティクス等が行うことになります。これは避けられません。しかし、これらの “インスツルメント“ は監査人にとっては手段です。それらに知見を与えることができるのは監査人です。主人公は監査人なのです。こうした流れの中で、監査への期待と魅力も高まっているのです。

(佐々木)見積もりのお話が出ましたが、現在は、厳密に言えば監査の対象ではない非財務情報、ESG/SDGsに対しても企業としては開示が求められており、こうした開示情報への担保に対する投資家サイド等の期待もみられます。これについての監査の役割についてはどのようにお考えでしょうか。

(千代田)数字だけではなく、文章で示された非財務情報も含む「統合報告書」に対する監査の役割は着実に増えています。これについては従来の監査だけでは対応できません。統合報告書における非財務情報の内容の担保については、制度としてはまだ確立していませんが、監査・コンサル等による外部専門家による第三者報告等が現に行われています。

(佐々木)監査の役割として、(ⅰ)制度化されている財務情報の適正性、(ⅱ)制度化はされていないが財務情報を補完する非財務情報の信頼性担保のほか、企業経営者からは、(ⅲ)他社動向等を踏まえた上で、会社が気がついていないリスクや収益機会等を示唆する役割・ニーズもあるのではないかという指摘も聞かれます。この点についてはどのようにお考えでしょうか。 

(千代田)現行の制度でも、有価証券報告書で該当会社のリスクを示すこととされています。企業のリスクは多様化しており、ここにプロフェッショナルが関与する余地は大いにあります。例えば、会社の10年、15年のデータを活用し、AI等に読み込ませて見えないリスクを顕出するといったやり方が考えられます。

現状、監査法人において、このような分析の裏付けとなる過去のデータの蓄積は必ずしもなされていないのではないかと思われますが、もしこのようなデータベースがあれば、5年後・10年後の将来予測等について監査人の「力」となり、会計上の見積もりの妥当性の議論等にも大いに活用できます。そして、それ以上に別の付加価値を企業に提供することできます。データベースに含まれる同業他社の推移や産業動向、国際的な比較・分析等により入手した情報を武器に、「攻める監査」が求められているのです。

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デロイト トーマツ グループ 佐々木上級顧問

2.求められる「監査の質」

(佐々木)監査に期待される役割として上記(ⅰ)~(ⅲ)の3つの役割があり、(ⅱ)(ⅲ)への期待が高まってくるとすると、監査の質も、(ⅰ)財務諸表の適正性を前提とした場合の監査基準への準拠性から、質の中身が変わってくるようにも思われます。この点についてどのようにお考えでしょうか。

(千代田)非財務情報等に関しては、将来の可能性を踏まえた「仮定」に基づく議論となり、これらは財務情報にかかる基準の準拠性とは異なる議論となります。「監査」を広い意味で捉えれば、監査の質の多様化と高度化によって、付加価値を提供することは大いにあり得ます。そのためには、監査だけでなく、監査法人グループ全体の知見を活用すべく、グループ全体としての横串・横断的な議論をしていく必要があります。

3.監査の独立性

(佐々木)監査への期待が上記(ⅰ)~(ⅲ)に拡がってくると、監査の質のみならず、スコープも変わってきて、この関係で監査の独立性の意味合いも変わってくるように思われますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。

(千代田)現状は、少なくとも同一会社に対しては監査と内部統制システムなどに係るコンサルティングはできず、かつ、グループ内で “ウォール” を設ける必要があります。デジタル化が進展する今後は、監査法人グループとして、適切なウォールを設けながら、監査チームのみならずグループ全体の総合力を高めていくことが不可欠です。繰り返しになりますが、グループ間の横の連携を強化することで、監査の質も高まるし、監査人もより魅力的な監査を行うことができます。

監査業務も、仕訳後のデータの裏付けの検証を中心とするマニュアル化された監査ではなく、仕訳自体が実態に合っているかどうかを、職業的懐疑心をもって確認する等、実態に焦点を当てて、「監査の質」をいっそう高めていく必要があります。

(佐々木)各国当局の現状等をみると、会計不正等を受けてますますルールベースで監査・被監査を分離する方向に進んでいるようにもみえますが、この点についてどうお考えでしょうか。

(千代田)企業活動が巨大化し国際化し情報化する中で、これに対応する監査を実施するためには監査法人の規模の拡大は避けられません。そして、監査の質を高めるには、やはりグループ全体としての実力を着実に高め、被監査会社に対して総合的に対応していく必要があります。海外の提携会計事務所との強化は喫緊の課題です。

監査と非監査(アドバイザリー)を完全に分離する、つまり別会社にするという考え方には賛成できません。なぜなら、監査からするとAI化等に対処するための十分な収入、つまり監査報酬が得られるのか、むしろ難しいのではないかと考えるからです。言うまでもなく、監査報酬は被監査会社からの報酬に依拠しているのでハードルが高いのです。

4.監査のミッション・ビジョン・バリュー

(佐々木)監査への期待は高まっている一方で、これに応えられず、かえって遵守すべき基準や手続が増えてしまっている現状もあります。こうした現状の中で、監査現場で監査に携わる人材に向けて、何らかメッセージ等あればいただけますでしょうか。

(千代田)その点は、監査のミッション(理念)・ビジョン(目標)・バリュー(各公認会計士の心構え)に尽きます。監査の “クライアント” とはあくまで “public” であり、まさにステークホルダーのための監査です。それは、社会的に価値ある仕事です。何のために自分は公認会計士として監査業務に携わっているのか、自らの存在意義は何なのかなどを考えることによって、見えてくるものが違ってきます。こうした監査のミッションを現場、監査法人全体にいかに浸透させていくかが、監査の質を高めていく上でもきわめて重要となります。

なお、守秘義務を理由に公認会計士が情報提供に消極的な傾向にあることも気になるところです。公認会計士と被監査会社とのコミュニケーションも不足しており、守秘義務等を理由に十分な議論がなされていない場面もあるように見受けられます。

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写真左からデロイト トーマツ グループ 佐々木上級顧問、千代田邦夫先生

【インタビューを終えて】

監査の役割が、財務情報の適正性担保のみならず、非財務情報の信頼性担保等に拡がっていく流れの中で、こうしたニーズへの対応のみならず、伝統的な財務情報の適正性担保においてもテクノロジー等を活用した様々な付加価値の提供があり得るとのご示唆は、長年にわたって会計・監査の研究・実務に携わってこられた視点ならではのものであった。